『人民の星』 
  6053号1面 2015年12月26日
戦争準備進める通常国会
焦点ぼかしに躍起 参院選しのぎ改憲へ

 新年早早の一月四日から第一九〇通常国会が開会する。安保法制に反対する人民斗争のほこさきをかわそうと安倍政府は、今秋から「アベノミクス第二ステージ」や「一億総活躍社会」「軽減税率」など「経済重視」を前面におしだしている。だがその裏で来年夏の参議院選挙で憲法改定の発議に必要な三分の二の議席の獲得をねらっており、アメリカのために日本を「戦争のできる国」にし、アメリカの対中戦争の鉄砲玉にすることに拍車をかけようとしている。

異例の1月4日開会
 通常国会は通例、一月下旬に開会である。年頭から第一九〇通常国会を開会するのは、国会法で通常国会の召集を一月とさだめた一九九二年以降、もっとも早い。このことに、安保法制に反対する人民斗争が安倍政府にあたえた打撃の大きさがあらわれている。
 安倍は昨年九月、戦後最長となった第一八九通常国会で安保法制を強行成立させた。その後は、毎年ひらいてきた秋の臨時国会もひらかず、日本をにげだすように外遊をくりかえした。安保法制に反対する人民の世論と斗争を鎮静化させようと、安保法制が論議となる臨時国会をやらないことをきめたのである。このため、二期連続でマイナス成長になるなど「アベノミクス」の破たんがあらわとなっているにもかかわらず、対策を先送りせざるをえなかった。
 来年七月には参議院選挙がひかえている。通常国会の会期にも制限があり、景気対策ももりこんだ二〇一五年度補正予算案、二〇一六年度予算案、二〇一七年四月の消費税率一〇%への引上げのための税制関連改定法案などを一気に成立させるうえで、会期の確保が必要であり、一月四日という異例の早期開会とした。
 消費税率の引上げには一年の周知期間が必要とされており、三月末までに税制関連改定法案を成立させようとしている。また安倍政府・自民党は来年七月の参議院選挙で、連立与党、改憲勢力あわせて三分の二の議席獲得をねらい、野党の選挙協力が困難になる衆参ダブル選挙も俎上(そじょう)にのぼせている。それを可能とする日程(解散から四〇日以内の総選挙実施、選挙期間は一二日)とするため、一月四日開会、一五〇日間の会期、六月一日閉会とした。

軍事関係は先送り 日米物品役務やPKO
 安倍政府・自民党は、表向きは「一億総活躍社会」や「軽減税率」の看板をかかげた消費税率引上げなどが通常国会、参議院選挙の焦点であるとし、ブルジョア報道機関も同様の宣伝をしているが、ごまかしである。
 安倍らは、安保法制につづく戦争準備として憲法改悪をおいている。また、それを可能とする参議院選挙での三分の二の議席獲得を最重点にしている。人民斗争のほこさきをかわすために、通常国会や参議院選挙での焦点が経済問題であるかのようにごまかし、安保法制にともなう日米物品役務相互提供協定(ACSA)改定法案も通常国会への上程を見おくる方針である。
 また来年三月、安保法制は施行となるが、最初の適用事例となるはずだったスーダンでの自衛隊PKO(国連平和維持活動)での「駆けつけ警護」についても、参議院選挙後に先送りする方針である。
 アメリカが対中戦争準備の一環として安倍政府をせかしている沖縄・辺野古新基地建設についても、「沖縄の負担軽減」を宣伝している。
 ともかく安保法制やアメリカのための戦争準備が焦点になるような施策を極力さけるというのが、通常国会での安倍政府・自民党の基本方針である。憲法改悪の世論づくりも、橋下おおさか維新や反共右翼の「市民団体」にやらせる配置にしている。安倍はさきに橋下と通常国会や参議院選挙をめぐって長時間会談したが、これ以降、橋下がこれまでにもまして「参議院選挙で憲法改定に必要な三分の二の獲得を」とさけびたてている。憲法改悪、戦争準備をたくらんでいる。

