『人民の星』 
  6090号1面 2016年5月11日
米大統領選 クリントンは虐殺者
人民運動が国務長官時の犯罪暴く

 米大統領選挙にむけた共和党の候補者選びは三日のインディアナ州での予備選挙で不動産王トランプが勝利したことで、上院議員クルーズ、オハイオ州知事ケーシックが撤退を表明し、トランプを候補者として指名することが確実となった。アメリカの独占ブルジョアジーが本命とみなす民主党の元国務長官クリントンの陣営は、放言をくりかえすトランプへの批判をあおり、トランプを阻止できるのはクリントンだと売り込みをはかろうとしている。だが人民運動は、クリントンが国務長官のときになにをやってきたかを暴露する行動を強めている。
 今回の米大統領選挙の特徴の一つは、民主党、共和党を問わず既成の政治家にたいする人民の強い批判が反映されていることである。トランプが共和党主流派をしりぞけ、指名獲得を確実にしたり、民主党ではウォール街のための政治を批判するサンダース候補がクリントンを追いつめているのも、これがある。
 もう一つの特徴は、大統領選挙という条件を利用し、時給一五㌦の最賃の実現、緊縮財政政策の撤回、人種差別反対、戦争反対をかかげ、ウォール街の銀行や金融ファンドをはじめ一握りの支配層のための政治に反対する人民斗争が発展していることである。これがサンダース候補の躍進の原動力ともなっている。
 三日段階の獲得代議員数はサンダースが一四〇三人で、クリントンの一七〇五人を追いあげている。クリントンが指名獲得に近づいているのは議員や知事など特別代議員五一三人の支持をえているからにすぎない(サンダースは四一人)。
 予備選挙・党員選挙の指名争いでクリントンは四月にサンダースに七連敗を喫するなど、威信が失墜している。そのためクリントン陣営は「トランプ対クリントン」の宣伝を強めている。
 共和党の重鎮で、対日政策の専門家である元国務副長官アーミテージは三月なかば、アメリカの支配階級中枢の意向をうけ「トランプ氏が指名されるならクリントン氏に投票する」と表明している。これは「日経」との会見のものだが、「日米関係のためにも(トランプよりも)クリントン氏だ」と安倍政府や日本の政界に指示をだしている。
 四月末に訪米し、アーミテージらの戦略国際問題研究所をおとずれた元防衛相・小野寺五典、前農相・林芳正、民進党の元外相・前原誠司らは、トランプに「懸念」をしめす発言をした。クリントンへの期待をあらわしたのである。

クリントンこそがタカ派だ
 一方、アメリカの人民運動は、「イスラム教徒の入国禁止」などトランプの排外主義発言を批判すると同時に、「クリントンこそが根っからのタカ派だ」と批判している。
 クリントンの選挙キャンペーンへの抗議行動は各地でくりかえされている。四月にボルチモアでひらかれたクリントンの演説会にはデモ隊がおしかけ「クリントンは戦争犯罪人」「クリントンはパレスチナ人を殺した」「クリントン大統領は黒人を“食い物”にする」「戦争推進者」などと批判した。四月二〇日にフィラデルフィアでひらかれたクリントンのキャンペーン会場におしかけたデモ隊は「クリントンは虐殺者だ」と怒りの声をあげた。
 人民団体はクリントンが国務長官のとき(二〇〇九~一三年)になにをしたか、具体的に暴露している。湾岸戦争いらいの反戦団体である国際行動センターは四月一七日にニューヨークにあるクリントン陣営の本部への抗議行動をおこなったが、このときにクリントンの「前科」として暴露したのは以下の点である。
 リビアでの「人道」をかかげたアメリカ・NATO(北大西洋条約機構)による侵略・大量虐殺、カダフィ政府転覆を指揮し、その国土荒廃と混乱をまねいた。
 中米のホンジュラスで民主的に選出された政府を軍事クーデターによってたおしたのを支持した(二〇〇九年)。カリブ海のハイチをアメリカなどに開放させ、新自由主義の“天国”にするために独裁政権のお膳立てをした(二〇一〇~一一年)。
 シリア内戦(二〇一一年~)は、アメリカの中東戦略の利益のためのクリントンの政策の産物。クリントンはイスラエルのパレスチナ自治区などへの戦争を擁護し、軍事援助の増額を約束した。
 クリントンはウクライナとロシアとの国境にNATO部隊を配置し第三次世界大戦の危機を引きよせ、親米政権への軍事・財政援助拡大を提唱している。クリントンは上院議員のときも、イラク、アフガニスタンへの侵略・占領の熱烈な支持者だった。
 また、民主党候補者討論会のなかでサンダース候補も、クリントンを批判している。サンダース候補は「あなたは経済を破たんさせたウォール街を救済した」「ウォール街から一五〇〇万㌦も(政治献金を)もらっている人に、大統領の資格があると思わない」と批判するとともに、クリントンが対イラク開戦承認決議案に賛成したこと(二〇〇二年一〇月)を批判した。またクリントンが北米自由貿易協定や環太平洋戦略的経済連携協定の支持者だったことを批判した。
 米大統領選挙がかつてない政治状況となっているのは、アメリカの衰退と世界的な範囲での反米の人民運動の発展、アメリカ人民の斗争の発展を背景にしている。アメリカの独占ブルジョアジーは、これまで候補者選びもふくめた一年以上にわたる大統領選挙を人民を欺瞞(ぎまん)する道具としてきたが、もう思いどおりにはならない。