萩限定 ふまじめどうわ
きくがはまの決闘
あるところに、ひろいひろいそれはうつくしい砂浜がありました。
すんだ海は、空の青をうつしていっそう青くかがやき、おだやかな波は、いつもやさしく砂浜へとささやきかけます。
ちいさな貝たちは、きままにおさんぽ。しおかぜがにこにこ見まもっています。
どこまでもおだやかな、その砂浜の名前は、「きくがはま」。
きくがはまは、やさしい浜。
きくがはまは、いつもやさしい浜。
いつまでも、ずっといつまでも、そんな毎日がつづいていくはずでした。
ところが・・・。
ある日のことです。
きくがはまに、ひとりのらんぼうものがやってきました。
名前は、シズキヤマン。
「やいやい、おれさまは、世界一強いんだ。
みんな、おれさまのいうことをきけ。」
シズキヤマンは、大声でどなりながら、ちいさな貝たちをけちらかします。
青い海はみるみる色をなくし、おだやかな波はあわてて遠くにかくれてしまいました。
「はっはっはっ。おれさまはせかいいちだ。
だれか、おれにちょうせんするやつはいないか。」
シズキヤマンはさらに大声であばれつづけます。
そのときです。
「ちょっとまった。おれがうけてたつぜ。」
いつのまにか、シズキヤマンのすぐうしろに、直角にまがったかいじんが立っていました。
「おっ、おまえは、カイマガリン!・・・あいかわらず見通しのわるいやつだ。
これでもくらえっ。」
シズキヤマンの目から、オレンジ色のはげしい光がとびだしました。
「ううっ、ま・まぶしい・・・、でも、美しい。まぶしいのに美しすぎて目がはなせない。
これが、うわさに聞いた、『きくがはまの夕陽ビーム』かっ。」
カイマガリンは、よろよろとたおれそうになりました。
「うっ、目が・・・、目が・・・。いやいや負けてはおれぬ。
かくごしろっ!『夏みかんの丸づけこうげきー!』」
カイマガリンの手から、つぎつぎと夏みかんの丸づけがとびだし、シズキヤマンに命中しました。
ごつんっ、ごつんっ、ごつんっ・・・。
「い、いたいっ。いたすぎる。そして、あまい、あますぎる。
せめて、うすく切ってから、こうげきしてくれえ。」
あまりのいたさに、シズキヤマンは、泣きながらにげていきました。
「わっはっは。これで、おれさまが世界一だ。」
カイマガリンは、ちょっかくにまがったからだを思いっきりのけぞらせて、高らかに笑いました。
そのときです。
「ちょっとまった。わたしがうけてたとう。」
いつのまにか、カイマガリンの前に、大きくて古いかいじんが立っていました。
「おっ、おまえは、ハンシャロン!・・・あいかわらず役に立つかどうかわからんやつだ。
これでもくらえっ。」
カイマガリンの手から、また、つぎつぎと夏みかんの丸づけがとびだします。
「うっ、当たったらたいへんだ。」
ハンシャロンは、見た目ではそうぞうもできないような意外なすばやさで、カイマガリンの夏みかんこうげきをかわします。
「ふっふっふっ、わたしに当ててもいいのかな。
わたしは、とってもきちょうな、歴史的けんぞうぶつなんだぞ。
わたしのようなものは、この国に2つしか残ってないんだ。
ふっふっふっ、おまえに、わたしがこわせるかな。」
夏みかんの丸づけでこうげきしていたカイマガリンのうごきが、ぴたりととまりました。
「ううっ、できない。わたしには、こんなきちょうなやつをこわすことはできない・・・。」
カイマガリンはがっくりとかたをおとしました。
「すきあり!カイマガリン。わたしのこうげきをうけてみよ。
『 あつい鉄シャワー!!』」
ハンシャロンのあたまから,真っ赤にやけた鉄のシャワーがとびだしました。
「うわあ、あついあつい、たすけてくれえ。」
カイマガリンは、にげていきました。
「わっはっは。これで、わたしが世界一だ。」
ハンシャロンは、大きくて古いからだを思いっきりのけぞらして、高らかに笑いました。
そのときです。
「ちょっとまった。おいらがうけてたつぞ。」