軍事予算は拡大へ 一切でない“財源問題
 安倍政府・自民党は「経済重視」を宣伝するが、通常国会に提出する来年度予算案の核は、安保法制に対応した自衛隊の軍備増強、在日米軍基地を拡張・強化するための軍事費である。安倍は首相復帰いらい毎年、「防衛費」をふやし、来年度当初予算案で五兆円の大台をこえた。武器調達、武器輸出を担当する防衛装備庁を今年一〇月に発足させたが、高額な米製兵器の調達をはじめ年間二兆円もの予算をくんでいる。
 安倍政府・自民党は、「軽減税率」や医療・福祉の切りすて、自己負担の拡大をめぐっては、すぐに「財源問題」をもちだすが、軍備増強、アメリカ関連では、「財源問題」などまったくない。
 補正予算案や来年度予算案に「沖縄振興」関連の予算をもりこんでいるが、普天間基地をかかえる宜野湾市での市長選(来年一月二四日投開票)での保守系現職の再選、来年夏の参議院選挙で改選となる沖縄地方区(定数一)での自民党現職、沖縄・北方担当相・島尻安伊子の再選をもくろむものである。
 沖縄では辺野古新基地建設に反対する人民斗争が発展しているため、自民党は、国政選挙、名護市長選挙で敗北つづきであり、それをくいとめようと必死である。

TPPの承認狙う 増税し社会保障切り捨て
 通常国会で安倍政府・自民党はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の国会承認を重視している。これとかかわって通常国会に農林水産、畜産、酪農の「安定化対策」の関連法案を提出する。関連法案は、カネをばらまくことでTPPに反対する農民をおさえこむのが目的である。
 TPPは、対中戦争を想定した米軍事戦略と一体のもので、対中経済包囲網の形成をたくらむものである。同時に日本をアメリカの一州のようにし、農民にとどまらず日本の労働者、勤労人民をアメリカ資本がすきかってにしぼりあげるようにする日本社会全体の再編である。
 「一億総活躍社会」なるものも、増税、医療・福祉の切り捨て、非正規労働拡大など新自由主義の搾取強化であり、戦争準備と一体である。
 安倍政府や自公与党、マスコミは「軽減税率」の大騒ぎをやっているが、一〇%へ消費税率をひきあげるのが目的である。生鮮食料品などの税率を据え置くというが、水道光熱費、輸送費など他のあらゆる分野で増税となれば、「軽減税率」の対象となった食品の値上がりはさけられず、だれもがそのインチキ論議に怒りをつのらせている。
 消費税率引上げをめぐって安倍政府、自民党は、「社会保障のため」というが、消費税率導入いらい、医療や年金など社会保障の切りすてに歯止めがかからない。高齢者をはじめ人民の怒りが強い介護保険についても、制度の見直しの改悪がかさなり、「公的介護」は名ばかりのものとなっている。政府は、介護の原則一割の自己負担の二割への引上げ、要介護1、2の通所介護の地域支援事業への移行、福祉用具・住宅改修の価格見直し・原則自己負担化の改悪をこの秋から検討しはじめている。
 「一億総活躍社会」の実体は、公的な医療・福祉の切り捨てをおしつけ、婦人であろうが、高齢者であろうが派遣など非正規労働にかりだし、「自己負担」「自己責任」でまかなわせようとするものである。安倍政府はすでに派遣労働の全分野への拡大、年金給付削減をやってきたが、通常国会には自治体による職業紹介の自由化、シルバー人材センターの機能強化(週約二〇時間の労働制限を週四〇時間に拡大)、高齢者の就労促進のための雇用保険への六五歳以上の新規加入の承認などの関連法案を提出する。
 安倍政府は当初から「女性活用」をさけんでいるが、それは低賃金労働力の派遣労働の拡大にとどまらない。防衛省男女共同参画推進本部は一一月、航空自衛隊での女性自衛官の配置制限を解除し、戦斗機や偵察機の搭乗を解禁し、最前線の戦斗への参加を解禁した。陸上自衛隊、海上自衛隊では制限を継続するが、米軍なみに女性自衛官の戦斗参加の全面解禁の機会をうかがっている。
 三二〇万人もの命をうばったかつての戦争をめぐって、戦争体験者は“貧乏になって戦争になっていった”とふりかえり、いまの日本が戦前とおなじ状況になっていると危惧(きぐ)する。
 かつての戦争は、「昭和恐慌」からの脱出のために旧日本帝国主義が、「内に抑圧、外に侵略」の軍国主義に活路をもとめ、人民への抑圧・支配を強め、中国侵略を拡大し、中国支配、世界覇権をたくらむアメリカ帝国主義との争奪を激化させたことが原因である。
 いまアメリカ帝国主義は二〇〇八年秋の金融・経済恐慌をへて力を低下させ、資本主義大国化で影響力を拡大する中国との対立を深めている。アメリカのオバマ政府は、アメリカの力の低下を日本の動員と日本の労働者、勤労人民への犠牲のおしつけでおぎない、延命しようとたくらんでいる。安倍政府はその手先となり、人民に貧困と戦争をおしつけている。
 通常国会をめぐる安倍政府のたくらみをあばきだし、搾取と貧困、戦争に反対する人民斗争の発展をかちとろう。