『人民の星』 
  6090号1面 2016年5月11日
安倍訪欧 G7首脳と会談 経済政策一致せず
恐慌避け消費税引上げ狙うが

 首相・安倍晋三は五月の連休を使って欧州に「出張」し、最後にロシアによって各国首脳と会談してきた。目下、最大の課題となっている経済恐慌突入への回避のために「財政出動」を訴えてまわったが、英独からは色よい返事は得られず、五月二六日からおこなわれるG7(伊勢志摩サミット)も中身のない政治ショーにおわることを予見させるものとなった。G7の行き詰まりの背景には、米日欧各国の人民斗争の発展、植民地・従属国の反帝斗争の発展がある。

人民斗争が各国政府しばる
 安倍の訪欧日程は二〇一四年のときとまったくおなじで、正月から計画されていた。安倍政府は五月の「伊勢志摩サミット」を今年前半の最大の外交のヤマ場にすえ、そこで安倍は議長国首脳として米欧諸国首脳にたいしてふるまい、参議院選挙に利用しようと考えていた。また、サミットを口実に五月の大型連休には物見遊山もかねて欧州のG7参加国を訪問しようとしていた。
 ところが、世界経済は恐慌の崖っぷちにたっており、そのうえ熊本・大分に大地震がおこり、のんきに外遊するどころの話ではなくなった。当初の四月二九日からの訪欧計画を二日間おくらせ日程も短縮せざるをえなくなった(一四年のときはけっこう観光地をまわっている)。
 今回の訪欧の特徴は、G7(米、英、仏、独、伊、加、日)の欧州首脳と直接会談して、サミット宣言のおとしどころをつかむことと、最終日にロシア大統領プーチンとの会談を設定したことである。

経済恐慌回避が最大の課題
 G7の最大の課題は、経済恐慌の回避である。安倍は五日におこなったロンドンでの記者会見で「世界経済の“下方リスク”と“脆弱性”が高まっている。こうしたリスクに、G7が、いかにして協調して立ち向かうことができるかが、伊勢志摩サミットの最大のテーマだ」とのべた。
 そして「この低迷した状況から、一気呵成に抜け出す。“脱出速度”をあげていくためには、金融政策だけでなく、財政政策においても、機動的な対応が強くもとめられる」として、各国首脳にたいして積極的な財政出動(公共事業の拡大など)を訴えた。これに同調したのは仏伊だけで英独はのってこなかった。
 そればかりかイギリスは、六月にEU離脱の国民投票をひかえており、離脱が世界恐慌の引き金にもなりかねないので、これをおしとどめることが米日にとっても必要であった。すでに四月に欧州をおとずれた米大統領オバマは、英首相キャメロンとの会談のなかでEU残留を強く訴えた。ところが、これが「内政干渉だ」と強い反発をうけ、離脱派がさらにふえる事態をまねいた。
 オバマの訪欧外交の尻ぬぐいをするために、安倍もおなじように英首相との会談でEU残留支持をあきらかにした。

使い古しの財政出動訴える
 安倍の主張する財政出動も、実際には破たんしている。日本ではこの間の土木・建築産業の大「合理化」によって、労働者が激減しており、現在でも「職人不足」の状態にある。熊本・大分大地震で日本はいやがおうにも財政出動しなければならないが、この間、労働者、職人の不足で公共事業予算が執行されないという事態がつづいている。
 米日欧帝国主義をおそっているのは資本主義制度そのものがつくりだす慢性的過剰生産危機であり、これがリーマン級の深刻なものに発展するのかどうかのところにきている。
 日本経済も「株価下落、円高」がすすんでアベノミクスが破たんしている。安倍は、なんとか見かけだけでも「景気回復」をつくりだし、来年四月の消費税引上げを強行したいと考えている。そのため熊本・大分大地震はその被災規模においても阪神大震災に匹敵するものとなっているが、けっして「大震災」という言葉は使わず、「激甚災害指定」もしぶったのである。日本発の恐慌になる危険性が高い消費税引上げに固執するのは、アメリカが強く要求しているからである。

米国にせがまれ消費税固執
 リーマン・ショックでいっきに世界最大の債務保有政府となったアメリカは、いよいよ国家財政の危機を深めている。次期大統領候補のトランプが、日本にたいして在日米軍の経費を全額負担するようもとめているのは、そうした事情を反映している。オバマ政府も在日米軍にたいする「思いやり予算」の減額をゆるさず、毎年一九〇〇億円もむしりとっている。これをさらに拡大したいのがアメリカ政府の本音であるが、オバマをはじめ歴代米政府は欺瞞的にそれをすすめようとしてきた。これにたいし、トランプは本音をむきつけに語っているのである。
 「思いやり予算」ふくめ在日米軍にたいしては毎年総額七〇〇〇億円前後の経費を日本政府が負担しているが、さらに五八〇〇億円(五五億㌦、二〇一六年度の在日米軍への米国の支出)以上を日本政府がだせというのがトランプの主張である。そのためには強力な税収奪が必要であり、消費税引上げをはじめ、いまやられている自動車税増税など一連の増税、各種保険料の引上げ、医療費の自己負担拡大などが不可避なのである。
 安倍は六日、ロシア南部のソチにはいり、そこでプーチンとの非公式会談をおこなった。ロシアにたいしてはウクライナ問題で西側諸国が制裁措置をとっており、日本もそれに参加している。そうしたなかで、非公式ながら会談を設定したということは、アメリカの容認もしくは指示があったと見ることができる。
 アメリカは「アジア重視戦略」をとっており、中国の台頭を阻止し、中国包囲を強め、最終的には戦争もふくめて中国政府の転覆をたくらんでいる。そこから、中露のあいだにくさびをうちこむことを重視しており、ロシアにたいして圧力もかけつつ、一定の譲歩もしている。安倍はアメリカのアジア重視戦略にのって、ロシアとの関係をすすめ、北方領土返還の道をつなげておきたいという願望がある。こうした思惑のもとにプーチンとの会談がやられたのである。
 安倍の訪欧は、帝国主義が危機におちいっており、結託にも亀裂がはいっており、人民が団結して斗争すれば、反動政策をうちやぶることができるところにきていることをしめしている。