『人民の星』 
  6111号1面 2016年7月23日
貧困につけ込み自衛官募集
米国流の「経済的徴兵制」

 貧困に苦しむ若者を自衛隊にひきこむ動きが強まっている。三月末の安保法(戦争法)施行により、アメリカ主導の戦争の肉弾として、安倍政府が日本の青年を動員する枠組みをつくろうとしている。
 防衛医科大学校はさいきん「苦学生求む!」という学校案内のビラをつくった。「医師、看護師になりたいけどおカネはない!……こんな人を捜しています」というビラを、川崎市内の高校生らに自衛隊の募集案内とともにおくりつけた。
 防衛医大は、幹部自衛官を養成する防衛大学校同様、入学後は公務員扱いとなり、学費は無料で給与もでる。そのかわり、卒業後九年間は自衛隊に入隊する義務を課せられ、その間に途中退職すれば期間に応じて学費返還をせまられる。その額は、最高で四六〇〇万円にものぼる。
 高知市の私立高である高知中央高校は今年度から、普通科に「自衛隊コース」を新設した。銃剣道の授業や自衛隊への体験入隊も想定している。自衛隊コースは一週間のうち六時間を自衛隊関連の授業にあて、退職自衛官や現役自衛官が講師をつとめている。四時間は銃の形をした木製武具を使う「銃剣道」、二時間は自衛隊の歴史や活動を学ぶ座学をおこない、自衛隊への体験入隊や、自衛官の採用試験対策もやっている。
 漫画雑誌『少年サンデー』は五月の連休前から「あおざくら 防衛大学校物語」という漫画の連載をはじめた。家が自営業で大学進学をあきらめた主人公が、「月一一万一八〇〇円、手取りで九万一〇〇〇円くらい。夏冬ボーナスが年額三五万二〇〇〇円」と「タダで大学にはいれておカネがもらえる」という話にひかれ、防衛大学校に入学するという話だ。
 物語は東日本大震災からはじまり「三・一一 その時、国は動いた。市民を守るために。災害派遣、領土防衛、テロ問題、国際援助活動。この物語は国の防衛を志した、若者たちの青春の物語」と、災害救援の“美談”にことよせて、若者を軍隊に誘いこもうという筋書きだ。

とつぜん自衛隊が家庭訪問
 また、自衛隊は各自治体に管内の高校三年生の名前や住所など個人情報を提供するよう要求している。住民基本台帳を閲覧させ、名前、生年月日、住所、性別を書きうつすというものだったが一三年度以降は、自治体向けの自衛官募集協力の大臣通知をだし、「名簿」を提出するよう要求しはじめた。
 各地では、「自衛隊の広報」を名乗る人間が突然家庭訪問し、「自衛隊に入隊する人を募集していて、このあたりを回っている」「こちらに一八歳から二六歳のお子さんはいませんか」と聞かれたという話もひろがっている。その家には該当する年代の男の子がいた。あきらかに特定して家庭訪問しているのである。
 また、全国の高校三年生のもとには、「あなたの未来を自衛隊に託してみませんか」という勧誘のはがきが届いたりもしている。
 防衛相の中谷は全国の高校三年生五人に一人くらいの割合で自衛隊入隊への案内パンフをおくったことをみとめた。
 自衛隊の南方配備が問題になっている沖縄県の石垣市では自衛隊沖縄地方協力本部石垣出張所の職員が中学三年生と高校三年生の家庭を直接戸別訪問して自衛隊への勧誘をしたことが、地域的な問題になった。

文科省有識者会議で論議に
 二〇一四年五月二六日に文部科学省の有識者会議「学生への経済的支援のあり方に関する検討会」がひらかれたが、その場で経済同友会副代表幹事・専務理事の前原金一はこう発言した。
 「(奨学金)返済の延滞者が無職なのか、低収入なのか、あるいは病気なのかという情報をまず教えていただきたい。……放っておいてもなかなかいい就職はできないと思う。……防衛省などに頼んで、一年か二年かインターンシップをやってもらえば、就職というのはかなりよくなる。防衛省は、考えてもいいといっている」
 まともな就職口もない学生たちを「収入」を保証することで自衛隊に入隊させよというもので、まさに「経済的徴兵制」そのものである。
 いまどきの大学は学費などふくめて自己負担がきわめて重い。将来の就職を考えて進学しようとする青年たちは奨学金に頼らざるをえない。三四歳以下の五三%の青年が奨学金を利用し、その借入額は平均三一二万九〇〇〇円、返還期間は平均一四・一年にのぼるという調査結果もある。一四年度には、三カ月以上返済を滞納してブラックリストに入れられたケースが一万七〇〇〇件以上あった。
 そこまでして進学しても、まともな就職ができる保証もなく、奨学金の返済に苦しむ青年も多い。そうした若者たちを自衛隊へとひきこむのである。

学生対象に予備役将校課程
 防衛省の「国防を担う優秀な人材を確保するための検討委員会」は一三年六月付けの内部文書で、「学生時代からの入隊希望者の取り込みをはかるため、あらたな募集種目をもうけ、日本版のROTC(予備役将校訓練課程)設立を検討する」と明記した。
 ROTCは米軍が大学向けに設置した幹部養成制度で、受講生に学費や生活費を支給するかわりに軍事訓練への参加や軍事講義受講を義務づけ、卒業後は一定期間の軍勤務を義務づけている。受講生の大半は貧困層だ。
 防衛省はまた「自衛隊貸費学生」制度を強化することも検討している。貸費学生は理系の大学生や大学院生を対象に月五万四〇〇〇円を同省が貸しつけ、卒業後に一定期間、自衛官として勤務すれば返還を免除するという制度である。安倍政府は、一五年度予算に同制度採用枠を拡大する予算を計上している。
 さらに防衛省は「教育機関への再就職の拡大について」と題する文書をだしている。「退職自衛官を学校職員・部活動指導員等で活用する枠組みを構築」するというもので、「総合学習等をつうじた(自衛隊募集への)理解の促進」と自衛隊認知の授業を拡大する方向もうちだした。退職自衛官を教育機関へ再就職させ、軍事教練などを復活させることをねらったものにほかならない。
 まさにかつての戦争で「貧乏になって戦争にいった」という事実が、ふたたび再現されようとしている。
 一九七三年に徴兵制を廃止したアメリカでは、軍隊にはいれば教育ローンの返済が肩代わりされたり、学費が免除されたりする仕組みをつくりだし、若者を軍隊にひきこんできた。「経済的徴兵制」とよばれている。米軍は低所得層の青年に狙いをさだめて入隊させ、イラクやアフガニスタンの戦争に投入して命をうばってきた。
 安倍政府はアメリカをまねて「経済的徴兵制」を日本にも導入しようとしている。しかも「日本を守る」ためといって、実際には「アメリカを守る」ため、米軍の肉弾として犠牲にするためなのである。