『人民の星』 
  6059号1面 2016年1月23日
安倍政府 緊急事態手始めに改憲
米国の対日政策担当者が指揮

 首相・安倍晋三は、今年七月予定の参議院選挙をにらみ、くりかえし、憲法改定をやると発言している。安保法の成立のつぎは憲法改定だとアメリカがいい、日本を「戦争のできる国」にしようとしているのである。
 安倍は、通常国会が開会した四日の年頭会見で参院選について「憲法改正をしっかりと訴え、国民的な議論を深めていきたい」と露骨にのべた。
 一〇日のNHK日曜討論でも、参議院選挙をめぐって「与党だけでは(改憲発議に必要な)三分の二の確保はたいへんむずかしい。おおさか維新の会もそうだが改憲に前むきな党もある」と野党の一部とも連携して改憲をおこなう意欲を語った。
 安倍は、一二日にひらかれた衆議院予算委員会の質疑でも、夏の参議院選挙で憲法改定を選挙公約にかかげるといい、おおさか維新の会を「きわめて健全な党だ」ともちあげた。
 質疑のなかで安倍は「われわれは改正草案をすでにつくっている。どの条項から改正するのかというのは、国民的な議論の深まりを見ながら与党が判断し、(衆参の)憲法審査会で議論がにつまっていくものと期待している」と語ったが、憲法九条の廃棄にむけてまず、「緊急事態条項」をもりこむことからはじめるといっている。
 「緊急事態条項」というのは、戦争に全国民を動員できるように、思想・信条、言論・出版、結社の自由といった民主的権利に制限をくわえたり、民主的な権利をうばいとり、「戦争総動員令」や「戒厳令」をだせるようにするというものである。
 自民党は、野党だった二〇一二年四月、「憲法改正草案」を発表している。同案には「第九章 緊急事態」の項があり、「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による自然災害その他の法律が定める緊急事態」において政府が「緊急事態宣言」をだせるとしている(九八条)。
 また、「緊急事態宣言」で政府は「法律と同一の効力を有する政令を制定できる」とし、地方自治体の長に必要な指示をだすとともに、国民は「国やその他の公の機関の指示に従わなければならない」(九九条)と明記している。
 昨年三月、当時の憲法改正推進本部長・船田元は、参議院選挙で三分の二を確保できても「選挙後すぐに臨時国会があって、そこですぐに発議するのはむずかしい」として「二年以内(二〇一七年三月まで)」という日程をあげている。
 そして「改正に慣れる必要がある」として本命の憲法九条関連は「二回目」にやりたいとのべている。
 草案は九条については、現行の「第二章 戦争放棄」を「第二章 安全保障」というものにかえ、九条のなかに「自衛権」「国防軍の保持」をもりこみ、「国防軍」は「自衛」の任務にあたるとともに「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」へ参加できるとしている。
 また「国防軍に審判所を置く」としているが、これは軍法会議のことである。
 このようにして、「緊急事態条項」を最初にすると言っているのは、その条項を実現することをつうじて、戒厳状態を宣言できるようにすること、改憲に「慣れさせる」ことの二つを意図している。
 安倍らは憲法は占領時期にアメリカによってつくられた占領憲法だから、自主憲法をつくるといっているが、これはウソで、アメリカが憲法を変えよといっている。

米アーミテージ・ナイ報告
 改憲を最初にもちだしたのはアメリカの元国務副長官アーミテージで、アーミテージらは二〇一二年八月に第三次アーミテージ・ナイ報告(正式名は「アジアの安定のための日米同盟」)を発表し、安倍らがやるべき政策をならべた。
 安倍自民党が一二年末の衆議院総選挙にあたってかかげた公約は、この第三次アーミテージ・ナイ報告の内容である。
 公約の「外交・安全保障」はつぎのようなものである。
 ①国家安全保障会議の設置
 ②集団的自衛権の行使を可能に
 ③自衛隊の人員・装備・予算の拡充、海上保安庁の強化
 ④憲法改定による自衛隊の国防軍化
 ⑤米新戦略と連動した自衛隊の役割強化、在日米軍再編による抑止力強化、沖縄負担軽減(名護新基地建設、本土でのオスプレイ訓練等)
 ⑥「国際貢献」をさらにすすめるための「国際平和協力法」の制定
 「緊急事態条項」も「憲法改正」の項にいれている。
 安倍政府の改憲計画はアーミテージ・ナイ報告の方針によっているのである。またそれは戦争のためである。アメリカがアメリカの代わりに日本に戦争をさせるためである。
 しかし、戦争を阻止する大きな力が国民のなかにあり、この力をたばねれば戦争を阻止できる。修正主義や社会民主主義は、戦争となれば手も足もでなくなり暗黒の社会になるといっているが、国民のなかには戦争をうちやぶる力があり、それを束ねることが決定的に重要である。