『人民の星』 5964号1面 2015年2月14日付

安倍政府 農協解体し地域を破壊 農業を大企業の食い物に

 政府・自民党と全国農業協同組合中央会(JA全中)が九日、農協改革で合意した。全中の監査・指導権をなくし、一九年三月までに一般社団法人に転換するというものだ。今時国会で農協改革法案を成立させようとしている。農協全国統一組織の実質的な解体である。そのことで全国七〇〇の地域農協をたがいに競争させたり、企業の農業参入(米日独占資本の直接収奪)に拍車をかけようとしている。農民から農地と農業をとりあげて地域を破壊し、全国の農家が一致団結して売国農政とたたかう組織的な保障をもぎとることでもある。しかも、アメリカ農産物の輸入を大幅に拡大し、日本人の胃袋をアメリカが支配するというもので、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の布石である。それは農家だけでなく、労働者をはじめ日本人民の未来を左右する問題であり、日本の独立、民主、平和、繁栄にかかわる問題である。

全中は一般社会法人へ 指導権限もぎとる TPP強行狙う
 政府・自民党と全中の合意内容は、全中を全国の地域農協への総合指導機関としての特別民間法人から一般社団法人にかえ、全国の地域農協にたいする全中の監査・指導権限をなくし、地域農協への監査は金融機関や企業とおなじ公認会計士による外部監査にかえるというものである。
 現在ある全中の監査部門は、あらたに監査法人に衣替えし、地域農協はこの新監査法人か民間監査法人か、どこかの監査をうけるようにする。そして全中が監査料として地域農協から集めていた負担金(年間約八〇億円)は廃止するとしている。
 また合意事項には、全中がこれまでもっていた、行政に意見をのべる「建議権」をなくすという項目ももりこまれている。
 全中改革の第一の狙いは、米日独占資本が農業に参入し日本農業を直接支配することにある。
 現在、全国には七〇〇の地域農協があり、地域的に、また作物別に全国をカバーしている。安倍政府は全中の一元的な監査・指導権をなくし、それぞれの農協を弱肉強食の市場原理で競争関係におき、よわい農協からつぶしていこうとしている。
 いま地域農協は全中の監査・指導のもとにあり、どこかで経営難におちいる農協が出ても全体で支援して破産を回避できるようになっている。九五年に住専問題がおこった。住宅専門貸付会社が経営破たんし、債権者である農協が巨額の不良債権をかかえこんだ事件だが、このシステムが機能して破たんした農協は一つもなかった。このシステムをなくして農協がつぶれるようにしようとしている。

農協をばらばらに 儲からない所はつぶす
 安倍政府は農協改革について「農家所得の増大のため」「農業を成長産業に変える」といっているがうそである。農協を資本主義企業体に変え、お互いに産地間競争をさせ、「儲からない農協」は倒産させる。そうすれば農協が管理していた農産物生産や販売などは農業企業があつかうようになり、米日独占資本に大きな利益がころがりこむのである。
 また農協は種苗や資機材、燃料などの供給から、農産物の集荷・販売、農家への貸付や預金引き受けなど、農業生産・農村生活にかかわる多彩な事業をおこなっている。農協によるコメの集荷率は四割弱までさがり農家の農協離れがすすんでいるとはいえ、いまなお農業生産のうえで農協のしめる位置は高い。農業への企業参入をはかる独占資本にとって農協はじゃまになっているのである。
 下関市でコメをつくる専業農民は「全国一元体制を崩して、単位農協をブランド競争にひきこみ、よわめさせて、つぶしていこうとしているのではないか。けっきょく企業が農協の領分をとろうとしているのだろう」と、農協改革の狙いを指摘している。
 おなじく花を栽培する農民も「企業が農業にはいっていくうえで、農協はいろいろとじゃまになるからこのさい消えてほしいというところだろう」と語っている。
 農協は戦後一九四八年に、GHQ(連合国最高司令官総司令部)によって、戦前の農業会を再編するかたちでつくられた。戦前の半封建的地主制度から戦後の資本主義的自作制度へと変えるなかで、農民を米日独占資本の収奪下におくパイプとしてつくられたのが農協であった。
 現在の農協は金融、経済、共済、販売の四事業からなっており、独占事業として、農家への種苗や農薬、肥料の販売、作付時期や作付け量など営農指導、農作物の販売、預貯金の管理や融資等等を一手におこなっている。
 種苗、飼肥料、農機具などを高く売り、農産物を安く買いつけて、その価格差で利益をあげたり、販売や集荷のさいに高い手数料をとったり、預金や貸付けなど金融事業などをつうじて、またみずからもライスセンターその他の企業経営を手がけることをつうじて、米日独占資本が農民を収奪するパイプの役割をはたしてきた。
 そうしたことから、農民のなかで農協にたいする批判が強いのも事実である。だが改革の実際は、農協のこうした性質をあらため、農民のためのほんらいの協同組合の性格をもたせるためのものではなく、逆に形式的であれ存在している協同組合の枠組み自体を破壊し、農民をばらばらにして、今後は農協を介さず米日独占資本が直接に農民を収奪するためにすすめられている。

