『人民の星』
6086号4面 2016年4月27日
知らぬ間に広がるカード
便利さの裏で税取り立て
携帯電話、スマートフォン(スマホ)とならんで人民生活のなかに浸透しているのが、通常「カード」と呼んでいる「ペイメントカード」(決済用カード)である。現金よりも割安に購買できる、ポイントがつくというので生活のなかに浸透している。安倍政府は、二〇二〇年を目標に現金の使用をなくす「キャッシュレス革命」なるものをうちだし、さらなる消費を拡大し、あわせて徴税効率を引きあげようと狙っている。
ポイント付与 利用者増やす
労働者や勤労者に日常的にカードをどの程度利用しているかを聞いた。
ヘルパーをしている四〇代の婦人は「洋服など単品で比較的値段の張る物はクレジットカードで買う。ネットのオークションを利用することもある。その決済はクレジットカードになる。スーパーなどでの買い物はプリペイド式のカードだ。ときどきチャージ(入金)する必要があるから、使いすぎが防げる。いつのまにかいろいろなカードがふえ、財布についているカード入れだけではおさまらない」とはなしている。
民間の労働者は「たまにスーパーで買い物するので、その店のポイントカード(Tカード)とコンビニのカード(ナナコカード)、それに銀行のキャッシュカードをもっている。スーパーで支払う場合は現金の方が多い。ほとんど使っていないのもある。ポイントをめあてにしたことはあまりない」という。
食品関係の三〇代のパート婦人は「クレジットカードもあるけれど、日常的にはスーパーとコンビニのカードを使うことが多い。子どもがいるのでコンビニで飲み物をよく購入するが、ポイント対象のお茶などの商品を何個か買って一個おまけがついてくるというように利用している」とはなしている。
その婦人は「ポイントといっても一〇〇円で一ポイントで、ポイント五倍デーといっても一〇〇円にたいして五円だから、ほんとうはそれほどお得感はないのだが、おなじおカネを払うのならポイントカードの方がいいと思っていたら、いろいろなお店のカードがたまってしまった」ともいっている。
スーパーで買い物をする幾人かの婦人労働者は「仕事帰りに買い物にいき、レジの前が混雑していると疲れる。自分の番がまわってきて財布から小銭をさがしてださずにすむだけでも便利かなと思う」と口口にはなしている。
こうした話から各種のカードがひろがる理由の一端が見えてくる。
都市部では交通ICカード
都市部になると「パスモ」「スイカ」「キタカ」などといった交通系ICカードがひろがっている。改札口の機械にカードをかざすだけで、ことなる会社の交通機関にも乗り継ぎができることなどから急激にひろがっている。割引がある、優待がうけられるというのをうたい文句にしている。さいきんでは異業種間の連携で、交通機関のICカードがあれば駅周辺の駐車場や関連施設を割安で利用できる新種の商売もはじまっている。
いまやスーパーやコンビニ、家電量販店、衣料品店、レストラン、映画館、遊園地、娯楽施設などありとあらゆる施設の利用がカード方式になり、現金を使う場面が減少している。
日本クレジット協会が二〇一四年一二月に発表したところによれば、クレジットカードの発行枚数は二億五九七九万枚にのぼり、日本の人口の二倍をこえる。
「合理化」絡め政策的に拡大
同年の信用供与額、すなわちカード会社などが一年間に消費者を信用して貸しだしてクレジットカードを利用した金額がおよそ四一兆円にのぼる。そのうちわけは、現金(キャッシュ)をひきだして利用した額が約一兆七〇〇〇億円で、のこりの約三九兆三〇〇〇億円は買い物のときにクレジットカードが使われた額である。前の年と比較するとキャッシング(現金)は約一兆七〇〇〇億円とかわらず、買い物(ショッピング)が約三七兆二〇〇〇億円と二兆一〇〇〇億円もふえている。
これを一五歳から六四歳までの生産年齢人口(約七九〇〇万人)で単純に割ると、平均五二万円(月額およそ四万三〇〇〇円)の利用ということになる。これには、事前に現金を入金するプリペイド式カードの利用はふくまれていない。
重要なことは、カードの普及が売上げをあげるための資本(企業)による上からの強制的な力によって意識的にすすめられてきたことである。交通系ICカードがもっともわかりやすい。利用者は行き先までの料金を自分で確認し、自動券売機で乗車券を購入した後、自動改札機をとおして乗車する。この方式にしただけで一九七〇年代半ば以降、駅員の大幅な人員削減、「合理化」がすすめられた。二〇〇〇年を前後してICカードを導入することで使い捨ての乗車券の発行枚数は大幅に削減できた。
スーパーなどでの買い物でも同様だ。カード決算にすれば準備しなければならない釣り銭用の現金は少なくてすみ、集計機能も大幅に向上し、パートの削減につなげられる。POS(販売時点情報管理)システムと連動させれば、どこの店舗でどういう商品がよくでているかという情報も瞬時にわかり、商品の回転効率を上げ、利益増が期待できるということである。資本にとってなによりも好都合なのは、不況で現金がなくても商品販売をふやすことができることである。ポイントやその他の「特典」を付与することによって購買意欲を誘発することができる。
徴税強化柱に政府が推進策
二〇一四年の御用納めとなる一二月二六日、安倍政府は内閣官房と金融庁、消費者庁、経済産業省、国土交通省、観光庁の連名で「キャッシュレス化に向けた方策」を発表した。同年六月に閣議決定した「日本再興戦略、改訂二〇一四」の具体化で、クレジットカード利用率一八%の現状を引きあげようというのである(「韓国」の利用率は五〇%でアメリカは二四%)。
方策の核心は、①外国人観光客をふくむクレジットカード、デビットカード(注)使用の利便性を向上させる、②事業者にクレジットカード使用における安全管理の向上をもとめる、③公的分野での電子決済の拡大、の三点である。
なかでも安倍政府が力をいれようとしているのが、③の「公的分野での電子決済の拡大」である。わかりやすくいえばクレジットカードなどで税金や水道料金などの公的な決済を可能にするということだ。
大阪市で実験的に実施された生活保護費のプリペイドカードによる給付もその一つである。批判が強く大阪市は実施を中断したが、全国で実施されればカードでの物品購入の品目を限定し、生活保護受給者の行動を規制することができる。国や自治体がだす給付金に使用期限を設けるなら、早期の消費を強制することも可能になる。
マイナンバー制度の導入にともない政府は、二〇一七年一月には「マイポータル/マイガバメント」の運用をはじめる。マイナンバーのカードに公的分野のカード決済機能をもたせれば、政府による税のとりこぼしがなくなり、収奪は確実に強まる。
外国人観光客のクレジットカード、デビットカードの使い勝手をよくするというのは、東京五輪にむけた一時的な収益構造の強化であるが、公的分野でのカード決算の導入は収奪の継続を意味する。とりわけ安倍政府が狙う「戦争国家」には大衆的な徴税の強化が不可欠の課題である。カードの普及のなかでひそむ政府の企みを見過ごすことはできない。
(注)デビットカード 即日決済のカードのこと。商品を購入したり、サービスをうけてから一カ月後に代金が引きとされるのがクレジットカードである。プリペイドカードは前払い方式である。「特典」がないか少ないために日本ではあまり普及していないが、米欧はクレジット、デビットのカードの使用率が高い。