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No.006 これも一つの販売手段

トイレットペーパーや洗剤などの、いわゆる消耗品を販売している会社がある。

外まわりの営業をしている社員には、やっぱり個人あたりの目標と言うか、ノルマがある。

ずいぶん昔のことになるが、自分はそこの社員の人とちょっとした縁で知り合い、彼から色々な話を聞かせてもらったことがある。

例えば今月度の売上が悪いと、月末になって、ある朝、店長からこんな感じで言われる。

「今日の目標は一人あたま、トイレットペーパー8ケース(段ボール箱入り)じゃ! 会社まわって全部売りさばいて来い! 全部売れるまで帰ってくな! 」

まぁ、実際に売れなくても夜の9時ごろになったら勘弁してもらえるらしいが、早く達成出来たらそれだけ早く家に帰れる。

自分にも経験があるが、トイレットペーパーなら簡単に売れるだろうと思っていたら、全然そんなことはない。いきなり持っていってもほとんど断られる。


そういう時、ここの社員のある一人はこういう手を使う。

適当に目を付けた、その辺の会社にトイレットペーパー1ケース勝手に持って入って、

「こんにちはーっ、○○商会でーす! トイレットペーパー持って来ましたー!」

と、あたかも電話で注文を受けたかのように堂々と「持って来ました。」と言い切る。


すると相手は

「トイレットペーパー?誰か頼んだ?」
「さあ、持って来てくれたんだから、頼んだんじゃない?」
「まあええわ、どうせ使うもんじゃけえ、そこ置いとき。」

と言って買ってくれる場合がたまにある。たまにと言うのは断られる場合の方が圧倒的に多いからである。誰も注文なんかしていないというのはすぐにバレる。

しかしバレた時でも「すいません、店を間連えました。」と言ってそこを出ればいいわけだし、相手が笑って済ませてくれそうな雰囲気の時は改めて

「まあ、こうして伺ったのも何かの縁ですし・・」とか何とか言って営業を始めればよい。


この手には他にもレパートリーがあって、こういう言い方もある。

「お待たせしましたー !、○○商会でーす! 洗剤を持って来ましたー!」とか、(別に誰も待ってないんだが)

あるいは洗剤片手にドアまで走って行ってバーンとドアを開け、

「ハァハァ、すいません、遅れましたー! ○○商会でーす! 洗剤持って来ましたー! 」と迫真の演技で迫る。

しかし注文も何も受けてないのに、全然知らない会社へいきなり入って行って、よくこういうことが言える。演技力と度胸がある者だけが実行出来る手段である。


ところで話は変わるが、この数年前、この会社でずいぶんときついノルマが出されたことがあった。

年度末である3月31日を二ヵ月後に控え、今年度は業績がずいぶんと悪い。このままいけば、前年度よりも業績が落ち込むことは確実だった。

せめて前年並みの数字に持っていくためには、「3月31日までにこれだけの売り上げを上げなければならない」という数字が本社から出された。

そしてこの数字を達成するためには、この会社が行っている業務を行いながら、それとはまた別に「これを売れ」という指示が出された。

「二ヶ月間で、一台二万円のデジカメを一人10台ずつ売れ。」

これが各支店に今回出された指示だった。

全支店の社員、百数十人が全員これを達成すれば売り上げの方は大丈夫とのこと。何でデジカメなのか分からないが、とにかくデジカメなのだ。

しかし普段、洗剤とかタオルなどを売っている社員に対して、その仕事とはまた別にこれをやれというのはちょっと無理がある。大体、そんなものは普通電器屋で買う。

自分で一台買って、後は親と親戚に頼んで、それから自分の担当している店の、仲の良い社員に頼んで・・なんてやっても、せいぜい売れて4〜5台というところである。

あちこち頭を下げて回ってもそれ以上はどうしても売れない。相変わらず毎日のように営業部長から説教の電話がかかってくる。


本社から言われている期限まで後、二週間になった。そこの支店でもほとんどの社員が、まだ5〜6台在庫を抱(かか)えている。もう、売れるアテがない・・最終的には自分で全部買うしかないのか・・。

ここでそこの支店長の英断が下った。

「自分で買ったデジカメ持って、市内の質屋とリサイクルショップが、いくらで引き取ってくれるか調べてこい。しょうがないから自分たちで全部買って、そこへ横流しするしかない。いくらかでも金が返ってくるだろう。」

次の日から社員が一斉に動き出した。「質の寿屋は○円でしたーっ」「リサイクルのJOYは○円です。」と、ぞくぞくと情報が集まる。でもどこもあんまり変わらなかったらしいが。

この支店長の指示により、ここの支店はめでたく全員が販売台数を達成し、部長におホメの言葉をいただいた。

だがその翌日から、市内のあちこちのリサイクルショップには、全く同じ型のデジカメが大量に流通していたという。しかし、営業部長がこの事実を知ったらどう思うだろうか。


ちなみに私にこの話をしてくれたある社員は、自分で買うなどということはせずに、きっちり10台分の売り上げ・20万円を上げたという。

「すごいですね、全部売り切っちゃったんですか?」と聞くと、

「いや、実際に売れたのは2台だけよ。あとはパチンコで稼いだ金で穴埋めしたのさ。」(正確にはスロットだが)

朝、「行って来ます。」と言って会社を出て、そのままパチンコ屋へ。一日打って約6万円の勝ち。店を出てから、伝票のお客様名には適当な名前を書いて、商品名にデジカメと書いて、後は稼いだ金を伝票と共に会社に提出する。

これで3台ほど売ったことになる。これを3回繰り返せば18万円の売り上げを計上出来る。デジカメ自体の在庫は減っていないので、これは上記のようにリサイクルショップにでも持っていけば、更に自分の小遣いになる。

しかし、この方法はこの人のようにスロットの達人で、負けることより勝つことの方が多いような人でないと実行は不可能だ。もちろん、負けた場合には、自分の口座から責任をとる覚悟が必要だ。

しかし、会社の名前の入った車をパチンコ屋の前に停めて、一日中、制服姿で打つとはこの男も普通ではない。

ちなみに休みの日にスロットで勝った金は全部自分の小遣いにしているらしい。会社に計上する金は、あくまでも仕事中に打って稼いだ金だけとのこと。公私混同していないところはさすがだ。