『人民の星』
6091号2面 2016年5月14日
在日米軍増強の米国の新アジア・太平洋政策
アメリカでは次期大統領選挙にむけた候補者選びの真っ最中であるが、すでに次期大統領のためのアジア太平洋戦略の検討がすすめられている。米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が、今年一月一九日に米国防長官カーターに提出した「アジア太平洋リバランス2025 能力、プレゼンス、パートナーシップ」と題した報告書がそうである。報告書は、アジア太平洋重視政策を継続するうえでの課題をならべており、そのなかで、日本の役割を重視し、在日米軍を増強して、日本をアメリカのための戦争の基地にしようとしている。
この報告書は、米議会が国防権限法にもとづき「米太平洋軍の担任区域におけるアメリカの軍事戦略と同地域における同盟国、友好国の軍事態勢にかかる独立評価(第三者機関による評価)」をおこなうよう国防総省に義務づけたのをうけ国防総省がCSISに委託したものである。同報告書は、国防長官のコメントを付したうえで同月二〇日に議会に送付された。この報告書は米政府の今後のアジア太平洋戦略に重要な影響をもつ。
オバマ政府は、中東侵略が失敗し、いっそうアメリカの力が低下し、財政危機から軍事費の抑制をしいられるもとで、一一年一一月頃から、台頭する中国をにらんで対中戦争もふくめた抑止・封じ込めとして「アジア太平洋リバランス政策」をうちだし、アジア太平洋への軍事力の増強をはかり、侵略をたくらんできた。
だが報告書は、これまでの政策について「いままでの政策の遂行はアメリカの国益をまもるには不十分であり、また一部国家の行動がアメリカの関与の信頼性に日常的にいどみつづけ、アメリカの能力向上が仮想敵のもたらす挑戦に追いつけないことから、地域の軍事バランスはアメリカにとって不利なものになりつつある」と評価をくだした。
その原因として、①オバマ政府がいまだに明確で統一的で一貫したアジア太平洋戦略をうちだせていないこと、②中国がアクセス阻止・エリア拒否(A2/AD)能力を発展させたため、前方で展開あるいは作戦する米軍部隊が危険におちいる可能性が増加していること、③中国のリスク(危機)許容力が予想以上で、南中国海等での作戦テンポおよびスプラトリー諸島(南沙諸島)の七つの人工島での飛行場や施設の建設が加速していることなどをあげ、中国の軍事力の脅威を強調している。
同盟国を米戦略に動員
したがって報告書は、アメリカのアジア太平洋における権益拡大の政策を継続するために、これまで以上に同盟国・友好国をアメリカの戦略に動員することを重視しており、報告書ではアメリカの軍事態勢だけでなく、従属国の軍事態勢も評価対象にしている。また各種提言を実施するうえでのコストの見積りもおこなっている。
報告書は、アジア太平洋重視の政策を継続するために、①アメリカ政府内および同盟国・友好国の間で戦略を一致させること、②同盟国・友好国の能力、回復力、インターオペラビリティ(兵器の相互運用性)の強化、③アメリカの軍事的駐留の維持・強化、④革新的な能力と概念の開発の加速、の四つの提言をおこない、それぞれに具体的な施策を提言している。
日本に直接かかわる具体的な施策ではつぎのようなものをあげている。
②の同盟国・友好国との強化では、高度な軍事力を有する日本、オーストラリア、「韓国」などとの協力が必要と強調しており、システム、訓練、兵站(へいたん)、作戦構想の開発、一部の作戦任務などを共有し、統合的な取組をすすめるべきだとしている。
また、東南アジアの同盟国・友好国間での海洋安全保障分野の能力のギャップが大きいので、日本、「韓国」、豪州などの軍事先進国を動員してテコいれすべきとしている。つまり、中国の海洋進出をおさえるために、東南アジア諸国の軍事力強化が必要であり、そのために同盟国を使ってテコいれするということである。
日本に司令部置き戦争
