『人民の星』 
  6090号4面 2016年5月11日
東京五輪 運営費は六倍の1兆8千億円
莫大な税金で補てんへ

 東京五輪・パラリンピックの経費がぼうだいな額にのぼり、ただでさえ苦しい人民生活を圧迫する要因になろうとしている。東日本大震災で生まれ故郷から追いだされて不自由な避難生活をおくっている人が何万人といる。くわえて熊本でも大規模地震で多くの人が家屋の倒壊で避難生活を余儀なくされている。そのなかで、オリンピックにかこつけて甘い汁をすおうとゼネコンをはじめとする大手資本がうごめき、安倍政府がそれに便宜をはかる構造があきらかになってきている。最後は税負担として国民全体におしつける東京五輪の浪費政治をゆるすことはできない。

ゼネコン優遇の「官金横領」
 昨年一二月、東京五輪の組織委員会は、五輪招致の立候補段階でしめしていた大会準備、運営に必要な経費が三〇〇〇億円から六倍の一兆八〇〇〇億円にふくらむことになると突然発表した。そして、組織委員会の財源だけでは大幅に不足するので、国や東京都に補てんしてもらうと平然といってのけた。税金で補ってほしいということであって、ツケは都民、国民にまわすということをいっているのとおなじである。

少額で計上し実施時に増額
 組織委員会がしめしたそのうちわけとは、①仮設の競技会場の整備費などが三〇〇〇億円、②会場に利用する施設の賃借料などが二七〇〇億円、③警備会社への委託費などセキュリティー関連費が二〇〇〇億円、④首都高速道路に専用レーンを設けるための営業補償費など選手や大会関係者の輸送に関する経費が一八〇〇億円、がおもなものだという。
 金額がもっとも多い①の仮設競技会場の整備費は、当初、七二三億円との見積もりをだしていた。それがいつの間にか四倍の三〇〇〇億円にあがった。「仮設」といってもプレハブ建設のようなちゃちなものではない。たとえば江東区有明に建設する自転車競技施設は、六五億円もの工事費を見積もっている大事業である。二〇一一年に静岡県伊豆市に完成した屋内型自転車競技施設「伊豆ベロドローム」は、世界基準の板張り二五〇㍍トラック、常設一八〇〇席で、工事費が約三五億円だった。五輪の仮設は、それのおよそ二倍もの工事費をかけるりっぱな施設である。大会終了後は解体し、資材は別途利用するとはいっても六五億円がかかるのだ。
 そうした仮設だけで東京五輪では一一施設つくる。新設が一一会場(恒久施設に)で、その他をくわえて三七施設を建設、整備する。当初見こみより四倍にふくれあがったのは、東日本震災の復興などで資機材が高騰し、人件費があがっているためだと組織委員会は、言い訳している。だが、それらははやくからわかっていたことである。いくら資材が高騰しているといっても、四倍も六倍もふくれあがったりはしない。
 はじめからカネのかかる東京五輪の誘致に批判的な国民世論をおさえ、IOC(国際オリンピック委員会)での審査を有利にするために意図的に費用を低く見積もったものである。そして工事がはじまり、どうにもならないところにきて「経費がかかりふくらみそうだ」などといって、計画を強引におしとおすハラだったのである。
 ハコモノ・公共事業はおおむねこうした手法ですすめられる。少ない額で計画をしめし、地域住民に反対しづらい状況をつくり、実際には計画をどんどんふくらませていく。大手ゼネコンがうまいところを独り占めし、あとあと批判がおきない程度に地方の業者におこぼれをまわすのだ。
 組織委員会が予算がオーバーしそうだとしめした先の四項目の内訳は、一兆八〇〇〇億円にたいして合計九五〇〇億円である。のこり八五〇〇億円はいったいなにに使われるのか。組織委員会は、詳細をあきらかにしていない。四項目の経費も妥当なものなのかどうか、判断するすべもない。こうやってゼネコンだけでなくオリンピックに関連する独占・大資本に資金がまわる構造ができているのだ。
 そして、年度替わりのどさくさにまぎれて、「運営費は一兆八〇〇〇億円でもたりない。二兆円はこえるだろう」とか、「最終的にはトータルで三兆円ぐらいになるのでは」といった世論づくりもはじまっている。

新国立の損失61億回収不能
 これは「公金横領」といってもいい。もしもオリンピックにかかわる組織委員会や国、東京都がふくらんだ経費はみずからが負担するとなれば、これほど人だましの運営費の計上などしない。最後は税金で尻ぬぐいする(労働者や勤労人民に負担をおしつける)と考えているからこそ、湯水のように予算を注ぎこもうとしているのである。
 メインの新国立競技場の建設費が一三〇〇億円の予算からふくらんで二五〇〇億円になることがあきらかになり、昨年は批判意見がいっきにふきあがった。それは東京五輪の開催そのものに疑問をなげかけるするどいものとなり、設計段階から見直しがおこなわれるはめになった。大騒動のすえに「エコ」を売りに、予算をいくらかさげた計画がきめられたが、この計画変更だけで、六一億二〇〇〇万円が回収不能になっているといわれている。
 その内容は、ザハ氏(故人)を代表する設計事務所との契約料(一四億七〇〇〇万円)をはじめデザイン監修料、日建設計など四社からなる共同企業体(JV)の設計業務(三六億五〇〇〇万円)、施工予定業者で設計にも携わった大成建設、竹中工務店の技術協力料(七億九〇〇〇万円)などとなっている。六一億円はいわば損害にあたるが、その責任はだれもとらず、好き勝手に大金がつぎこまれているのである。
 盗作騒ぎになったエンブレムも同様である。最初の図案は昨年九月、撤回するハメにおちいったが、その損失だけで五七〇〇万円になる。ポスター作製、エンブレム発表のイベント料など関連の費用をくわえると総額一億九〇〇万円になるといわれる。

ギリシャ危機五輪が一因に
 大会運営の原資となるのは、組織委員会のスポンサー収入やテレビの放映権料、チケット販売代金などである。それらはあわせても四五〇〇億円程度と見られている。一兆三五〇〇億円は不足するとみられるが、規定で国と東京都でわけあうことになる。ようするに税金で尻ぬぐいする仕組みになっている。すると今度は、運営費は二兆円にのぼるのではないか、という話がでたり、さらには三兆円はかかるとさわがれはじめた。
 いま、五年がすぎた東日本や熊本・大分などの九州では震災で何万人という住民が不便な生活をしいられている。そうした人人の苦難はそっちのけで、もっとふくらむかもしれないというオリンピックがらみの利権にゼネコンや政治家がまとわりついている。
 引きあいにだされるのは、ギリシャの経済危機が二〇〇四年のアテネ大会での重い財政負担が引き金になったという現実である。けっして人ごとでないのは、一九六四年の初の東京オリンピック大会後、日本経済の危機があらわになったことである。このときの“オリンピック不況”は、赤字国債がふくれあがる一つの要因になり、いまでは負債額は一〇〇〇兆円以上にのぼっている。税金の負担がすこしふえたというだけではすまない経済危機が人民生活におしよせる危険性は、十分に予想される。
 「一億総活躍社会」などといいながら人民生活の改善、向上にはなにもせず、外遊と日米の軍事同盟強化にうつつをぬかす安倍政府は、東京五輪開催でも、人民生活に深刻な影響をあたえる事態をまねいているにもかかわらず、ごり押しですすめようとしている。