いつのまにか、ハンシャロンの前に、長くてくねくねしたかいじんが立っていました。
「おっ、おまえは、アイバガワン!・・・あいかわらずまったりしたやつだ。
これでもくらえっ。」
ハンシャロンの口から、また、あつい鉄シャワーがとびだします。
「わあっ、あついっ。」
あつい鉄シャワーがアイバガワンのからだにめいちゅうして、ジュッと音をたてました。
「ああっ、あつい。でも、負けないぞ、おいらのこうげきをうけてみろ。
『今も生活用水パワー!!』」
アイバガワンのからだから、すんだ水がいきおいよくとびだしました。
ハンシャロンのあつい鉄シャワーは、あっというまに冷えてかたまりました。
「・・・す、すごい。すごすぎる。わたしの『あつい鉄シャワー』を冷やしてしまうとは。
しかも、鯉までまじっている。」
よくみると、冷えかたまった鉄のあちらこちらに、美しいさかながまじっています。
「アイバガワン、わたしの負けだ。
おまえは、どこまでも美しいやつだ。」
ハンシャロンは、がっくりと肩をおとして去っていきました。
「はっはっは。これでおいらが世界一だ。」
アイバガワンは、水っぽいからだを思いっきりのけぞらして、高らかに笑いました。
そのときです。
「ちょっとまった。わしらがうけてたつぞ。」
いつのまにか、アイバガワンの前に、巨大な水のかたまりでできたかいじんが立っていました。
よく見ると、そばにはちいさめの水のかいじんがふたり、ぴったりとくっついています。
「おっ、おまえは、アブガワン!・・・あいかわらずびちゃびちゃなやつだ。」
「ふっふっふ、むすこたちも連れてきたぞ。ハシモトガワンとマツモトガワンだ。」
「団体で来るとは、ひきょうなやつめ。これでもくらえっ。」
アイバガワンのからだから、鯉まじりのすんだ水がいきおいよくとびだします。
「なんじゃ、このまったりとしたこうげきは・・・。
こんどはわしらのばんだ、かくごしろっ。
『川のはんらんスパーク!』だっ。」
アブガワンのからだから、ものすごく大量の水がいっきにふきだしました。
むすこのハシモトガワンとマツモトガワンも、いっしょに水をふきだしています。
「わああ、ながされるぅ・・・。」
アイバガワンは、あくまでも美しく流れていきました。
「わっはっは。これでわしらが世界一だ。」
アブガワンは、びちゃびちゃなからだを思いっきりのけぞらせて、高らかに笑いました。
そのときです。
「ちょっとまった。ぼくたちががうけてたとう。」
いつのまにか、アブガワンの前に、小さな水のかたまりでできたかいじんがふたり立っていました。
「おっ、おまえたちは、シンボリガワンとウバクラウンガン!!・・・あいかわらずおもしろみにかけるやつらだ。
これでもくらえっ。」
アブガワンのからだから、『川のはんらんスパーク』がとびだして、シンボリガワンとウバクラウンガンにおそいかかります。
「うわっ、うわっ、たいへんたいへん。」
シンボリガワンとウバクラウンガンは、急なこうげきにびっくりしながらも、なれた手つきで、ふところから大きなおけを取り出しました。
そして、目にもとまらぬはやさで、アブガワンが出す大量の水を、うけとめては、空のかなたへとばし続けました。
「わっはっは。これでぼくたちが世界一だもんね。」
シンボリガワンとウバクラウンガンは、おけをてきぱきかたづけながら、高らかに笑いました。
そのときです。
「ちょっとまった。わたしがうけてたとう。」
いつのまにか、シンボリガワンとウバクラウンガンの前に、鳥居の形をしたかいじんが立っていました。
「おっ、きみは、ショーインジンジャー!・・・あいかわらずありがたいかんじだね。
これでもくらえっ。」
シンボリガワンとウバクラウンガンは、いちどしまったおけを、てきぱき取り出し、ショーインジンジャーに投げつけました。
・・・ごんっ。 ごんっ。
「うっ、よけきれなかった、わたしとしたことが・・・。」
