『人民の星』 5971号3面 2015年3月11日付
大阪市 生活保護支給をカードに 米Visaが食い物
大阪市は今年四月からプリペイドカードで生活保護費を支給するモデル事業をはじめようとしている。背後にいるのはアメリカのカード最大手のVisa(ビサ)である。Visaはプリペイドカードで日本でのカード事業を拡大しようとしている。しかもそれを安倍政府の支援のもとで日本全国の公的福祉にひろげ、公的福祉を食いものにしようとしている。
加盟店でしか買物不能
モデル事業について、大阪市は、三井住友カードと富士通総研の事業提案を採用し、三者の協定をむすんだ。このほか、ビサ(Visa)・ワールドワイド・ジャパン、NTTデータも事業に参加・協力している。
大阪市長・橋下、大阪市は昨年一二月二六日、「ギャンブルや過度な飲酒等に生活費を費消し、自立にむけた生計、生活設計を立てることが困難な人の支援が必要」といい、二〇一五年四月からプリペイドカードで生活保護費を支給するモデル事業を実施する、と発表した。
モデル事業とは、生活保護世帯にだされる生活扶助費(単身世帯で月額約八万円)のうち三万円分をVisaプリペイドカード(三井住友カードが発行)による支払いにするというものである。そしてカードでVisa加盟店での買物をしたり、インターネットでの買物をさせる。
無理通すのが橋下のやり方
二〇〇〇人ほど「希望者」をつのり今年四月からはじめ、半年から一年の試行状況を検証したあと、生活保護利用者全員を対象として本格的に実施しようとしている。プリペイドカードをつかった公的給付は全国ではじめてである。
モデル事業に、さまざまな団体が批判し、撤回をもとめる声明や申入れがあいついでいる。
福祉関連の仕事にたずさわる自治体職員は「生保受給者に生活扶助費の一部をカードで支給すると新聞で大大的に発表しているが、本人の承諾なしにはカードなどできない。橋下市長は本気でできると思っているのか。それともアドバルーンか。それなら当事者がえらい迷惑だ。現場の人間の感覚としては申請する人などまずいない。多分、末端のケースワーカーが案内の書類を渡し、申請のお手伝いもすることになるが、率先してやる職員などいない」と批判している。
別の自治体職員は「どこまで人を馬鹿にしているのか。生保世帯へのプリペイドカードの導入は、法律的にもおかしい。生保世帯への生活扶助費の支給は現金が基本だ。法的に違反していても関係なく導入するのが橋下のやり方だ。裁判になって、あらそわれても何年もかかり、結局うやむやにされてしまう。大阪都構想、特区構想、どれも市民・労働者を犠牲にしてすすめられる」と橋下を批判している。
日雇い労働者も「プリペイドカードは釜ヶ崎では、使える店がない。せいぜいコンビニくらいだ。地元の商人も反対している。賛成しているのは、三井住友銀行と信販会社ぐらいだ。大阪市がなぜ、市民よりも、しかも生活にこまっている市民よりも銀行を優遇するのか」と橋下市政への怒りを語っている。
プリペイドカード支給の問題点は、生活保護をはじめとする公的福祉の分野に、Visaというアメリカの最大手のカード会社とその手先である三井住友などがはいりこんで、食いものにすることである。橋下市政、安倍政府がそれを後押ししている。
公的福祉食いあさる米資本
モデル事業について三井住友カードなど四社が発表している資料では、プリペイドカードが「アメリカを中心に海外では政府機関による各種公的給付において広く活用」されているとして、アメリカを見本にしていることをあきらかにしている。また事例として、アメリカでは児童手当や災害手当などの各種給付がVisaプリペイドカードによる給付となり、二〇一二年には年間一〇〇億j(約一兆二〇〇〇億円)以上にのぼっていることをあげている。
また発表資料で、四社は、全国自治体への展開をすすめるとし、「政府の日本再興戦略における具体策の一つである、公的分野での電子決済の利用拡大をふくむキャッシュレス決済の普及をめざす」としている。
モデル事業にあたって富士通総研は、「プリペイドカード行政活用フォーラム」(行政機関職員、大学・研究機関職員が対象)を設立した。設立の「お知らせ」では、活用が想定される分野として生活扶助費とともに、地域商品券・振興券、失業保険、児童手当、災害見舞金などをあげている。
また政府が二〇一六年からくばりはじめる社会保障と税の共通番号カード(マイナンバーカード)とくみあわせることも可能だと強調している。共通番号カードはアメリカの社会保障カードをまねたもので、人民にたいする国家管理と税収奪をつよめるものである。
政府は共通番号カードにクレジットカードなどの金融機関での決済機能をもたせ、カードで税金を電子納付させようとしている。この計画に、プリペイドカードもいれこもうとしている。
カード四社と大阪市はVisaのカード市場を公的分野にひろげるとともに、それをテコに加盟店(現在、国内約四五〇万店舗)を拡大しようとしている。
大阪市の生活保護世帯は一一万七五〇〇世帯(二〇一四年一一月)で、大阪市の生活保護予算(二〇一三年度)は約二九〇〇億円となっている。そのうち現金で支給される生活扶助額は約一〇〇〇億円である。
三井住友カードに1千億円
かりにプリペイドカード支給が全世帯で実施されれば、カード発行元の三井住友カードは、大阪市から一〇〇〇億円が手にはいることになる。プリペイドカードによる買物では、加盟店は二〜三%程度の決済手数料を三井住友カードにはらう。Visaがその上前をはねる。
Visaは、プリペイドカードの浸透に力をいれている。Visaと提携してカードを発行している会社の統括期間であるVJ(ビサ・ジャパン)協会傘下の会員数は三一九一万人、カードでの売上高(二〇一二年度)は一一兆六四億円である。その七割を三井住友カードが占めている。
プリペイドカードは前払いのカードなので、クレジットカードのように会員になるのに審査や銀行口座を必要とせず、主婦などこれまでクレジットカードをもつのが困難な層に客層をひろげることができるとふんでいる。同時にいま世界的に市場競争が激化しているインターネットショッピングの決済手段として利用できるとしている。
いまアメリカや欧州などでは、デビットカード(クレジット機能がなく預金分しか決済できないため審査がない)とプリペイドカードの取扱高、決済件数がクレジットカードを大きく上まわっている。
このなかでVisaは、生活保護をはじめとする公的福祉の分野にふみこもうとし、これを安倍政府が後押ししているのである。
橋下がモデル事業を発表した同じ日、安倍政府は「日本再興戦略改訂二〇一四」の一環として、二〇二〇年の東京オリンピックにむけアメリカ型のカード社会にかえる「キャッシュレス化にむけた方策」を発表している。このなかに「公的分野の利用拡大」の項をもりこんでいる。
戦後七〇年をむかえるなかで日本社会は政治、経済、軍事、文化・イデオロギーのあらゆる面でアメリカの支配がつよまっている。公的福祉をプリペイドカードでVisaがくいものにしようとしていることもその一環である。
大阪市の生活保護のプリペイドカードモデル事業は、全国的な問題であり、人民の世論と運動で阻止しなければならない。