『人民の星』 
  6059号2面 2016年1月23日
日本企業がシェール開発で損失・撤退
オバマ政府にだまされる

 東京ガスは一五日、今年三月期の決算で、アメリカでおこなっているシェールガス開発事業で一〇六億円の減損損失を計上する見通しであることを発表した。オバマ政府が旗をふった「シェール革命」の宣言にのせられ、シェール開発事業に進出した日本企業は昨年らい、あいついで巨額損失をだし、撤退するところもでている。

東京ガスや伊藤忠など
 東京ガスは二〇一三年から、米テキサス州バーネットのシェールガス開発事業に参加していた。将来の日本への輸出も視野に、在米子会社をつうじてシェールガス開発・生産企業の二五%の株を四億八五〇〇万㌦(当時のレートで約四六〇億円)で取得した。しかし天然ガス価格の下落で、すでに、昨年三月期決算で二三〇億円の減損処理をしており、あわせて三三六億円の損失となる。東京ガスは「価格がここまでさがるとは想定しえなかったし、これまで以上に今後の見通しがたたない」(同社経理部長)とさじをなげている。
 東京ガスばかりではない。大手商事会社の伊藤忠は昨年六月、天然ガスや原油価格の回復の見込みがないと、アメリカでのシェールガス開発事業からの撤退を発表した。伊藤忠は二〇一一年から、米シェールガス・オイル開発企業に出資していたが、累計の損失額は一〇〇〇億円にふくらんでいた。
 住友商事は二〇一二年から、米テキサス州のシェールオイル開発会社に投資し、一部権益を取得していたが、昨年三月期決算で一七〇〇億円もの減損損失を計上した。住友商事は権益取得後、試掘した結果、「採掘がむずかしく、投下資金(一三億六五〇〇万㌦)を回収できる生産量がみこめないと判断した」と発表している。
 このほかにも三井物産が三二五億円、大阪ガスが二九〇億円の損失を昨年三月期決算で計上している。巨額損失は日本企業だけではない。メジャーの一角をしめるイギリスのBP(ブリティッシュペトロリアム)は二一億㌦の評価損を計上し、米シェールガス・オイルの最大の投資者といわれる英豪のBHPビリトンも今年にはいり、七二億㌦の減損処理を発表した。英蘭のロイヤル・ダッチ・シェルも、米シェールガス事業に二四〇億㌦出資したが、損失計上、鉱区売却などで、危機を深めている。
 シェール開発をめぐる損失は、中国経済の景気後退など世界的な範囲での過剰生産で原油や天然ガス価格の下落が影響していることに原因の一つがある。

5年弱で撤退する異常事態
 同時にシェール開発に参入した日本や各国企業がいずれも五年たらずで巨額の損失を計上し、いちはやく撤退する企業もでているのが大きな特徴である。ほんらい、エネルギー資源の開発は中・長期的なもので、これほど短期間で見切りをつけるのは異常な事態である。それは各企業がシェール開発の現場とかかわって見て“話がちがう”となっていること、“だまされた”とあわてていることをしめしている。
 シェールガス・オイルは頁岩(けつがん)のなかにとじこめられている。採取活動は一九世紀からあった。しかし通常の油田やガス田とはことなり、地中深部の岩盤を破砕して採取しなければならないため、生産性が低く、コストが高くつき、採算にあわなかった。しかし、二〇〇〇年代なかばになって、原油や天然ガスの価格高騰で採算があうようになってきたこと、環境破壊を無視した水砕破砕という方法がとられるようになったことで生産が拡大した。
 リーマン・ショックに象徴される金融・経済恐慌から脱出しようと必死だったオバマ政府は、「国内製造業の復活」「輸出倍加」をさけんだ。その柱が「シェール開発」である。
 オバマはシェールガス・オイルの開発で、アメリカがエネルギー輸入国から輸出国になり、アメリカ経済再生の原動力になる、と大宣伝した。これにつられて、日本などの外国企業があいついでシェール開発に参入した。

バブルと知りながら大宣伝
 しかしオバマが二〇一二年の一般教書演説で「シェール革命」をうちあげたときには、シェールガスは生産過剰で価格が下落しはじめていた。大規模な採取をすればすぐに井戸がかれてしまい、利潤をあげるためにはつぎつぎにガス田や油田を採掘する自転車操業的な採掘となり、コストも上昇することがあきらかになっていた。すでに二〇一一年六月段階で「シェールガス革命はバブル」(「ニューヨークタイムズ」)の指摘がでていた。
 また採掘条件のよいところはアメリカ企業でしめられていた。それを知りながらオバマ政府は「シェール革命」の大宣伝をやり、日本などからの資金を呼びこんだのである。日本の安倍政府は、オバマ政府の「シェール革命」の宣伝のお先棒をかついだ。
 安倍を首相に復帰させたアメリカの対日政策者らは、日本企業をシェール開発に呼びこむことを政策の一つとして指示していた。

安倍使い日本企業を呼込む
 元米国務副長官アーミテージらが二〇一二年八月にだした対日政策提言「日米同盟   アジアの安定をつなぎとめる」(第三次アーミテージ・ナイ報告)は、日米同盟は軍事同盟であるとともに、天然資源同盟であるべきだとし、日本が今後一〇年間で天然ガス、石油、原子力、太陽光発電などで一〇〇〇億~二〇〇〇億㌦をアメリカに投資するよう要求した。
 首相復帰直後の二〇一三年二月に訪米し、オバマと会談した安倍は、シェールガスの対日輸出を早期に承認してくれるようもとめた。また日本企業のアメリカでのシェール開発事業への参入、シェールガス調達のために一兆円の債務保証枠をもうける方針をきめた。
 安倍らはオバマ政府がうちあげた「シェール革命」という国家的な詐欺に加担したのである。これによって日本企業が日本の労働者、勤労人民からしぼりとったカネが、アメリカのためにすいあげられ、大損をだした。「シェール革命」のてん末は、アメリカ資本主義の腐朽と衰退をあらわしており、戦後一貫してつづいている対米従属が日本に大きな損失と犠牲をおしつけるものであること、この対米従属構造を打破しなければならないことをしめしている。