『人民の星』
6031号1面 2015年10月10日
日本を売り渡すTPP 秘密裏に“大筋合意”
農業破壊へ段階画す 安保法制と一体
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉をおこなってきた一二カ国が五日朝に共同記者会見をひらき、交渉が大筋合意に達したとする声明を発表した。アメリカ・オバマ政府が強引におしきった今回の交渉では、安倍政府の甘利TPP担当相が必死にアメリカのために「合意」をとりつけようと奔走し、対米従属ぶりを発揮した。TPPは中国封じ込めをねらったアメリカのアジア・太平洋戦略の柱だが、日本を徹底的に収奪することが一貫した狙いである。農家をはじめ広範な人民のなかで、傲慢なアメリカとかれらにすべてを売り渡し日本を破滅に導く売国安倍政府への怒りがたぎっている。TPPの国会批准阻止が、安保法廃止、安倍政府退陣とあわせて国民的運動の課題となった。
国会批准阻止し粉砕しよう
一二カ国の「TPP大筋合意」は、延長につぐ延長で実現となった。奔走したのは安倍政府の甘利だった。
会見の席上、甘利は、「世界の経済の四割をしめる一大経済圏が形成される」「日本とアジアの経済が活性化する」「輸入物が安くなる」「重要五項目の例外化は堅持した」「こんご農業への対策が必要だ」とTPPが、日本にとってよいことづくめであるかのように報告した。商業マスコミもこぞって「大筋合意」をもてはやした。
しかし、「大筋合意」の実態は以下のようにでたらめなものである。
●コメ―日本について関税はこれまでどおりだが、無関税でうけいれる輸入枠をつくる。その輸入枠は当初三年はアメリカから五万㌧、オーストラリアから六〇〇〇㌧輸入する。しかも段階的にふやして、一三年目以降はアメリカから七万㌧、オーストラリアから八四〇〇㌧輸入する。
●牛肉―日本について、現行は関税三八・五%だが段階的にひきさげ、一六年目以降は九%にする。
●豚肉―安い価格帯のものへの関税を現行四八二円(一㌔)から段階的にさげ一〇年目以降は五〇円にする。
●乳製品―バターと脱脂粉乳について低関税の特別輸入枠を新設し、当初は生乳換算で六万㌧を輸入し、六年目以降は輸入量を七万㌧にする。チーズなどは一六年目までに関税を撤廃する。
●小麦―アメリカ、カナダ、オーストラリアからの輸入枠をあたらしくきめ、当初は一九・二万㌧を輸入し、七年目以降は二五・三万㌧にする。政府が輸入して製粉会社に転売するときに上乗せする「輸入差益(関税と同等)」は発効から九年目までに四五%削減する。
●水産物―マグロ、サケ、マスなどは一一年目までに、アジ、サバは一二~一六年目までに関税を撤廃する。
以上のように、安倍や甘利が「農産物五項目について関税撤廃の例外にすることができた」と平気でだまそうとしているが、輸入数量を大幅に拡大したり、関税を大幅にひきさげることを約束した。
さらに「大筋合意」にはつぎのようなものがある。
●自動車―アメリカが日本車にかけている関税(二・五%)を一五年目以降に削減開始し、二五年目で撤廃する。自動車部品は八割以上で即時撤廃する。
●自動車の原産地規則―TPP域内で生産された部品を四五%以上使う場合に優遇措置を適用する。
自動車は海外生産がふえているので合意といっても実際的な効果はないにひとしいと多くの人がいっている。
●医薬品―製薬会社に独占的販売をみとめるデータ保護期間を実質八年とする。
特許期間のことで、アメリカは一二年といい、医薬品資本が長期に儲けられるようしようとしたが、オーストラリアなどが抵抗し、特許期間は五年と要求し、決裂寸前となったが、日本が仲介役として八年をもちだし、折り合いをつけた。
のさばる米国資本 あるゆる分野で収奪
「大筋合意」にはそのほかにも日本経済を破壊する重大な項目がある。
●「労働力自由化」
日本で一〇〇万人といわれている外国人労働者をもっとふやすことを協定にする。派遣労働者や期間工など非正規労働者とあわせ、無権利、低賃金の労働力として使いすてにする体制である。
●金融・サービス、社会保障、教育などあらゆる社会活動の市場化。営利事業化。
典型は医療で、日本の国民皆保険制度をくずし、アメリカの保険資本や製薬独占資本が、高い医薬品をおしつけたり、アメリカ保険会社が治療程度を判断し、カネのないものは治療をうけられなくなる。アメリカ保険会社が虎視眈眈と日本市場をうかがっている。
●サービス(金融)自由化
アメリカは日本のTPP交渉参加の条件(事前協議)として、郵貯銀行・かんぽ生命が儲けを拡大しないように要求している。アメリカの銀行や保険会社の利益のさまたげにならないようにという要求である。郵貯銀行とかんぽ生命の株式上場にアメリカ金融資本が目をつけ、株式取得で郵貯銀行とかんぽ生命を支配しようというもの。
●政府調達の自由化
年間二〇兆円台の公的固定資本形成(公共事業)をアメリカ資本に開放させる狙いがある。
●ISDS(投資家対国家の紛争処理)条項
企業が政府を訴え、自分の営利活動に有利なように制度をかえさせ、賠償金までふんだくる制度である。日本へ進出したり、輸出したりするとき、アメリカ資本が、日本の政策でかれらの思うほどには儲からないと「判断」すれば、アメリカ主導の世界銀行傘下の国際投資紛争解決センターに提訴する。そこでは「投資家の損害」だけを基準に非公開の審理がやられる。判決がでると、日本政府は有無をいわさず何千億、何百億という単位で賠償をとられる。公訴権はない。
秘密とウソの安倍 アメリカに譲歩かさねる
TPPはオバマ政府の「アジア・太平洋戦略」の柱の一つで、安保法とむすびついた対中国の経済戦争の手段であるが、もっとも破壊されるのは日本である。
安倍自民は、民主党政府の時期、「TPP交渉には参加しない」といっていた。ところが内閣の座につくと「重要五項目の撤廃について例外とすることがなければ交渉には参加しない」といっていたが、オバマと会談するとすぐに安倍は「五項目について例外にすることが確認された」とウソをついて交渉参加にふみきった。
交渉に参加すると日米二国間協議がTPP交渉の成否をきめるなどといって、交渉成功が日本にとってよいことででもあるかのようにいいだし、牛肉、豚肉などつぎつぎにアメリカへの譲歩策をくりだし、ついにはコメをあらたに七万㌧も輸入するという約束までした。国民をだまし、農民をだましてアメリカ農産物を大量に日本がうけいれることを約束したのである。アメリカが譲歩したという話はなにもない。安倍晋三は六日、「日米がリードして自由、民主主義といった価値を共有する国国と自由と繁栄の海をきずきあげる」といったがアメリカ巨大資本の自由になるルールがTPPであり、これを安倍らが呑み、日本の農業と全産業を売ったのである。
農民のなかで斗争の意欲がひろがっている。
TPP加盟の各国政府は、これから細目をつめて最終協定に署名し、それを国会で審議し批准して成立させねばならない。TPPは加入国GDPの合計で八五%以上をしめる六カ国以上が承認しなければ発効しないことが条件である。とくに米日が批准できなければ成立しない。これから国会審議にかけられることになるが、批准を阻止すれば、TPPを阻止できる。これまで以上の全国的な運動をまきおこし、TPPの国会批准を阻止するたたかいを安保法制の廃止などともむすびつけて強めよう。それは独立、民主、平和、繁栄の日本をつくるたたかいである。