『人民の星』 
  6075号2面 2016年3月19日
マイナス金利から一カ月  「景気回復」ならず
地銀の統廃合は必至

 二月一六日に安倍政府・黒田日銀が「マイナス金利」を実施してから、一カ月がすぎた。「マイナス金利」は、金融緩和策の一環として導入されたが、ねらっていた「景気回復」にはつながらず、株価も低迷したままであり、円高傾向もつづいている。他方、副作用がではじめている。
 米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の試算によると、日本の地方銀行の本業の利益をしめす業務純益は、マイナス金利によって二〇一六年度に一五%へるという。大手の銀行は八%減であり、大手の倍の純益減になるという。
 銀行は預金と貸し付けの金利差で利益をあげるのを基本業務にしている。あらたな投資先が見つからず企業への融資が停滞するなかで、地方銀行は、日銀の当座預金にあずけることと国債を購入することによって資金運用をしてきた。ところが今後あずける日銀の当座預金がマイナス金利になり、これに連動して長期物の国債の利子もマイナスかゼロになったため、これらの運用による利益をあげることができなくなっている。

無担保や外債購入リスクが拡大
 そこで地方銀行は、生き残り策として、金利の高い無担保ローンを拡大し、おなじく利回りのいい外債購入による資金運用をはじめようとしている。
 個人の無担保ローンは、これまでサラ金が主としてあつかってきた分野である。無担保ローンには、使い道が自由なカードローンと、使途が限定されているマイカーローン、教育ローンなどがある。横浜銀行の場合、住宅ローンの金利が一〇年固定で〇・七二五%、カードローンの金利は一・九~一四・六%となっている。カードローンは金利が高く、今日の状況のもとでは銀行にとって大きな利益をあたえてくれる“救世主”になりつつある。もちろん、担保がない分、リスクも高い。
 静岡銀行では、個人の各種無担保ローン合計が二〇一三年三月末から二〇一五年一二月末の三年弱のあいだに二倍以上ふえ、残高が六三一億円になっている。地方銀行があつかっている融資全体の額からすれば、無担保ローンの割合はまだまだ小さいが、マイナス金利移行にともなって今後拡大することが予想される。
 預金がふえてもマイナス金利でしか運用できないため、預金がふえればふえるほど銀行の収益が悪化するという異常事態になっている。そこで地銀の多くは預金をふやさないために定期預金の金利を引き下げはじめている。
 しかし、一部には逆に金利をあげるところもでており、マイナス金利のもとでの「顧客獲得」競争が激化している。
 金融庁は、こうした競争によって地銀が消耗すれば、打開策としてリスクの高い外債や不動産むけ融資などがふえると見て、監視体制を強めるとしている。また、今後、地銀の経営が悪化していけば、さらに地銀の合併(統廃合)がすすむとみられている。
 一方、大手の都市銀行は、地銀とちがって手数料収入や海外融資の業務での収入も大きいため、マイナス金利による打撃は地銀ほどではない。
 しかし、日銀のマイナス金利導入があまりに唐突であったため、金融機関は対応の準備ができておらず、そうとう実務上の混乱がおこった。また、個人預金の大量引き出しの危険性もあり、金融機関の日銀への批判が高まっているという。地銀も大きいところは地方の独占的金融機関として人民や中小企業の上に君臨してきたが、マイナス金利の導入によって金融機関全体の内部矛盾が激化している。
 
過剰生産危機が景気回復はばむ
 金利や通貨供給量をいくらいじっても日本経済はいっこうに停滞から脱却できずにいる。それは、実体経済のところで生産手段の私的所有制がもたらす過剰生産危機が深刻になっており、労働者、勤労人民の貧困化がこの危機をいっそう促進させているからである。
 企業のふところには内部留保がふえつづけ三五〇兆円にも達しているということは、過剰生産のためにこれ以上生産を拡大できないことをしめしている。こうしたなかで安倍政府・黒田日銀が、アメリカの指揮にしたがって金利をさげ、通貨供給をふやしても問題は解決せず、あらたな危機をつくりだす以外にないことは明白である。