『人民の星』 
  6054号2面 2016年1月1日
アメリカの新戦略と安倍の戦争政策
エア・シー・バトル構想 日本を戦場に対中戦争

 安倍政府になってから、日本の戦争準備体制が段階を画して強化されている。それは、日本を防衛するというようなものではない。台頭する中国を屈服させるための、アメリカの戦争計画の一環としてすすめられている。米軍の再編、自衛隊の増強、法制度の整備は、すべてアメリカの具体的な戦争計画にもとづいてすすめられている。

安保法を強行可決
 二〇一二年末に再登場した首相・安倍は、一年後の二〇一三年末に、「国家安全保障会議設置法」と「特定秘密保護法」を強制成立させた。
 国家安全保障会議は、日本が武力行使を必要とする事態、すなわち戦争に参加するか否かについて検討し、自衛隊の最高指揮官である首相に意見をだす機関である。実際には、アメリカから自衛隊の出動を要請されたとき、ただちに「ゴーサイン」をだす機関となる。
 特定秘密保護法はアメリカがイラクでおこなったような謀略的な侵略戦争をすすめるうえで、アメリカが提供する軍事機密を厳格にまもらせるためのものである。軍事および治安対策にかかわる機密事項をあきらかにすれば、最高「懲役一〇年、罰金一〇〇〇万円」の厳罰をもって弾圧する。特定秘密保護法の制定で、アメリカは自衛隊をいかなる謀略的な作戦にも動員できる。
 二〇一四年七月には、安倍政府は「集団的自衛権の行使」を容認する閣議決定をおこなった。そして翌一五年九月には、そのための安保法制を、人民が国会を包囲し全国で反対行動がとられるなか強行可決した。
 可決した法案のうち新法は「国際平和支援法」で、他国軍の軍事行動を支援するための自衛隊の海外派兵が随時できるようにするためのものである。既存法改定は「自衛隊法」「武力攻撃事態法」「PKO協力法」など一〇法案で一括でやられた。それはつぎのようなものである。
 自衛隊の任務から「専守防衛」の規制をとりはらい、国連以外の国際軍事活動にも参加して武力行使をみとめ、地理的な制約なしに米軍の戦争を支援できるようにし、どこでも船舶臨検をおこなえるようにし、他国をまもるための武力行使もみとめ、民間の港湾、飛行場、道路、海域・空域、電波などについて米軍、自衛隊、同盟軍の優先利用をみとめるというもので、アメリカがすすめる本格的な戦争計画に自衛隊と日本全土をくみこむためのものである。
 これらの安保関連法が「戦争放棄」をうたっている憲法に違反していることは、子どもでもわかることである。
 安倍政府は、戦争法確立と一体で、在日米軍再編への積極的支援、自衛隊の再編・増強、民間空港・港湾の軍事基地化をすすめている。

在日米軍再編自衛隊を増強
 在日米軍の再編のおもなものは、つぎのようにおこなわれている。
 ①在沖海兵隊の司令部と一部部隊(八〇〇〇人)のグアム基地への移転。
 ②普天間基地の代替としての名護市辺野古への新基地建設。
 ③普天間基地の空中給油機部隊の岩国基地(山口県)への移転。
 ④岩国基地への厚木基地(神奈川県)からの米空母艦載機部隊の移転。
 ⑤京都・丹後へのXバンド・レーダー基地新設。
 ⑥嘉手納(沖縄)、三沢(青森)、岩国の三基地でおこなわれている戦斗機訓練の、千歳(北海道)、三沢、百里(茨城)、小松(石川)、築城(福岡)、新田原(宮崎)の自衛隊六基地への移転、などである。
 自衛隊の再編・増強では、陸上自衛隊が「創隊以来の大改革」をすすめている。その柱は、米軍とのより緊密で迅速な作戦を展開するため、陸上自衛隊の全部隊を一元的に指揮する陸上総隊をつくること、また陸上総隊の直轄部隊として、あらたに三〇〇〇人規模の水陸機動団を新設することである。
 陸上自衛隊はながらく北部、東北、東部、中部、西部の各地方を基盤にした方面隊をもって部隊が形成されていたが、組織改変をすすめ、五つの方面隊と水陸機動団を一元的に運用するための統一司令部として陸上総隊をつくる。現在、それへの移行中であるが、二〇一七年度に朝霞駐屯地内に陸上総隊司令部をおく計画である。
 防衛省は南西諸島への自衛隊部隊配備(基地建設)をいそいでいる。沖縄県の石垣島には五〇〇~六〇〇人の陸上自衛隊を配備し、警備部隊、地対空・地対艦ミサイル部隊をおく方針で、現在、石垣市と交渉中である。与那国島へは一五〇人規模の沿岸警備部隊を二〇一五年度中に配備する。宮古島には、二〇一八年度末までに七〇〇~八〇〇人規模の部隊を配備する。計画書によれば、石垣島とおなじような警備・ミサイル部隊をおき、さらに地下指揮所まで設けるという。防衛省はいま候補地をえらんでいる。さらに鹿児島県の奄美大島にも五五〇人規模の警備・ミサイル部隊を配備する計画である。
 これらは、中国との最前線に配備された部隊になる。防衛というが、中国にたいする威圧である。しかし、最悪の事態になったときは玉砕をしいられる部隊でもある。

