『人民の星』 
  6087号1面 2016年4月30日
自衛隊機調達 安倍政府の税乱費
震災の裏ですすむ高額兵器の大量購入

 熊本地震で被災した人たちが困難な生活とたたかっている。ところがその震災の裏で、安倍政府が米国製兵器を買うために湯水のように税金を使っている。自衛隊の装備品調達の実状はほとんど知られていない。装備の調達はアメリカの軍事戦略の変化にほんろうされ、日本の自主性などまったくない。社会的に隠蔽していることをいいことに、露骨な対米従属性とそこから必然的にうみだされる腐敗状況(血税の浪費)がくりかえされている。

多用途ヘリ後継機の場合
 陸上自衛隊の多用途ヘリコプターであるUH―1Hとその改良型のUH―1Jは現在、あわせて一三一機配備されている。アメリカのベル・ヘリコプター社のUH―1の輸入による自衛隊への配備がはじまったのは一九六二年である。その後、富士重工業がライセンス生産をはじめ、改良がくわえられ、H型、J型が導入された。改良型の導入数は総計二六三機にもおよんでいるが、すでに初期納入機体の退役がはじまっており、最新型のUH―1Jも二〇〇七年度をもって調達が終了した。
 多用途ヘリは、陸上自衛隊の攻撃や輸送の訓練をはじめ、海外派遣や大規模災害での救援などに使われた。同時に、UH―1型は単発ヘリのため、洋上の飛行のさいの不安や航続距離が不足するとの意見もでていた。
 このため防衛省は後継機をきめるさいの指標として、①高温・高標高領域での超低空飛行性能、②長距離洋上飛行時の安定性、③現行機より大幅に向上した速度(一四〇ノット以上)と航続距離(二三〇㌔㍍以上)、④現行機と同等以下の価格(一機約一二億円)、をもりこんだ。
 当時、この条件をみたす機種は海外メーカーにすでにあったが、防衛省は国内軍需産業育成の観点から、わざわざ海外メーカーにはない重量五㌧という項目をもうけたりして事実上海外メーカーを排除した。こうして二〇一二年に生産者は、OH―1観測ヘリコプターをもとにした機体を提案した川崎重工にきまった。

東京地検使い国産化つぶす
 ところがここでアメリカの代理店といわれている東京地検特捜部がうごいた。UH―Xの選定で防衛省と川崎重工とのあいだで官製談合があったとして、家宅捜索をおこない、幹部自衛官二人を官製談合防止法違反で略式起訴した。防衛官僚と軍需産業のゆ着はどこもやっており、たたけばいくらでもほこりがでてくる。それを利用して東京地検は政治的な動きにでたのである。こうして、次期ヘリUH―Xの国産路線をアメリカはつぶした。
 民主党から自民党に政府がかわると安倍内閣の防衛相・小野寺五典(当時)はすぐさまUH―X計画の白紙撤回を表明し、防衛省は二〇一三年一一月に正式に川崎重工との契約を解除した。
 安倍政府になって防衛政策は大きく展開し、アメリカの中国封じ込め戦略にそった装備がせまられるとともに、いっそうアメリカへの従属があらわになった。在日米軍では普天間基地などで旧ヘリのオスプレイへの更新がはじまり、自衛隊にも導入されることは時間の問題となった。とうぜん新多用途ヘリUH―Xにもその影響がでた。

欧州製排除し最後は米国製
 防衛省は二〇一四年八月、①UH―Xを民間機との共用型とし、国内企業と海外企業との共同開発とする方針を決定した。また、②使用目的としては「島嶼侵攻事態、ゲリラ攻撃事態など各種事態における空中機動、航空輸送、患者の後送、などの戦斗支援を実施するほか、大規模災害の人命救助、住民の避難、空中消火、航空偵察、国際平和協力活動等における支援物資空輸などに使用する」としている。
 米軍の作戦と一体となった使用を強めることをうちだしている。また、民間機との共通した機体をつくり、それを軍仕様にして使用する方式とした。このねらいは、ケタ違いに高価なオスプレイを自衛隊に購入させるためにできるだけその他の機種の単価をさげることと、民間機として売るためにはアメリカ連邦航空局(FTA)の発行する型式証明を得なければならず、そのノウハウをもっている米企業が参入しやすいようすることにあった。
 こうしてあらたなUH―X開発の方針がでるなかで、富士重工は米ベル・ヘリコプター社と組み、同社のベル412EPI(現行UH―1を原型にしたもので、これに双発化した強力なエンジンをとりつけ、羽根も四枚にした)をもとにした機体を提案した。
 川崎重工は欧州のエアバス・ヘリコプターズと組み、民間機としてベストセラーになった機種の後継型とするX9を提案した。
 三菱重工は、昨年試験飛行をおこなった旅客機MRJの開発で手一杯でこのUH―Xには応募しなかった。
 新味のとぼしい富士重工・ベル社提案より、川崎重工・エアバス提案の方が断然有利と見られていた。ところが防衛省は二〇一五年七月、富士重工業と米ベル・ヘリコプター社が共同提案した現行機の改造開発型を採用することをきめた。こんにちまで、自衛隊の主要なヘリコプターは全部アメリカ製とそのライセンス生産でおこなっており、今回もまたアメリカ製にきまったのである。
 次期多用途ヘリUH―Xは、今後二〇年をかけて自衛隊に約一五〇機導入される。開発経費約一三三億円、平均量産単価一機一二億円、整備維持をふくめた総コスト三七四一億円の事業としている。二〇一五年度予算としては一〇億二六〇〇万円が投じられている。安倍政府にとって軍事予算はいくらあってもたりないのである。

