『人民の星』 
  6032号1面 2015年10月14日
岩国でアメリカ村計画 全市を米軍の街に
安倍の「地方創生」で市議会と市が考案

 米海兵隊岩国基地のある山口県岩国市では、多くの勤労市民が、郷土の平和的な発展を切望し、基地の増強に反対し、基地がなくなることをのぞんでいる。しかし、戦後七〇年ものあいだ、岩国には米軍基地が居すわり、それどころか、厚木基地(神奈川県)にいる空母艦載機五九機を岩国基地に移転させる計画がすすめられている。そしてまた、安倍政府が安保法制を強行成立させるなか、岩国市議会の議員や市当局、一部商工会議所幹部が、「地方創生」にかこつけて米軍や自衛隊のために岩国を「アメリカ村」にする提案書をだすまでになった。勤労市民のなかでは怒りの声があがっている。

軍需産業の誘致も提案
 問題の提案書は、岩国市議会の地方創生総合戦略調査特別委員会(委員長・阿部秀樹)がだしたもので、「まち・ひと・しごと創生総合戦略提案書」というものである。九月定例議会を前にした八月三一日に市長・福田良彦に、市議会議長・桑原敏幸がその提案書を手わたした。
 提案書は、昨年一一月に安倍政府が成立させた「まち・ひと・しごと創生法」が、都道府県および市町村に「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の基本計画を作成することを義務づけたことをうけるというかたちでつくったのである。
 提案書は「基地との共存」を眼目に「岩国市に活気を取り戻し、魅力ある街へ変貌を遂げることを目的としている」といい、第一の柱である「しごとづくり」で、「航空機産業の誘致」をあげている。
 現在、岩国基地には海上自衛隊が米軍といっしょにいる。ここにUS2という救難飛行艇が配備されている。救難飛行艇を製造しているのは新明和工業(本社・兵庫県宝塚市)で、そのグループ企業が岩国基地でUS2などの保守・整備をおこなっている。提案書は、保守・整備だけでなく、製造工場を岩国に誘致する案をだしている。直接には、安倍政府がこのUS2をインドなどに輸出する計画をだしたことから、その生産のために新工場建設を誘致するという。
 しかもこのような「雇用の場」ができるので、ゆくゆくは、岩国工業高に「航空学科」をつくることや航空専門大学を誘致するといっている。軍需産業に高校や専門大学をひきこむというのである。岩国基地の増強とかかわった軍需産業の誘致である。
 農業についても「特区による民間人法人経営の推進」をうちだし、企業経営農業の導入つまり零細農業のなぎ倒しを提案している。
 第二の柱の「まちづくりとひとの流れ」では、露骨に「アメリカ村の設置」をあげている。米軍基地がある川下地区を特区にし、「アメリカ村」を創設するというもので、昼は免税店をふくめた商業地域にし、夜は飲食業を中心とした「国際交流の街」にするというものである。米兵や関係者のための免税店と遊興施設の提供である。
 厚木基地の空母艦載機が移転してくれば、米兵や家族は約一万人と現在のほぼ二倍になる。それらは基地内外に大勢住むようになる。このために川下地区を文字通り「アメリカ村」「米軍の街」にするのである。
 その他の施策でも、航空博物館(旧軍・自衛隊、米軍)の建設など、米軍関係と箱物建設を多くあげている。航空博物館は、旧海軍基地、戦後の在日米軍基地、海自基地の歴史や各種資料を展示する大規模なものとしている。
 こうした議員提案の施策を、福田良彦・岩国岩国市政は積極的にとりこむかたちで、「岩国市まち・ひと・しごと創生総合戦略(素案)」を作成し、九月一一日から一〇月九日まで意見を公募した。

