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No.38 霊は慣れる

谷岡直子さん(28歳)は、10年前のある日、友達と千葉の、とある墓場へ肝試しに出かけた。まだみんな若く、軽い気持ちで行ったのだが、これが後になって直子さんを苦しめる結果となった。

友達10人くらいと出かけたのだが、墓場に入るなり、直子さんの目にはいきなり無数の霊が見えてしまった。上半身だけの霊、下半身だけの霊、首だけの霊もいる。それらの霊が墓場の中にぎっしりと立っているのだ。もちろん直子さんも、こんなものを見たことは初めてで、恐怖で立ちすくんでしまった。だが他の友達たちには何も見えてないらしい。

思わず「いるわっ、たくさん。いっぱい立ってる!」と、直子さんが叫ぶと、「キャーッ」と言って、友達たちは一斉に逃げ出した。もちろん直子さんも。だがこの時は、ただ見えただけでそれ以上のことは何も起こらなかった。


異変が起こり始めたのはそれから数日後のことである。ある夜、直子さんが友達と電話で喋っていると、何か窓から視線を感じる。ふと見ると、見知らぬ男が窓の外に立って部屋を除きこんでいるではないか。

「キャッ」と思わず声をあげた。電話口の友達が「どうしたの?」と聞くと、「今、窓の外から男の人が覗いてるの。」と言うと、友達も、「ね、それってストーカーか痴漢じゃないの?」と、心配そうに答えた。

「ううん・・。そういう感じじゃなくて、よく見たら人間じゃなくて、この間墓地にいた、霊の一人みたいだわ。」

「ほ、本当?大丈夫?」と、友達が聞くと、「う・・、うん、でもこの部屋に入ってくる様子はないみたい。」と、直子さんは気丈に答えた。それから10分くらいは電話で喋っていたのだが、いきなり声が震えだした。

「も・・、もうダメ・・。入ってきちゃったのよ。さっきの男とは違う霊が。今、私の両隣に2人立っているわ・・。ゴメン、電話切るわね。」

そう言ってすぐに電話を切り、直子さんは玄関を飛び出した。恐怖で後ろを振り返る余裕はなかった。走って走って、心臓が飛び出そうになるくらい走った。


この時を境にして、直子さんの部屋には次々と霊が出るようになったのである。まもなくして水子の霊が何体も現れるようになった。窓から飛びこんでくるように次々と現れる。

「何なのよーっ、私はあなたたちとは無関係よっ」直子さんは泣きながら叫ぶがどうにもならない。直子さんは身体を硬直させて泣くことしか出来なかった。

だが人間、慣れとはすごいもので、毎日のように霊を見ていると、そのうちだんだんと何も感じなくなってきた。そのうち霊と会話をするようになり、時にはなぐさめてあげたり、話を聞いてあげたりアドバイスをするほどにまでなってきたのだ。毎日遊びにくる霊もちらほらと出てきた。


ある日、直子さんが家に帰ると、一人の女性が正座をしてしくしくと泣いていた。歳のころは10代のようだ。身体が半透明で、明かにこの世の人間ではない。すでに慣れてしまってる直子さんは、別段怖がることもなく、
「あなたは誰?」と聞いてみた。だが返事はない。泣いているだけだ。

「黙ってたんじゃ分からないでしょう。何か言いたいことがあるなら言ってみなさいよ!」とちょっとイライラして叱るような口調で言ってみた。

だが、霊は泣きながらそのままスーッと消えてしまった。
「もう、勝手なんだから、全く。」
と言って、直子さんは霊のいたところを蹴るマネをした。


次の日もその霊は家に帰ると部屋で待っていた。今度は話が出来た。目黒加奈子という名前も名乗った。話を聞くと、彼女は付き合っていた男がいたが、結局は捨てられ、男は別の女と結婚してしまったというのだ。それを悲観して彼女は電車に飛びこみ自殺をした。

彼女の話を聞き、なぐさめたり時には叱ったりと、直子さんは友達であるかのように接していると、彼女は毎日遊びにくるようになった。いや、彼女だけではない。色々な霊が彼女と話がしたくて集まってくるようになったのだ。

だが、隣に住んでいる人からすると、毎晩直子さんの部屋からひそひそと一人で喋っている声が聞こえてくるわけであり、そのうち直子さんは変人扱いされるようになってしまった。


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