『人民の星』 
  6065号3面 2016年2月13日
船員の軍事徴用許さぬ
全日本海員組合が声明

 安保法制を強引に成立させた安倍政府は、アメリカのおこなう戦争や多国籍軍による「国際平和維持活動」に自衛隊をおくりこむ準備をしている。その一つは、「有事」に民間船員を予備自衛官として徴用することである。一六年度予算案に民間船員二一人を予備自衛官にする費用をもりこんでいる。このため全日本海員組合(森田保己組合長)は一月一五日、防衛省に反対を申しいれた。二九日には記者会見をひらき、「民間船員を予備自衛官補とすることに断固反対する声明」を発表した。
 声明はつぎのようにのべている。

船員の予備自衛官採用反対
 「一昨年からのいわゆる“機動展開構想”に関する一連の報道を受け、全日本海員組合は、民間船員を予備自衛官として活用することに対し断固反対する旨の声明を発し、様々な対応を図ってきた。しかしながら、防衛省は平成二八年度予算案に、海上自衛隊の予備自衛官補として“二一名”を採用できるよう盛り込んだ。われわれ船員の声を全く無視した施策が政府の中で具体的に進められてきたことは誠に遺憾である。
 先の太平洋戦争においては、民間船舶や船員の大半が軍事徴用され物資輸送や兵員の輸送などに従事した結果、一万五五一八隻の民間船舶が撃沈され、六万六〇九人もの船員が犠牲となった。この犠牲者は軍人の死亡比率を大きく上回り、中には一四、一五歳で徴用された少年船員も含まれている。
 このような悲劇を二度と繰り返してはならないということは、われわれ船員に限らず、国民全員が認識を一にするところである。
 政府が当事者の声を全く聞くことなく、民間人である船員を予備自衛官補として活用できる制度を創設することは、“事実上の徴用”につながるものと言わざるを得ない。このような政府の姿勢は、戦後われわれが“戦争の被害者にも加害者にもならない”を合言葉に海員不戦の誓いを立て、希求してきた恒久的平和を否定するものであり、断じて許されるものではない。
 全日本海員組合は、民間人である船員を予備自衛官補とすることに断固反対し、今後あらゆる活動を展開していくことを表明する」
 防衛省への申入れでは、防衛省幹部が「予備自衛官になるよう船員に強制することはない」といったが、森田組合長は「戦地にいくために船員になった者はいない。会社や国から見えない圧力がかかるのは容易に予想される」と強調した。また、太平洋戦争では民間の船や船員の大部分が軍に徴用され六万人以上の船員が亡くなったことにふれ、森田組合長は「悲劇をくりかえしてはならない」と訴えた。

新防衛大綱に船員徴用盛る
 同席した組合役員も「船はチームプレーで一人かけても運航できない。他の船員が予備自衛官になったのに、みずからの意思でことわれるのか。防衛省はできるだけ多くの船員が予備自衛官になるようフェリー会社にもとめている」と批判した。
 政府・防衛省は、自衛隊の「機動展開能力の強化」と称して、一三年末の新防衛大綱、中期防(一四~一九年度)で、「民間輸送力の活用」をうちだし、一四年度予算では軍事演習でのフェリーチャーター費用として一二億円を計上した。
 あわせて、「機動展開における民間輸送力の活用施策の検討」をはじめ、予備自衛官を民間船舶にのせて有事のときに使うことや、一般船員を予備自衛官として登用することを検討しはじめた。
 このようななか防衛省は一六年度に、予備自衛官制度を変更し、自衛隊の勤務経験がなくても一〇日間の教育訓練などで予備自衛官になれる制度を海上自衛隊にも導入するとし、有事に船員を「自衛隊員」として徴用しようとしている。
 全日本海員組合は、船員を予備自衛官補とすることに断固反対し、今後あらゆる活動を展開していくとしている。