米軍に尽くす岩国市政
 「素案」は抽象的な表現だが、「多文化共生社会を推進するため、青少年の海外派遣や基地内大学就学の促進をおこなうとともに……基地を活かした人材育成や地域経済の活性化を図ります」とし、市議会提案の「アメリカ村の創設」「航空機産業の誘致」「航空博物館の建設」などをもりこんだ。
 しかも岩国市は、中心市街地の活性化を名目に、JR岩国駅周辺で再開発事業に着手しており、その一つである「岩国駅前南地区市街地再開発事業」のテーマを「日米交流」としている。
 第一が「“アメリカ”を文化の軸として明確に打ち出して集客を図る事。そして日米の交流に貢献する事」で、①日米交流センターをつくる。英語で様々の文化交流の講座を設けて、日米交流の舞台をつくる。子どものための英語教育の場をつくる。②FTZ(自由商業地域)をつくり米国の物産の販売をおこなう、などである。
 岩国市は山口県をつうじて防衛省技術研究本部の艦艇装備研究所(東京都目黒区)の地方移転も要請している。
 このようにして、米軍基地の拡大にともない、愛宕山を米軍住宅にしたり、基地内の住宅建設をはかったり、基地の施設そのものを拡充しているが、呼応して、議員や岩国市当局は岩国市全体を「アメリカ村」にする計画をだすにいたっているのである。それは岩国市全体をアメリカに売るというもので、安倍政府、自民・公明の安保法のごり押し成立をまっていたかのようにもちだされた。

基地増強と一体 吹き上がる市民の怒り
 こうした市議会や市当局の姿勢にたいし、ある三〇代の女性は「いま、岩国の街は極東最大の米軍基地にされようとしている。連日、一般道路を埋めつくす大型工事車両、基地内では大型クレーンが林立して、軍事施設や兵士の宿舎が突貫工事で建設されている。そうした状況は、明日にも戦争がはじまるのではないかとさえ感じる異様な光景だ。これに呼応するように“アメリカ村”とか“航空博物館”や戦時中に謎の爆沈をとげた“戦艦陸奥”の展示などの動きがある。岩国基地や岩国市が戦争やテロの標的にされることになってからでは手遅れだ」と批判し、「二度と戦争をくりかえすことのないように、みんなで力をあわせていきたい」と語っている。
 べつの女性も「岩国市政の基本計画があきらかになったが、その中身は“アメリカ村”に見られる米軍岩国基地を中心とした街づくりだ。米軍岩国基地の拡張工事、一方で駅舎の改築による商店街の街づくりもすすんでいるが、基地頼りが街の発展につながらないのは、これまでの経験からもあきらかだ。交付金をあてにした街づくりから発想を転換し、基地にたよらない市政、街づくりを真剣に考えるべきだ」と市や議会の姿勢を批判している。
 二〇代の男性も「これまでにも多額の基地交付金をうけとりながら、岩国市がどれだけ発展したのか。米軍岩国基地の整備、拡大のなか、将来基地がテロやさまざまな攻撃をうけるのではと不安をもつ市民は少なくない。基地依存の街づくり、旧態以前とした計画から脱却すべきだ。国防の名のもとに、将来の岩国が多くの犠牲をださないためにも」と語る。
 また、川下地区の六〇代の男性は「アメリカ村をつくるなどもってのほかだ。川下は基地があるからさびれてきた。いまでは商店もほとんどなくなり、さびしいものだ。さいきん楠の丸久(スーパー)もなくなり、個人商店も楠中津線の拡張のためにとりこわされ、年寄りのなかには買い物難民がでている。アメリカ村や川下特区をつくるというが、そんなことで川下が発展するわけがない。特区をつくって免税店ができればまわりの地域から反対がでてくるのは目に見えている。税金がはいらなければ市も国も収入がへる。けっきょく市民の負担がふえるのではないか。いつまでも基地交付金にたよっていては、いずれ破たんしていくしかない」と怒っている。
 川下地区をはじめ岩国市民は、戦後米軍と米軍基地がいすわってきたため、殺人や強姦、強盗、傷害事件などさまざまな犠牲と屈辱をおしつけられてきた。米兵の事件に泣き寝入りさせられてきたことは数知れない。岩国はもちろん日本全体がアメリカに支配され、その植民地的状態がもっと強められようとしているのである。
 岩国の街をアメリカ村にするな、アメリカは基地をもって帰れ、基地とアメリカに隷属しない平和な郷土をつくろうという声をひろげ、民族的な運動を発展させよう。