さらに、戦争をかまえるために平時から西太平洋における常設統合任務部隊を創設するべきとしており、それは日本本土から沖縄、台湾、フィリピンにいたる第一列島線内に設置した方がよく、危機発生時にはアメリカ第七艦隊が前方展開司令部として機能すべきとしている。第七艦隊は現在、米海軍横須賀基地(神奈川県)を拠点としており、日本に前方展開司令部をおいて戦争をおこなうということである。
そのために、「日本は同盟調整メカニズムの設置に同意したが、危機や紛争発生時に共同で統合して早急に対応するために必要なC2(指揮・統制)要素が欠けている」といい、日本政府に統合作戦司令部設置を提案すべきとしている。つまり、米日の統合作戦司令部を設置して、米軍指揮下に自衛隊をくみこんで戦争をやるということである。
③の米国の軍事的駐留の維持・強化では、「日本の沖縄における米軍のプレゼンスは戦略的に必要不可欠であり、普天間基地から代替の辺野古への移転は再編の重点だ」といい、あくまでも辺野古への新基地建設をすすめるべきだとしている。
横須賀に第二空母配備
また、水上艦艇部隊を拡充すべきだとして、長期的には第二の空母を配備し、その候補地として米海軍横須賀基地を検討するように提言している。
横須賀基地には、すでに原子力空母ロナルド・レーガンを配備しており、修理機能もそなえている。このため第二空母の配備は横須賀が最適と見なしている。そうなれば、空母レーガンの艦載機部隊を厚木基地から岩国基地に移転させても、厚木基地にはあらたな空母の艦載機部隊を配備するということである。
報告書では、「空母の追加配備は攻撃をうける危険性はあるが、抑止を強化し同盟国・友好国にたいする再保証を確実にする」と手前勝手なことをいっている。
海兵隊については、アメリカは一二年から豪州のダーウィン基地に米海兵隊をローテーション配備しはじめているが、その輸送手段として、現在、米本土に配備している第10両用即応グループ(強襲揚陸艦を核とする揚陸艦隊)を日本(たとえば佐世保)に移動させるべきだと提言している。佐世保にはすでに沖縄配備の海兵隊を輸送するために第11両用即応グループを配備しているが、豪州配備の米海兵隊を輸送する揚陸艦隊も佐世保に追加配備することをたくらんでいる。また、米軍の両用戦部隊の輸送手段を日豪に共有させることもたくらんでいる。
民間空港も米軍が使用
空軍については、「東アジアでは米空軍の主要な作戦基地が少なく、巡航ミサイルや弾道ミサイルによる攻撃にたいし脆弱であるため、米空軍は同盟国・友好国の施設や民間空港などの簡素な基地を利用した航空作戦基盤の分散化を検討中」としている。ようするに、日本の自衛隊航空基地だけでなく、民間空港も米空軍が軍事使用できるようにするというのである。民間空港の使用は、すでに二〇一三年の第三次アーミテージ・ナイ報告でも、米空軍や海軍が民間空港を使って訓練することを提言していた。
兵站面では、戦争が発生すれば輸送での危険が増大するので、精密弾薬の事前集積をすすめるべきだとしており、日本とグアムに長距離誘導ミサイル、「韓国」にJDAM(統合直接攻撃弾)を事前集積することを提言している。また、域内のミサイル防衛では、迎撃ミサイルの在庫を増加させるとともに、日本と「韓国」のシステムとリンクさせるべきだとしている。アメリカの指揮・統制のもとで、日本と「韓国」のミサイル防衛システムを使うということである。
さらに、太平洋軍の責任エリア内で同盟国との連携によるISR(情報収集・警戒監視・偵察)の強化をあげている。アメリカはすでに、日本に南中国海での米日共同によるISR活動を要求している。
「安保」破棄基地撤去を
アメリカは、おのれの権益のために在日米軍を増強して対日支配をいっそう強めて、日本を属国としてアメリカの戦争の戦場にしようとしている。安倍政府の対米従属の戦争政治は、この方向にそったものである。
日本人民が、「日米安保」を破棄し、米軍基地をたたきだして、対米従属の鎖を断ち切って真に独立をはたすことは、平和な日本とアジアを建設していくうえでの、さしせまった課題となっている。