『人民の星』 
  6123号2面 2016年9月7日
ブラジル議会がルセフ大統領罷免
米指図のクーデター

CIA等が親米政府を策動
 ブラジル上院に設置された弾劾法定は八月三一日、国家会計の「不正操作」を名目にルセフ大統領の罷免を決定した。ルセフ大統領の罷免は、中南米地域でのアメリカの歴史的支配からの脱却をめざしてきたブラジル政府を転覆し、親米政府にとってかえようとしたクーデターであり、黒幕はアメリカのCIA(アメリカ中央情報局)や悪名高い米投資家ジョージ・ソロスらである。
 ルセフにかわって大統領に就任したのは、暫定大統領テメルである。テメルはルセフ政府のもとで副大統領をつとめていたが、「不正会計疑惑」でのクーデターの首謀者であり、CIAのひもつきである。テメルは与党労働者党と連立をくんでいた民主運動党の党首であったが、今年三月に連立から離脱しクーデターの野望をむきだしにし、ルセフ大統領の職務停止(五月)で暫定大統領に就任していた。
 テメルは暫定大統領就任直後から、教育や医療など人民生活支出の削減、労働法制や年金制度の改悪、民営化などの新自由主義の政策を推進した。またリオデジャネイロ五輪への財政支出を拡大した。
 ルセフ大統領の罷免後の大統領就任あいさつでのなかでテメルは、あらためて新自由主義の諸政策の推進をさけぶとともに、九月四、五日に中国・杭州で開催されるG20(主要二〇カ国・地域)の首脳会議に出席して、「ブラジルの政治は安定した」と伝え、米欧や日本との関係修復をはかり「外国の投資をよびこみたい」といっている。これにたいしオバマ政府は、ブラジルとの関係強化に「確信がある」とのコメントでこたえている。

人民はクーデター策動糾弾
 ブラジルの労働者、勤労人民は、大統領選挙でかてない親米野党、反動派が「不正会計疑惑」で大統領の座をうばいとろうとするクーデター策動を糾弾してきた。またテメルらの新自由主義の経済政策の復活を批判し、「テメルはでていけ」と抗議行動をくりかえしてきた。
 八月下旬からは弾劾法廷がひらかれている国会へ連日、抗議におしかけ、全国各地でも抗議行動をたたかった。
 三一日にルセフ大統領の罷免が決定されると、街頭にでて「クーデター糾弾」「テメルはでていけ」と怒りの声をあげた。
 ルセフ氏は「斗争は継続している」と訴え、労働組合は労働政府のもとで貧困解消のための諸施策をくつがえそうとするテメル政府の策動をゆるさないと、斗争態勢を強化している。
 ルセフ大統領の罷免というクーデター策動は、中南米、カリブ海地域でのアメリカ帝国主義、各国反動支配階級と労働者、勤労人民との対立と斗争があらたな局面にはいったことをしめしている。

2000年代に反米政府相次ぐ
 中南米各国では、二〇〇〇年代いらい、アメリカをはじめとする帝国主義の歴史的な支配と新自由主義の緊縮財政政策に反対する斗争が大きく発展してきた。この人民斗争を背景に、反米政府やブラジルのような民族的な政策をとる政府があいついで誕生した。このなかで米政府が推進した米州自由貿易圏構想もほうむりさった。
 ブラジルではブラジル労働者党のルラが大統領選挙に当選し、就任(二〇〇三年)した。ルラ政府は、エクソンモービルやシェブロンなどの米メジャー(国際石油独占体)を排除し、国営石油会社のもとで石油開発をすすめ、これをテコに労働者、勤労人民の貧困の解決に力をいれた。
 またルラ政府は、ベネズエラのチャベス政府や社会主義キューバと連携をとり、中南米各国間の政治・経済の連携に大きな役割をはたした。ルセフはルラの後継大統領である(二〇一一年)。
 米大統領オバマや民主党の大統領候補で前国務長官のクリントンらがまきかえしをはかるためにとった戦略は、キューバへの経済制裁解除など関係改善をすすめる一方で、反米政府や民族的な政策をとる政府を転覆するために反動支配階級や親米勢力を動員し、「反政府デモ」や経済的なサボタージュをやり、政治的経済的な危機の拡大をはかり、クーデターの機会をうかがうというものであった。CIAやソロスらは、こうした策動のために資金をそそぎこみ、政界ばかりか警察や軍隊、検察などの暴力装置のなかにみずからの手先を育成してきた。
 ブラジルでのまきかえしとクーデター策動は、国際的なアメリカの影響力の低下の挽回をはかろうとするたくらみもあった。リーマンショックを契機とした二〇〇八年秋の金融・経済恐慌いらい、ブラジルは中国、ロシアなどとともにBRICSという新興工業国として台頭し、米日欧などのG7は好き勝手にふるまえなくなっていた。

新たな局面の中南米の斗争
 いまアメリカは、中国にたいしては海洋進出での「脅威」をさけび、日本などの同盟国を動員し戦争準備やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の包囲網づくりをやっている。ロシアにたいしてもウクライナでネオファシストをつかったクーデターで親米政府をでっちあげ、「ロシアの脅威」をさけんで東欧諸国へのNATO(北大西洋条約機構)軍部隊、米軍部隊の配備を強化し、戦争挑発を強めている。中近東地域では、シリア政府転覆策動をめぐって、シリア政府を支援するロシアとの対立を深めている。
 ブラジルでのクーデター策動は、こうしたアメリカによる世界的な範囲での戦争策動とむすびついている。アメリカを盟主とする戦後の帝国主義世界支配が、世界的な範囲の人民斗争によって大きく揺らぎ、その瓦解に拍車がかかるなかで、それをくいとめようとアメリカ帝国主義はなりふりかまわなくなっている。
 ブラジルをはじめ各国人民は、搾取も抑圧も、戦争もない未来をきりひらいていくために、人民斗争を労働者、勤労人民の政府をうちたてる革命斗争として発展させる課題に直面している。アメリカをはじめとする帝国主義、反動勢力の策動とたたかい、労働者、勤労人民、被抑圧諸民族の未来をきりひらいていくためには、議会選挙などのブルジョア民主主義の枠内にとどまっていることはできず、国家権力を奪取しなければならないことをブラジルの政治状況がはっきりとしめしている。