『人民の星』 
  6074号1面 2016年3月16日
「保育園落ちた日本死ね」若い母親の怒り爆発
「一億総活躍社会」はウソ 

 「保育園落ちた日本死ね」というインターネットでの若い母親の書きこみが、はたらく若い母親など多くの人の共感を呼び、待機児童解消、保育所の早期整備をはじめ、安心して子どもを育て、母親たちが安心してはたらけるようにせよという爆発的な運動となっている。はたらく意欲があり、しかも、はたらかなければ生計がなりたたないのに、子どもをあずかるはずの保育園は政府によって門前払いされる。このようなでたらめなことがガマンできるだろうか。生産をになう婦人たちは、腐れ切った政治と社会を行動によってかえるためにたちあがったのである。

保育所を作れ はたらく婦人の大運動に
 インターネット上に「保育園落ちた日本死ね」ではじまる書きこみがでたのは二月一五日だった。保育園に子どもをあずけようとした若い母親だった。
 「何なんだよ日本。一億総活躍社会じゃねーのかよ。昨日見事に保育園落ちたわ。どうすんだよ私活躍できねーじゃないか」と、安倍政府の提唱する「一億総活躍社会」をはじめ、子育てと仕事が相矛盾する日本社会と安倍政治を痛烈に批判した。
 そして「子供を産んで子育てして社会に出て働いて税金納めてやるって言っているのに日本は何が不満なんだ? 何が少子化なんだよクソ。子供産んだはいいけど希望通りに保育園に預けるのはほぼむりだからwって言っていて子供産むやつなんかいねーよ」とつづく。毎日のように「少子化対策」といいながら、子どもを保育所にあずけようとすれば門前払いをくらわせ、実際には「少子化対策」などなに一つやってはいないインチキへの心底からの怒りがみちている。
 そこから最大限の怒りをこめて、「不倫してもいいし賄賂受け取るのもどうでもいいから保育園増やせよ。オリンピックで何百億円無駄に使ってんだよ。エンブレムとかどうでもいいから保育園作れよ。有名なデザイナーに払う金あるなら保育園作れよ。どうすんだよ会社やめなくっちゃならねーだろ。ふざけんな日本」と怒りをぶつけ、つづける。
 「保育園増やせないなら児童手当二〇万にしろよ。保育園も増やせないし児童手当も数千円しか払えないけど少子化なんとかしたいんだよねーってそんなムシのいい話あるかよボケ。国が子供産ませないでどうすんだよ。金があれば子供産むってやつがゴマンといるんだから取り敢えず金出すか子供にかかる費用全てを無償にしろよ。不倫したり賄賂受け取ったりウチワ作っているやつ見繕って国会議員を半分位クビにすれば財源作れるだろう。まじいい加減にしろ日本」
 書きこみの主は三〇代前半の婦人といわれているが、本人が「保活」(保育所探しの活動)では認可保育所も、通える範囲にある認可外の保育所もすべて申し込んだが「全滅」だった。一歳になる男児と夫の三人暮らしで、四月には復職の予定だったが子どもを保育所にいれることができないために、復職をあきらめねばならない。書き込みはその怒りを爆発させ、数多くの婦人たちがもつ怒りと悔しさを代弁することになった。

広がる共感の行動 安倍がバカにする
 書き込みは二月二九日の衆議院予算委員会でとりあげられた。首相・安倍は「匿名である以上、実際にほんとうであるかどうかを、わたしは確かめようがない」と、若い婦人の切羽詰まった訴えと怒りを無視した。
 議員席からは議員どもが、「だれが(ブログを)書いたんだよー」「(質問者は)ちゃんと(書いた)本人をだせ」と侮蔑的なヤジをとばした。
 こうして三月五日、国会議事堂前に「落ちたのは私」と書いたプラカードをもった婦人や若い男性があつまり、安倍や国会議員どもへの抗議行動をはじめた。書き込みから二、三日で、フェイスブックで、書き込みを読み、ひろげたのは三万回以上にのぼり、でたらめな国会審議をうけてさらにひろがった。
 四日には保育所の拡充をもとめる署名活動がはじまり、最初の四八時間で二万人超となり、五日の国会前行動にもちこまれた。九日までの五日間で署名数は二万七六八二人にのぼった。署名簿は国会内で厚生労働相・塩崎に手渡された。
 嵐のような抗議行動と婦人たちの運動の発展に、安倍政府、自民党は大慌てとなった。安倍は七日の参議院予算委員会で「(待機児童の)受け皿作りは、政権交代前の倍のスピートですすめている。保育士の待遇改善にとりくみたい」と事態鎮静化に奔走した。
 一〇日の政府与党連絡会議では「受け皿の拡大が行き届いていないところがある。地域と連携しながら、政府としてしっかりと対応していきたい」とこれまた大慌てとなった。
 若い婦人たちをはじめとする怒りの行動が、安倍政府と自民党のインチキきわまりない「一億総活躍社会」や「少子化対策」を事実でもって暴露し、またたくまにでたらめな政治を揺るがす運動となった。腐った政治家どもに婦人たちの力を見せつけたのである。