佐賀空港の基地化
 佐賀空港の自衛隊基地化(オスプレイの配備、陸自・目達原基地からのヘリ部隊の移転、米軍の使用など)も“島嶼(とうしょ)作戦”の一環である。水陸機動団は佐世保にある西部方面隊の直属部隊である「西部方面普通科連隊」を中心に組織される。佐賀空港は、佐世保から五五㌔㍍の比較的近い位置にあり、しかも二〇〇〇㍍級の滑走路をもち、配備されたオスプレイ部隊が水陸機動団を空から支援するのである。
 ずっとマスコミがおこなっている尖閣諸島問題、赤珊瑚問題、密漁問題、南中国海島嶼問題などを使った中国排外主義宣伝は、思想面からの対中国戦争準備といえる。
 アメリカ帝国主義のアジアにおける戦略は、日本を足場にしてアジアを支配するというものである。とりわけ中国の広大な権益・市場をみずからのものにすることに重点がおかれている。
 アメリカはベトナム侵略戦争で大敗北したが、その後、中国の修正主義者と結託し、中国に反米斗争の旗をおろさせ、資本主義経済を導入させることに成功した。中国は、外資を積極的に導入し、その技術や資本主義のノウハウをとりこみ、世界最大の生産基地になった。粗鋼の生産力はそれまで世界一を誇った日本の五倍、外貨準備高も日本の三倍、国内総生産(GDP)でも日本をぬいて世界第二位となり、やがてアメリカをぬきさるとみられている。
 しかし、中国の経済制度には社会主義の遺制がのこっているとともに、政治・軍事の分野では中国共産党が一元的な支配をおこなっている。そして、独自の民族的利益を追求しており、アメリカの思いどおりにはなっていない。アメリカは、天安門事件、チベットの暴動、法輪功問題などをひきおこして内政を撹乱し中国に親米政府を樹立しようと策動してきたが、成功していない。

