『人民の星』 5984号2面 2015年4月25日付

電力 今夏も原発ゼロで足る 米日独占儲け第一で再稼働・輸出

 経済産業省は一六日、 電力九社の今夏の電力需給見通しについて発表した。 各社とも供給予備率が安定供給の最低限とされている三%を上まわり、 この夏も原発ゼロでもやっていけることがあきらかとなった。 原発に依存しなくとも日本経済がなりたっているということは、 日本がアメリカへの従属をたちきって独立を実現していくうえで重要な意義をもっている。
 原発なしでは日本はやっていけないような宣伝がされてきたが、 それはまったくのデマゴギーであった。 にもかかわらず、 安倍政府があくまで原発を推進するのは、 米日支配階級の政治的思惑があるからである。
 経産省によれば、 沖縄電力をのぞく電力大手九社の、 電力供給の余力をしめす予備率は、 三・〇~一二・一%となり、 昨年並の猛暑でも原発なしでやっていける。 原発再稼働の見込みのまったくたたない東電も火力による発電体制を強化した結果、 予備率を昨年の九・三%から一一・〇%にのばしている。 九州電力の予備率は三・〇%ぎりぎりだが最大需要一六四三万㌔㍗にたいし供給力は一六九三万㌔㍗を確保した。 火力や太陽光発電などが増強されている。

電力自由化で火力発電急増
 電力自由化がせまるなかで、 電力会社のみならず各分野の独占資本が発電事業への参入を拡大している。 巨大な需要のある首都圏はその草刈り場となっている。 現在あきらかにされている計画でも、 東京湾の臨海地区に大型火力発電所建設があいついでいる。
 関西電力と東燃ゼネラル石油はさいきん、 共同で一〇〇万㌔㍗級の石炭火力を建設することをあきらかにした。
 九州電力と出光興産、 東京ガスも共同で最大二〇〇万㌔㍗級の石炭火力の建設をきめた。 中国電力とJFEスチール、 東京ガスも共同で一〇〇万㌔㍗級の石炭火力を検討中である。
 JX日鉱日石エネルギーと東京ガスはLNG火力を一六〇万㌔㍗級に増強し、 東京ガスと昭和シェル石油もLNG火力を一二二万㌔㍗級に増強するなどの計画をすすめている。 石炭火力は原料の石炭価格が安いのにくわえ、 微粉炭火力による超超臨界圧発電 (高温・高圧の水を使う) や一つのボイラーでガスタービンと蒸気タービンをまわすコンバインドサイクル方式で、 熱効率が一・五倍に高まるなど、 より安価で大電力が得られる発電方式が急速にひろがっている。
 日本の電力会社の発電設備容量は二億三〇〇〇万㌔㍗ (二〇一二年) でこのうち石炭火力は六〇一一万㌔㍗で、 石炭火力は発電の二五%をまかなっている。 現在、 全国で計画されている石炭火力発電所が建設されると一〇年後には発電容量は一七〇〇万㌔㍗増大する。 電力自由化のなかであらたな発電として石炭火力が採用されているが、 そのことは、 原発が経済的には競争力をうしなっているということである。
 しかし、 首相・安倍は、 福井地裁が高浜原発3、 4号機の再稼働をみとめない仮処分の決定をだしたことに関して 再稼働をすすめていくのが政府の一貫した方針だ と、 国会で答弁している。

損陪条約で事故責任を除外
 また、 四月一五日から 原子力損害の補完的補償に関する条約 (原発損陪条約=CSC) が発効した。 昨年一一月に同条約を国会が承認し、 今年一月に日本政府が署名したことによるものである。
 原発損陪条約は、 一九九七年に締結され、 参加しているのはアメリカ、 アラブ首長国連邦、 アルゼンチン、 モロッコ、 ルーマニアの五カ国だけで、 参加国の原発の出力が条約の条件をみたさず、 日本が参加することでようやく発効した。
 この条約は、 賠償のため締約国が最低四七〇億円を準備し、 これをこえる賠償額については条約加盟国の拠出金をあてるとしている。 だが、 福島第一原発事故では損害賠償額はすでに四兆円をこえており、 この条約による損害賠償は被害者の人民にとっては焼け石に水である。
 ところが同条約は、 独占資本にとってはきわめて都合のいい内容となっている。 事故の賠償責任は原子力事業者 (電力会社) のみがとり、 原子力機器メーカーは責任を除外される、 国境をこえる災害発生時には損害賠償請求に関する裁判は事故発生国においてのみおこなう、 としているのである。
 この条約は、 原発の輸出をすすめようとしている原子炉メーカーにとっては事故がおこっても免責される有利なものだが、 いまのところ加盟国はわずか五カ国で、 これから輸出しようとしている国は同条約にまだ未加盟で、 ただちに効力を発揮するものではない。
 しかし、 この条約を日本とアメリカの関係に適応すると、 アメリカの技術者、 労働者が福島第一原発の事故処理にかかわって被ばく等の事故に遭遇した場合、 アメリカの事業者は自国での損害賠償訴訟からまぬがれ、 日本の事業者が責任を負うということになる。 アメリカ政府が日本に条約批准をせまった理由がそこにある。
 アメリカ国内では、 天然ガスの低価格などによって原発はまったく競争力をうしない、 今後廃炉処理がふえるとみられている。 また、 日本の二四倍の国土をもつアメリカでも、 放射性廃棄物処理場はきまっていない。

原発押し付け支配する米国
 こうしたもとでアメリカ政府と独占資本が日本に原発をおしつけるのは、 日本にたいするエネルギー支配を維持したいからである。 日本は、 アメリカに従順にしたがうなかでしか原発を運転できない。 法的にも技術的にも資源 (ウラン) 的にも日本の原子力発電はアメリカに生殺与奪権をにぎられている。
 また、 商業用原発の製造工場はアメリカにはなく、 製造は日本の製造メーカーがになっている。 アメリカは原発から日本が撤退することをゆるさないのである。
 一方、 日本の支配階級にとっては、 将来の核武装のために原子力技術を保持しておきたいという狙いがある。 いまや原発は、 事故がなくても廃炉や放射性廃棄物処理に巨額の費用がかかり、 ひとたび事故がおこれば現在進行中の福島第一原発事故がしめすように、 電力会社の損害賠償能力をはるかにこえた被害をもたらす。 まさしく、 危険で割高の原発をアメリカから押しつけられ、 巨大事故までおしつけれられたうえ、 今後は廃炉や廃棄物処理事業でもアメリカの餌食にされようとしているのである。 しかも戦争になれば原発は標的となる。
 安倍政府の原発推進政策がいかに売国的なものであり、 日本を放射能まみれの汚染地帯にし、 米日独占資本だけが巨大な利益を得る異常なものであるかは明白である。