農民の結束を奪う 「准組合員」問題で圧力
 こうした点とかかわって、農協改革には農協をつうじて農民が一致結束して政府に声をあげ要求を突きつけていくことをやめさせようという狙いもこめられている。これが今回の農協改革の第二の狙いである。
 コメと野菜を専業でつくる農民は「さしあたってTPPの問題があるのではないか。JAがTPP反対で動いているが、それをやめさせないとTPPがうまくすすまない。“重要五項目”をまもれなどといっていたのでは、アメリカへの妥協もできない。これからはTPP反対をいうなという(JA中央への)脅しもあるのではないか」といっている。
 先のコメ専業農民も「うるさいJAをだまらせるのも狙いだろう」として、つぎのように語った。
 「むかしは米価斗争というのがあった。東京にいってムシロ旗たてて米価をあげろとさけんだこともある。いまはJAもずいぶんおとなしくなって、そんなことはしなくなったが、TPP反対などはそれなりにやっている。むかしの米価斗争のようにならないように、いまのうちに芽を摘んでいこうと思っているのではないか」
 おなじく花農民も「多分、准組合員の問題で取引したのではないか」として、つぎのように語った。なお准組合員とは農業に従事してはいないが農協にはいっている人たちのことでふえつづけており、二〇〇九年度には全国で准組合員数が正組合員数を上まわっている。
 「准組合員のカネで農協がまわっている現状だ。准組合員制度をやめたら、農協経営はもたない。農協金融は、銀行などとちがって担保など融資の条件が緩い。だから銀行からカネを借りられない人たちが准組合員になって融資をうけたりしている。JA中央は、安倍から准組合員制度をやめるぞとおどされたのだろう。それで妥協したのだと思う。あれだけ反対といっていたのが、ころっとかわるのはそうしたことだと思う」
 今度の改革案では、当初案にあった「准組合員の規制」は見送りとなっている。
 農協にはなお多くの農民が組織されているという現状から、当然にも農民の怒りも反映してくる。これにたいして幹部といえども農民の怒りと要求を無視することはできず、反動農政反対の側にたつか、そのポーズをとるかのどちらかの態度をとらざるをえない実情がある。
 全中改革には、こうした組織的条件をつぶす狙いがある。農家のTPP反対の声を封じようとしているのである。改革案に、「建議権」の廃止をもりこんだことはそれを象徴している。
 農協改革はTPPなどと深く結びついている。TPPは日本の農産物関税を実質的に廃止し、「非関税障壁」を撤廃することによって、アメリカ農産物で日本市場を占拠させ、日本農業を壊滅させ、食料で日本を支配・収奪することに一つの狙いがある。
 そのうえで米日独占資本は、当座は日本農業を徹底的に収奪しつくそうとしている。

市場に飢える米日独占 農業に触手のばす
 その手段の一つは企業農業の展開である。
 安倍政府は農業生産法人への出資規制の緩和(議決権ベースで二五%以下から五〇%未満に緩和)などをうちだしている。農業生産法人は独占資本が農業に進出するうえでの道具だが、その設立要件を緩くすることで、進出しやすくしようとしているのである。
 二つ目に農産物の徹底的な買いたたきである。
 象徴的な措置は、昨年産米の仮渡し金の大幅な引下げであった。米価(六〇`)がいっきょに三〇〇〇円も下がり、七〇〇〇〜八〇〇〇円と農家が再生産を維持するために必要な経費(約一万六〇〇〇円)の半分という値になった。これでは農家経営はなりたたない。
 そのため零細農家はもとより、「担い手」と位置づけられている大規模農家、営農集団への打撃は大きく、「日本から農家を一掃するつもりか」と怒りの声があがっている。
 三つ目に農協の金融資産の強奪である。
 安倍政府は地域農協の「JAバンク」など金融事業を農協からきりはなし、農林中央金庫や信用農業協同組合連合会にうつすという方向をうちだしている。
 JAバンクの貯金残高は九〇兆円をこえており、三井住友銀行とほぼ同規模の巨大な資産をもっている。JAバンクなどの金融事業を農協から分離することで、金融事業の基盤をよわめ、ゆくゆくはその資金を米日金融資本が横取りすることをねらったものだ。
 四つ目に農業委員会の改革である。
 農業委員会はもともとは農業振興のための組織だったが、いまは農地にかんする事務を実行するのがおもな業務になっている。所有者の個人的意思のみで田畑の売買処分や地目の変更ができないよう、農業委員会には強い権限があたえられている。農業委員会は教育委員会同様、市町村ごとに設置が義務づけられ、委員は市町村の選挙管理委員会の管理のもと農家による選挙でえらばれる。そのため委員を首長の任命制にかえることによって農家の意思がとおらないようにし、しかも統廃合で農地管理の権限をよわめることで、独占資本が農地を手にいれやすい条件をつくろうとしている。
 安倍政府はさらに、農業委員会の機能として遊休農地対策の強化を強調している。あわせて農地利用推進員の新設もとなえている。従来の農家の農地を保護する機能から、農家から農地をとりあげる機能への転換である。だから委員から農家を排除しなければならないのである。
 こうして大規模農家をふくめ日本から農家を一掃し、利益のでる沿岸部沖積平野の広大な農地は独占資本がうばって企業農業なりを展開しつつ宅地や商工業用地に転用していき、利益のうすい中山間地は切りすて、最終的に日本農業を消滅させ、食料はアメリカ農産物に完全依存させようとしているのである。
 これは米オバマ政府の戦略である。アメリカは食料の面からも日本支配を強め収奪しつくすためにTPPをおしつけてきた。安倍政府はオバマの手代としてそれをうけいれるために農協改革をうちだした。日本をアメリカの完全な植民地にしようというのである。問題は、農家だけでなく、全国の労働者、勤労人民の未来、運命にかかわることである。
 日本の独立、民主、平和、繁栄にかかわる問題として、TPP参加をほうむりさり、市場原理主義による政府の農業改革をつぶさなければならない。