『人民の星』 
  6085号2面 2016年4月23日
アベノミクスの三年間 独占資本だけが豊かに
人民の生活はいっそう悪化

 一二年末に再登場した安倍政府は、アベノミクスなる経済政策をとってきた。だが、みんなの生活はよくなるどころか、いっそう苦しくなり、一握りの米日独占資本・大企業だけがぼう大な儲けをあげている。アベノミクスの三年間とはなにか。

円高・株高で儲けさせる
 アベノミクスは、デフレスパイラル(物価下落と利益減少がつづくこと)こそ日本経済の停滞の根源で、デフレ退治のために、二%のインフレを目標にし、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、あらたな成長戦略をとっていくことが三本の柱だといった。
 大胆な金融緩和とは、銀行保有の国債を日銀が買い上げ、市中にでまわるカネを倍にするということだった。
 機動的な財政政策とは、約一三兆円の一二年度補正予算と約九二兆円の一三年度予算の一五カ月予算をくみ、約二〇兆円の公共投資のばらまきをやることだった。
 これらの結果、急速に円安・株高がすすんだ。しかしそれもゆきづまった。昨年半ばには株価はあがらないようになり、円はドルにたいして円高になりはじめた。国内総生産も縮小した。
 そこで安倍政府は昨年九月に、「名目GDP六〇〇兆円」「介護離職ゼロ」「希望出生率一・八」という「新三本の矢」をうちだした。だが、今年はじめから、株価下落、円高がもっとすすみ、アベノミクスは破たんしている。

三年で五割ふえた経常利益
 ところがこの間にしっかりと懐をふとらせたものがいる。つまり、アベノミクスによって、安倍が首相の座についた一二年一二月に八三・五八円だった円の対・ドルレート(月平均)は一五年一二月には一二一・九二円と四六%も下落し、日経平均株価は同時期、一万三九五円から一万九〇三四円と八三%上昇し、一五年半ばには一時期、二万円台をつけたことで儲けた者がいる。
 円安・株高と非正規労働拡大、海外資本投下拡大などによって、独占大企業はばく大な利益を手にした。全産業(金融・保険業を除く)の経常利益はつぎのようになっている。
 一二年=四八兆四六一一億円
 一三年=五九兆六三八一億円(前年比二三・一一%増)
 一四年=六四兆五八六一億円(同八・三%増)
 一五年=七〇兆八〇〇四億円(同九・六%増)
 つまり三年間で二二兆三三九三億円も経常利益が伸びた。この経常利益のうち五六%強は、資本金一〇億円以上の独占大企業が占めている。
 個別企業では、たとえばトヨタ自動車はつぎのようになっている。
 一四年三月期(一三年四月~一四年三月)決算=純利益・一兆八二三一億円(前年の二倍)
 一五年三月期決算=純利益・二兆一七三三億円(前年の二割増)
 三菱UFJ、三井住友、みずほの三大メガ銀行の場合、三行の純利益の合計は、つぎのとおりである。
 一三年度=二兆五〇〇〇億円超
 一四年度=約二兆四〇〇〇億円
 一五年四~一二月期=約二兆円
 一三年から一五年にかけてのアベノミクスの三年間に、企業の設備投資、売上高はほぼ横ばいで、生産はまるでのびていない。
 つまり、独占大企業は、円安・株高で資産をふくらませ、ぼろ儲けしている。独占大企業はグループ内の各企業の株式を保有しあっており、各企業の利益をもとにした配当はばく大なものなっている。ある調査では、〇三年度から九年間の企業の受取配当金の合計額は六五兆五四九五億円になり、このうち資本金一〇億円以上の独占大企業がその約九割を占めている。つまり株高になれば、濡れ手に粟で儲かる。
 こうした結果、二〇一五年九月末の全産業の利益剰余金(内部留保額)は三四三兆円と、一二年一二月の二七四兆円から六九兆円もふえた。

