『人民の星』 
  6089号1面 2016年5月7日
安倍政府 米国に95兆円
年金積立 郵政資産 円安政策のために使う

 第二次安倍政府は三年がすぎたが、この間に国債発行は一三三兆円ふえ、国家財政の悪化がいちだんとすすんだ。そのしわ寄せは、勤労人民におしつけられ、年金支給の引下げや医療費・教育費の自己負担増大となってあらわれている。安倍が悪化させたのは国家財政だけではない、年金資産や郵貯資産を証券投資につぎこみ、九五兆円以上の資産をアメリカに流出させている。すでに株価下落で資産目減りが危惧されているが、今後リーマン級の金融恐慌がおこれば数十兆円がふっとぶ危険地帯に足をふみいれている。人民の資産を使って「円安・株高」政策をすすめたアベノミクスの犯罪はゆるしがたいものがある。

株価が暴落すれば紙くずに
 第二次安倍政府が誕生したのは二〇一二年一二月である。当時、東日本大震災と福島第一原発事故によって原発依存政策は破たんし、火力発電への切り換えによる石油の輸入が増大し、貿易赤字が拡大する事態となった。これは大量の円の海外流出を意味し、円安傾向はさけられない経済状況にあった。
 同時に、リーマン・ショックによる経済恐慌からの回復時期にあり、日本経済が不況に転じることはアメリカ経済にも打撃をあたることになり、日本の「景気回復」は安倍政府にとって至上命令となった。そこでうちだしたのが「二%インフレ達成」路線であった。円安をすすめることで外国投資家の日本への証券投資をうながし、株価をひきあげ、金融緩和もやってとにかく見かけ上の「景気回復」をつくるというものであった。
 「円安・株高」をすすめるために安倍が利用したのが、年金積立金と郵政資産であった。年金積立金や郵政資産は、戦後ながらく預金と安全度の高い国債などを購入することで運用されてきた。ところが「ゼロ金利」から「マイナス金利」まで導入されるなかで、事実上、安全な資産運用ができなくさせられた。こうして安倍は、危険度(リスク)の高い、株式や外国債券などの証券投資を全面解禁していったのである。

一三七兆円の年金資産投入
 安倍政府は二〇一四年一〇月に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用方針を変更した。株式や外国証券への投資規制を大幅にゆるめ、資産構成を変更し、①国内債券(日本国債など)三五%、②国内株式二五%、③外国債券(米国債など)一五%、④外国株式二五%とした。実際には、これに四~九%の幅をもたせたため、国内株式は最大三四%、外国債券は最大一九%、外国株式は最大三三%運用できるようにした。
 こうして一三七兆円の規模をもつ年金積立金が国内市場と海外市場にながれていった。
 いくら安倍政府が「株高」を保証しているからといっても、株価はその企業の業績を反映するため、生産増、投資増による利潤拡大が見込めなければ、投資家は株式を購入することはできない。日本経済は慢性的な過剰生産状況にあり、震災による打撃もあって停滞状況がつづいており、それを反映してどうしても株価がさがる。
 そういうときに、GPIFが株式市場に資金を投入して、株価をひきあげる役割をはたしてきたのである。しかし、それも限界があり、昨年秋から今年にかけて株価の下落がつづき、現在も東証の日経平均が一万六〇〇〇円台にとどまっている。年初から二〇〇〇円も低い水準である。
 二〇一四年のGPIFの運用変更までは外国債券、外国株式をあわせて全体の二八%であった。それが現在三六%までひきあげられている。一年あまりで一〇兆円の年金資金がアメリカを中心にした海外にながれ、総額五〇兆円が米国債やアメリカ企業の株式などに投資されている。
 グラフにあるように、経常収支(国際収支)の黒字が二〇一五年にはいってふえ、日本にドルがはいってくるなかで、通常なら円高になるのであるが、年金資金(円)の海外流出で円安傾向が持続されている。

郵政資産もアメリカに開放
 安倍が「円安」をすすめるために、またアメリカ財政をささえるために動員したいまひとつの資産が、郵貯・かんぽ資産である。郵政の東証への上場をテコに、郵貯・かんぽ資産のアメリカへの流出をすすめた。
 郵貯の資産は二〇五兆円(二〇一五年末)で、外国証券は四四兆円(二一%)に達していた。二〇一四年六月時点では外国証券は一五兆円であったから、約二九兆円が短期間のうちにアメリカに流出した。おなじく、かんぽ資金も一兆円がながれており、郵政関係では三〇兆円がアメリカにながれたと見られる。
 こうして、これまでは金融恐慌がおこっても、年金資産や郵政資産は基本的に安全であったが、今後は株価と運命をともにすることになる。リーマン級の恐慌が発生し、株価暴落がおこれば、数十兆円が紙くずになると指摘されている。安倍政治は、アメリカの言いなりになって日本人民の財産をそっくり供出する売国政治である。