『人民の星』 
  6053号2面 2015年12月26日
TPP 日本語の合意書がない
人民の反発を恐れ内容を隠蔽

 一〇月五日にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の大筋合意がおこなわれてから三カ月になる。政府は一一月五日にTPP合意文書の概要を公開した。正文(英語など)は二〇〇〇㌻になるというのに、その二〇分の一(九七㌻)くらいのものだ。翻訳者をあつめれば日本語文はわけなくつくれるはずだがいまだに日本語文はない。安倍政府は翻訳するつもりがない。

要求しなかった安倍政府
 そもそもTPP合意文書の正文として日本語版がないのが大きな問題である。
 TPP協定は交渉参加国のうち、GDP(国内総生産)で八五%以上になるくらいの国が批准しないと発効しない。交渉参加国のうち、全体のGDPにしめる日本の比率は一七%で、アメリカについで二位である。日本が批准しないとTPPは発効できず、日本の人民はTPPの拒否権をもっている。それだけ重要な国でありながら、TPP協定の正文は英語、フランス語、スペイン語だけで、日本語はないのである。
 「なぜ日本語の正文がないのか」という追及に外務省は、「日本が交渉に参加した段階で、正文はすでにきまっていたため、覆すのはむずかしかった」とごまかしている。
 ところが正文にフランス語がはいっている。後続参加国なのにカナダが、国内の一部の州がフランス語をつかっているから、と請求したためである。あとから参加したカナダは自国語の正文を請求し、日本は請求しなかった。外務省の担当者は「わたしが承知しているかぎり、日本が交渉のなかで日本語を正文にしろということで提起したということはないと聞いている」といっている。
 安倍政府が日本語の正文も請求せず、翻訳もしないというのは、合意文書の内容を日本人民に知られたくないという以外にない。安倍政府は大筋合意のあと、「国民に丁寧に説明をする」といったが、臨時国会もひらかず、日本語文をつくるつもりもない。実態は「説明しない」のである。
 翻訳されていない九割にのぼる正文部分には、日本の民族的利害をそこなう重大な問題がいくつもあるようである。
 TPPには、民間企業が相手国を訴えて制度を変えさせることができるISD条項がはいっていることは比較的知られるようになったが、それ以外にも危険な条項がいくつもふくまれている。
 たとえば、非違反提訴条項というのがある。投資先の国がTPP協定に違反するような行為をしていなくても、進出した外国資本が思うような利益をあげられなければ、相手国を訴えることができるという制度だ。利益があがらないのは自分の責任ではなく、相手国がわるいからだという屁理屈である。
 間接接収にかんする条項がある。外資がある都市にビルをたてたが、その都市の条例で取り壊しを請求されるとすると、実質的に没収されたものと見なし「間接接収」違反として当市を訴えることができる。
 また別項では「医薬品の償還価格(日本では薬価)」の決定ルールについて将来、協議をおこなうという項目もある。政府が薬価をきめるいまの制度をやめさせ、薬価を医薬品資本がきめるようにするというものである。メルクのようなアメリカ医薬品独占資本が日本の市場をほしいままにすることができる。
 政府は農業関係の大筋合意の内容についてはいくらかあきらかにしたが、TPPは農業だけでなく、商工業、金融サービス、医療福祉、教育など多くの分野を網羅している。そのほとんどを日本語にせず、人目にふれないようにしている。
 TPP大筋合意には、政府調達の入札手続きについても英語での公示文書をつくることを努力義務としてもりこんでいる。入札だけでなく、その後の行政手続きも、すべて英語との併用を義務づけていく。
 またアメリカは日本語の廃止や英語の義務化とも要望書に記載し、大筋合意のなかで、「再交渉」「再協議」という表現をもりこみ、その具体化の道をひらいている。
 アメリカにとって日本の最大の非関税障壁は日本語だという。国語であるタガログ語を片隅に追いやり、英語を公用語にしたフィリピンのような国にしたいのである。TPP大筋合意に日本語の正文がないという事実は、日本語の排除がすでに実行にうつされていることをしめしている。