賃金は下落し非正規ふえる
 同じ時期、従業員の給与と賞与をあわせた額は、三五兆一〇〇〇億円から三三兆五〇〇〇億円へ一兆六〇〇〇億円も減少した。勤労者の実質賃金指数も、二〇一〇年を一〇〇とすると、一三年が九八・三、一四年が九五・五、一五年が九四・六と、毎年、下落の一途である。独占大企業の利益の増大とは逆に人民の貧困化がすすんだ。
 貯蓄ゼロ世帯も一二年の一四二一万七〇〇〇世帯から一五年には一八八八万六〇〇〇世帯と四六六万世帯も増えている。
 独占資本の利益拡大の大きな要因は、正社員の削減と非正規労働者の増大である。一三年一月に正規労働者・職員数は三三三六万人、非正規労働者・職員数は一八二三万人だったが、一五年一二月には正規労働者・職員数は三三一六万人、非正規労働者・職員数は二〇三八万人となった。わずか三年間で、正規労働者・職員は二〇万人へり、非正規労働者・職員は二一五万人もふえた。非正規労働者の多くが月に十数万円以下、年間所得が二〇〇万円以下で、子どもを生み育てることも困難である。
 安倍政府は他方で、消費税率を八%にひきあげ、軽自動車税の引上げ、七〇~七五歳の高齢者の窓口負担二割、健康・介護保険料の値上げ、年金支給の引下げなど、労働者、勤労人民から大収奪をやってきた。
 また円安で輸出が増えるといったが、人民にとっては輸入原材料や輸入食品などの輸入価格の値上がりによって生活物資のなにもかもが物価上昇となり、それが生活を直撃した。

円安で生活物資が値上がり
 輸入物価の値上がりというが、独占資本が価格をつりあげるのであり、独占資本が人民から収奪したのである。また、中小企業は倒産だけでなく廃業がふえた。その結果、消費は長期に低迷し、安倍政府がいう来年春からの消費税率一〇%引上げなどでたらめで、消費税そのものを廃止しなければならない。
 消費税はどこにでも課税されるように思われるが、輸出企業は逆に税金を懐にいれる。政府は、海外の業者、消費者に日本の消費税を負担させるわけにはいかないとして「消費税輸出免税制度」(輸出戻し税)をもうけ、輸出企業については、「仕入れのために消費税として支払ったことになっている全額をはらいもどす」。
 ちなみにトヨタ自動車の消費税戻し税額(推定額)は、一三年度(消費税率五%)が一四〇二億円で、税率八%になった一四年度は二五九四億円も税金を懐にした。それは一四年度は上位一〇社で約七八三七億円にのぼり、一三年度の一・八倍にもなっている。消費税一%あがれば二兆円の税収になるといわれているが、一兆数千億円が輸出戻し税で独占大企業への懐にはいる。

消費税上げ法人税は下げる
 安倍政府は人民に消費税引上げをおしつけたが、独占大企業には、法人税率の引下げをおこなった。法人実効税率は、一三年度の三七・〇〇%から一四年度は三四・六二%、一五年度は三二・一一%、一六年度は二九・九七%、一七年度は二九・七四%と五年間で七%以上もひきさげたのである。
 独占大企業は、税金をできるだけはらおうとはしない。いま騒がれているタックスヘイブン(租税回避地)だけではない。合法的な税金のがれをやっている。
 トヨタは、〇九年から一三年まで日本国内の法人税等を払っていなかった。政府が日本企業の海外進出を奨励するとして、〇九年に「外国子会社からの受取配当の益金不算入」という制度をつくった。海外の子会社が儲けてもその配当は課税対象にしないというもので、海外で儲けても国内で赤字なら税金を払う必要がないとした。こうした手口で、独占大企業は税金逃れをやっている。
 そのために、独占大企業は儲けの一部を政治家や政党にばらまき、都合のいい政策や法律をつくらせる。それは、政府、政治家、政党の腐敗の温床でもある。

アベノミクスは米国の要求
 安倍政府のすすめるアベノミクスは、日本の独占大企業ばかりでなく、アメリカの要求でもある。安倍の経済政策を立案するのはアメリカ仕込みのブルジョア学者や官僚だ。日銀の研究所にはアメリカ人の著名な学者が顧問としてはいっている。安倍がいちいちアメリカの著名な経済学者らをよんで意見を聞くことでもあきらかである。
 消費税引上げや軽自動車税引上げなど自体がアメリカの要求である。すでに日本企業の株式の三分の一をアメリカを中心とした外資がにぎる。アベノミクスでぼろ儲けした利益は、株主配当のかたちで、アメリカの金融資本の懐にながれこむ。
 アベノミクスは、米日独占資本の利益のための政策であり、労働者、人民を徹底的にしぼりあげるためのものである。全人民の力で安倍政府をうちたおし、あたらしい政治を実現しなければならない。