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No.016 兄ちゃん、これでジュースでも

自分が昔いた会社の同僚で、こういう目にあった人がいる。

その会社の業務は、取り引き先を車でまわる仕事で、昼ご飯も車の中で食べることが多い。

その人がどこかの駐車場に車を止めて中で弁当を食べていると、「コンコン」と窓ガラスをノックする音が聞こえてきた。ふと横を見ると、ものすごく怖そうな・・例えようもないくらい怖そうな二人組が立っていた。

窓をあけると、「兄ちゃん、ちょっと道を訪ねたいんじゃが、ええか?」と言うので「別にいいですよ。」と言うと「じゃあ、ちょっと助手席に乗らせてもらうわ。」と言って、いきなり助手席のドアを開けられた。


「道を訪ねるのに何で助手席に乗ってくるのか?」と思ったが、その謎はすぐ解けた。でっかい手提げカバンを座席にドカッと置かれて「兄ちゃん、ワシら神戸から流れて来たんじゃがのぉ、ちょっとこれ、買(こ)うてくれいや。」と言う。

ちらっと中身を見ると、中にはエロビデオがいっぱい。「しまった!」と思ったが、もう遅い。(これはまだDVDが普及する前のビデオテープの時代の話)

「なぁ、ちょっとワシらの昼飯代に貢献していや。一本でええからよ。イヤとは言わんじゃろうのぉ。」

とても断れる雰囲気ではない。


「何ですか、これ?これを買えと言うんですか?一本いくらなんですか?」

「五千円じゃ。」

「五千円なんて持ってないですよ。今1500円しか持ってないですよ。」

「ウソをつくな!お前ちょっとサイフ見せてみぃや!」と言うので、

言われるままにサイフを出してみると、中には千円札が一枚と小銭がチャラチャラ・・。


「これだけか!わりゃええ加減にせえよ!」

「す、すいません。1500円でいいんだったら買います。」

「このボケが!しょーがねーなー。1500円に負けたるけぇ、一本買えや。」


「あ、いや、でもやっぱり僕、買わないです。」

「なんじゃとコラ!ここまできてそれで済むと思うとるんか!わりゃ殺したろーか!」

「か、買います買います!」

「おっ?そうかぁ?なんか悪いのぉ、無理矢理買わせたみたいで。」

そういう訳で1500円払った。「兄ちゃん、ジュースでも飲んで昼からも仕事頑張れよ。」と言うので「ジュースなんて買えませんよ、今1500円払いましたから。俺、あと80円しかないですよ。」と言うと、

「おっ?そうかぁ?じゃあこれでジュースでも飲めいや。」と言って100円返してもらった。少しは情けがあるみたいだ。そしてその二人は去って行った。


会社に帰ってから彼は全員の前でこの話をした後、「そーやって買ってきたのが、このビデオや。」と言って、そのエロビデオを誇らしげに全員に見せていた。

自分も見させてもらったが、ケースがプラスチックではなく、白い厚紙で、そのケースにチラシのようなものがセロテープでとめてあって、「定価25000円」と書いてあった。

「仕事中に、あり金全部突っ込んでエロビデオ買ってきたというわけですか。でも、今度から値切らずに、ちゃんと定価で買った方がいいですよ。」

と僕が言うと

「お前、ワシの話を全然聞いてなかったみたいじゃのぉ。」と言われた。

こういう訪問販売は、当たったら最後、逃げることが出来ない。