子どもたちをいつまで放置するのか
 保育所の「待機児童」は首都圏を中心に、約二万五〇〇〇人といわれている。昨年四月時点での〇~五歳児の待機児童は二万三一六七人。うち首都圏など都市部が七割をしめる。東京は全体の三〇%をしめるが、福岡県七五九人、熊本県六五九人など、地方でも待機児童は激増している。
 東京二三区で今年四月から認可保育所入所を希望する〇~二歳児のうち杉並区など六つの区で入所倍率は二倍をこえる。杉並二・二倍、世田谷二・一倍、台東二・〇倍等等だ。半分は保育所にはいれない。しかも待機児童の九割が〇~二歳児だ。若い母親たちは小さな子どもをかかえながら東奔西走し、だが冷酷に門前払いされているのである。
 三〇〇人の定員のところ八〇〇人の申込みがあるとか、八〇人定員のところ一五〇人が申し込んでいるのですぐ見つかると思わないでくださいと区役所でいわれたとか、区役所にいくと「一〇〇人待ちですよ」といわれたとか、一一カ所もさがしたが入所できず泣く泣く復職をあきらめざるをえなかったとか、母親たちの悲鳴が数限りなくあがっている。東京江東区は毎年一万人規模で爆発的に人口が流入してふえ、他方では人口はふえないが保育所がすくない区があり、どの区でも母親たちが路頭にまよっている。
 しかも、待機児童の数には、無認可保育所に入所している子どもの数はいれられていない。無認可保育所は保育料が高く、認可保育所にかわりたいと申し込む母親たちが毎年足を棒にして区役所に申込みにいくが子どもをあずけることができず、仕事をやめねばならない母親たちが数限りなくいる。待機児童は公表数の数倍という。
 大阪の千里ニュータウンがある吹田市では、四月入所に過去最多の二四八一人が申し込み、一次選考で四割にあたる一〇一八人が「落選」した。一歳の長女の入所を申し込んだ三〇歳の母親は、第六希望まで書ける記入欄の欄外まで書いて合計八カ所の施設名を記入したという。だが、すべて落選した。
 首都圏だけではない。地方でも保育所、学校の閉鎖、統廃合が推進され、働く母親たちにとって困難はましている。一九九九年に一万二八七五あった公立の保育所は、行政改革と称して、一四年には九七九一と、一五年間で三〇八四、二五%も減らされた。安倍政府は働く母親たちのために保育所をつくるどころか廃止し、母親たちを苦しめているのである。

働く母親たちの行動が政治を変える
 このような母親たちの困難から、安倍や国会議員どもは遊離しきっている。安倍晋三は年収四〇〇〇万円、閣僚は三〇〇〇万円、国会議員は二〇〇〇万円。そのうえ億単位の政治資金を懐にいれ、外遊で何十億という税金を湯水のように使い、外国に三年間で三〇兆円もくれてやっている。遊蕩三昧のかれらは人の苦労をわからず、私腹を肥やし、米軍のために七〇〇〇億円をだしてやったり、軍事費に五兆円と湯水のように使っている。
 このような腐りきった政治家どもにたいして、若い母親たちは怒りをもってたちあがった。安心して子どもをあずけられる保育所をつくれ、保育・養育・教育を無償にせよ、そして婦人が安心してはたらけるようにしろ、保育士が安心してはたらける給与にしろ、何千万ももらう首相、閣僚、国会議員の給料を大削減しろ、腐った政治家どもをこらしめよ。婦人たちの声はますますひろがっている。保育・養育は母親がやれ、だが社会にもでてはたらけという安倍らの言い草はでたらめで、できもしないことである。母親たちは社会に出てはたらき社会のために貢献するのである。それならば保育・養育も社会的に国が保障するのはあたり前である。「保育園落ちた日本死ね」は、安倍らの虫のいい考えと日本資本主義社会の根本的矛盾を痛烈にあばいた。社会をささえ、子どもの保育・養育をになってきた、働く婦人がたちあがり、政治をかえる時代がはじまったのである。

働くことも子をあずけることもできず八方ふさがり
下関 労働者夫人の話

 子どもを保育園にあずけられるかどうかは、その家庭にとって生き死ににかかわる問題となっている。かつてリーマン・ショックがあったときに、下関の神戸製鋼の下請けとしてはたらいていた婦人は保育園にかかわる体験をつぎのように語った。
 「リーマン・ショックで職場では多くの労働者が解雇された。主人は解雇されなかったが、常時六〇時間以上あった残業手当は残業規制でゼロになった。下請けは基本給だけでは生活していけない。子どもをかかえ、車のローンや家賃など毎月家計のやりくりで、毎日胃がいたくなるほどだった。貯金も底をついてきたので、かけていた生命保険も解約してローンの返済にあてた。
 しかし、このままでは生活がいきづまるので、幼児をかかえていたが共稼ぎをしようとはたらくところをいろいろさがした。どこをまわっても“子どもがいたのでは無理です。まず子どもを保育園にあずけてからきてください”とことわられた。
 そこで保育園に相談にいくと“保育園ははたらく人のために子どもをあずかるところなので、はたらいていない人の子どもはあずかれません。まず、はたらくところをきめてきてください”とことわられた。どちらの言い分もわかるが、これでは八方ふさがりでなにもできない」
 婦人は共稼ぎをしないと生活できない人にとって保育問題の矛盾やその重要性について指摘した。幸い、理解のある人が雇ってくれたおかげで、この婦人は子どもを保育園にあずけることができた。
 リーマン・ショックの影響はすぎたが、いまの日本社会は常時リーマン・ショック状態で、ワーキング・プアといわれるほど、はたらいても人並みの生活ができない人があふれている。そういう人にとっては、保育園の問題は生死にかかわる問題であり「保育園落ちた。日本死ね!」はそうした多くの貧困家庭を代表する心の叫びであり、怒りの声である。