中国台頭恐れ空海戦斗構想
 こうしたなか二〇一〇年にアメリカ国防総省は、QDR(四年ごとの国防計画の見直し)を発表し、対中国軍事戦略の見直しをおこなった。二〇一〇年QDRの重大な特徴は、中国の軍事力の発展によってアメリカが海外に展開している米軍基地、とりわけ在日米軍基地が安全ではなくなったという評価をくだしていること、そしてそれに応じた作戦構想として「エア・シー・バトル(空海戦斗)」構想(現在は「国際公共財におけるアクセスと機動のための統合構想」に名称を変更)をうちだしたことである。
 二〇一〇年QDRはつぎのようにのべている。
 「北朝鮮とイランは、国際的な規範に反抗する一環として、新型の弾道ミサイルシステムの試験を積極的に行っている。…このようなシステムの保有数と能力が引き続き増大するために、前方に展開した米軍は冷戦の終了以降の紛争において保持してきた聖域を最早享受できない。高速度の軍事作戦に欠かせない空軍基地、揚陸港湾、兵站中枢、指揮センター、及びその他の資産はリスクの下に置かれる」
 「中国は長期的で包括的な軍近代化の一環として、大量の新型中距離弾道ミサイルと巡航ミサイル、進歩した兵器を備えた新型の攻撃型潜水艦、能力を向上させた長距離防空システム、電子戦とコンピューターネットワーク攻撃能力、新型戦斗機、及び対宇宙システムを開発し配備しつつある」
 まさに中国こそがもっとも在日米軍にとって脅威となっているということを明確にしている。
 QDRは、中国は周辺領域への接近を阻止し、浸入を拒否しているとし、これをうちやぶるために「新しい総合空海戦斗構想」(エア・シー・バトル構想)を開発していくとしている。それがどのようなものになるのかは、二〇一〇年と一四年にだされたQDRには一般的にしか書いていない。また二〇一三年に国防総省エア・シー・バトル室から、はじめての公式文書がだされているが、これも内部文書の秘密部分を削除したもので「エア・シー・バトル構想の全てを語るものではない」とことわってある。
 そこで、国防総省と一体となってエア・シー・バトル構想を検討・構築してきた民間シンクタンクの戦略予算評価センター(CSBA)の論文などを見ることにする。それによれば、エア・シー・バトル構想はつぎのような内容になっている。 中国軍は、絶対的な戦力に勝っている米軍と対等にたたかおうとはしない。米軍の脆弱な部分となっている、前方展開基地(在日米軍基地など)、航空母艦、指揮・通信・情報・偵察などの機能を通常戦力、弾道ミサイル、衛星破壊兵器、サイバー戦などによって無力化しようとする。こうして米空母をはじめとする海軍の兵力を中国沿岸から第二列島線以遠に排除する。
 これにたいして米軍は、中国軍の初期の攻撃による被害を局限にし、米軍にとって有利となる長期戦にもちこむ。作戦にあたっては日本とオーストラリアが同盟国として行動する。作戦は二段階にわかれ、空海の優勢が確立したのち、陸軍や海兵隊の投入がおこなわれる。作戦の第一段階では、米軍および同盟国軍は先制攻撃に耐え、基地および兵力の被害を局限にする。空軍機は一時的に中国のミサイル攻撃圏外の飛行場(テニアン、サイパンなど)へ退避する。敵の大規模な先制攻撃にたえるため、指揮通信システムと主要基地の抗たん性を向上させ、基地施設を分散化する。
 中国との戦斗が一段落し、第二段階にはいる。あらゆる領域で主導権を奪回し、維持する作戦を実行する。制空権を東中国海から琉球列島まで拡大する。石油輸入など中国の貿易を阻止するためマラッカ海峡をはじめいくつかの封鎖地点で封鎖をおこなう。
 以上が、アメリカが考えている対中国戦争の概要である。これらを見ると、中国との戦争は核兵器まで使った全面戦争ではなく、中国沿岸、東中国海、南中国海などの制海権・制空権をアメリカがにぎるための戦争であり、その目的は、海上封鎖、貿易阻止、経済封鎖にあるということである。
 こうして中国経済に大打撃をあたえて、中国国内の政治的矛盾を激化させ、親米資本主義政府を樹立することをねらっている。アメリカは一言もふれていないが、あきらかに中国の内乱を激化させることと一体の戦争である。

日本全土がミサイルの標的
 アメリカの対中国戦争計画においては、在日米軍基地、それと一体の自衛隊基地、通信網や港湾・空港などのインフラが攻撃の対象にされ、日本全土が大量のミサイル攻撃にさらされる。そのため、緒戦においてはアメリカは空母や空軍戦斗機をミサイル圏外に退避させ、地上部隊もローテーションで犠牲を最小にする計画である。
 「日米安保条約」と在日米軍は、日本をまもるためにあるのではなく、日本を戦場にし犠牲にしてアメリカが中国との戦争に勝つためにあるということである。自衛隊は、米軍になりかわって中国軍との戦斗の最先頭にたたなければならず、安保法制をしいて自衛隊が武力行使をおこなえるようにすることは、エア・シー・バトル構想の実行にとって不可欠の準備であったのである。
 アメリカは対中国戦争構想をある程度公開し、またそのための準備をすすめて中国に威圧をくわえている。それは中国国内を撹乱するためである。
 すでに戦争構想は実行にうつされている。“日本は犠牲に、果実はアメリカに”というアメリカ帝国主義の凶暴な戦争計画をぜったいにゆるしてはならない。