オスプレイ配備で 攻撃ヘリ調達突如中止
 垂直離着陸型輸送機オスプレイは「中期防衛力整備計画」(二〇一四~一八年度)で一七機を購入することになっている。一七機は住民が猛然と反対している佐賀空港に配備させる計画である。防衛予算があまりにふくれるため一括購入はあきらめ、今年度はとりあえず四機を購入しようとしている。
 昨年五月五日に米国の国防安全保障協力局が米議会の武器輸出承認を得るために提出した案では、日本に輸出するオスプレイが一七機と予備エンジン四〇基、赤外線前方監視装置、ミサイル警報装置、訓練費などをふくむと三〇億㌦(約三六〇〇億円)となっており、実際には一機当たり二一一億円にもなる。機体そのものも一機で一〇〇億円を軽く超える。
 オスプレイの特徴は、スピードが他のヘリコプターの倍近く早いのと、航続距離がながく、給油なしで五〇〇㌔㍍を行動半径とし、給油をうけると一一〇〇㌔㍍にのび、中国沿岸部を攻撃して帰ってこられる。日本の防衛のためには必要なく、安倍が「集団的自衛権の行使」などといって米軍の下請けとして自衛隊を世界中に派遣して戦争をはじめることから必要になったものである。もちろんそれを安倍にやらせたのはアメリカである。
 普天間基地にアメリカ海兵隊のオスプレイ部隊が配備されている。日本の安全をまもるというのならそれで十分であるはずだが、佐賀空港にさらに配備するのである。一七機も配備するということは、いざというときに米軍の肩代わりをさせようということにほかならない。

訴訟騒ぎと浪費に近い調達
 この裏で、問題が発生している。陸上自衛隊はボーイング社製の攻撃ヘリAH―64Dを二〇〇二年から富士重工がライセンス生産して六二機を調達する計画をすすめていたが、自衛隊は二〇一〇年に突如やめるといいだし、一三機を調達した段階で中止した。自衛隊は調達中止の理由をあきらかにしていない。だが、オスプレイ配備が背景にあることはあきらかだ。
 富士重工はライセンス生産のため相当な初期投資をしているが、二〇〇八年以降、初期投資の分割支払いが途絶えた。元がとれない富士重工は国を相手に三五一億円の支払いをもとめる訴訟をおこす騒ぎとなった。一審は富士重工の訴えをしりぞけたが、二審で東京高裁は国に初期費用を全額しはらうよう命じた判決をくだした。国はこれを不服として最高裁に控訴している。
 政府と軍需産業はゆ着もすれば泥仕合も演じている。だが、いずれも人民の血税に寄生して戦争でもうかる関係にある。対戦車攻撃ヘリの問題では、AH―1SもAH―64もライセンス生産でアメリカの何倍もの価格で調達し、しかも高すぎるためネットワーク機能をはずしており、米軍との共同作戦も実際にはできないという。また、AH―1Sはいまでも七〇機配備されているが、速度が遅いため大型輸送ヘリについていけない。自衛隊がAH―1Sの導入をはじめたとき、「韓国」や「台湾」は同型機ではあるが、もう一段階新型を導入している。万事この調子である。
 航空自衛隊が導入予定のステルス戦斗機F35も、ほとんど完全なアメリカからの輸入品になっている。
 アメリカの言いなりにしか装備も配備できず、さからえば東京地検が動き、多くの人が震災で苦しんでいるときに、まさに植民地的な退廃が自衛隊と軍需産業をおおっている。