ショーインジンジャーは、ちょっとおちこみました。
「いやいや、こんなことでおちこんではおられぬ。わたしは、人のため日本のためつくさねばならぬ。
よし、こんなときこそ、『飛耳長目光線!』」
ショーインジンジャーは、なにやらぶつぶつとじゅもんをとなえはじめました。
・・・一日長目二日飛耳三日樹明明知千里之外隠微之中・・・
ショーインジンジャーのこうげきはつづきます。
「つぎは、『草莽崛起攻撃!』
・・・イマノバクフモショコウモモハヤスイジンナレバフチノスベナシ、ソウモウクッキノヒトヲノゾムホカタノミナシ・・・
「・・・わからん・・・さっぱりわからん。」
シンボリガワンとウバクラウンガンは、あっけにとられて立ちつくしています。
「わたしのこうげきがわからんとは・・・。
よし、これならどうだ、『松陰読本光線!』
・・・きょうよりぞ、おさなごころをうちすてて、人となりにし道をふめかし・・・
「ああ、これなら知ってる。小さいとき学校でみんなといっしょにとなえたっけ。
なつかしいなあ。」
そのときです。
「ちょっとまった。わたしがうけてたつぞ。」
いつのまにか、ショーインジンジャーの前に、しみじみした空気を全身から発しているかいじんが立っていました。
「おっ、おまえはキクヤヨコチョン!!・・・あいかわらずしみじみしたやつだ。
わたしの『松陰読本光線』をうけてみよ。」
ショーインジンジャーは、また、ぶつぶつとじゅもんをとなえはじめました。
・・・おや思う心にまさる親こころ、きょうのおとずれ何ときくらん・・・
「うーむ、しみじみとした、なかなかいいこうげきだ。しかも、ためになるし、。
だが、しかし、・・・地味だ、地味すぎる・・・。」
それを聞いて、ショーインジンジャーは、ちょっとおちこみました。
「ひるんだな、ショーインジンジャー。こんどは、私のばんだ。
『日本の道百選パワー!!』」
キクヤヨコチョンは、大きな大きな白いかべを取り出し、ショーインジンジャーの前に、どんとおきました。
かべは、どんどん大きくなりながら、じわりじわりとショーインジンジャーの方へせまってきます。
「わっ、わっ、わっ、わっ、なんだこれは。
こら、こら、ちかよるな、あっちいけ、このなまこかべめ。」
ショーインジンジャーは、めずらしくどうようしました。
でも、どんどんちかよってくる巨大なかべには、どうすることもできません。
じわじわとあとずさりしながら、ショーインジンジャーはしずかに去っていきました。
「はっはっは。これでわたしが世界一だ。」
キクヤヨコチョンは、しみじみしたからだを思いっきりのけぞらせて高らかにわらいました。
そのときです。
「ちょっとまった。わたしがうけてたとう。」
いつのまにか、キクヤヨコチョンの前に、海の幸まんさいのかいじんが立っていました。
「おっ、おまえはシーマートン!!・・・あいかわらずしんせんなやつだ。
わたしのこうげきをうけてみよ。」
キクヤヨコチョンは、また、大きな大きな白いかべを取り出して、シーマートンの前に、どんとおきました。
「ふっふっふ、これでシーマートンもおしまいだな。」
かべは、どんどん大きくなりながら、じわりじわりとシーマートンの方へ近づいていきます。
「なんじゃ、これ。」
シーマートンは、そう言うと、そのかべを元気よく、ひとけりしました。
・・・ぱたん。
キクヤヨコチョンのなまこかべは、ぱたんとたおれたまま大きくなりつづけています。
「わっはっは、たいしたことないなあ。こんどは、わたしのばんだ。
『せつきあじショット!!』」
シーマートンの手から、つぎつぎと、あぶらののったおいしそうなせつきあじがとびだしました。
せつきあじは、キクヤヨコチョンのたおれたかべに、ぽんぽんぽんとならんでいきます。
「わあっ、そ、それはやめてくれぇ。
わたしのなまこかべは、まな板じゃないんだあ。」
キクヤヨコチョンは、ショックのあまり頭をかかえてうずくまっています。
「まだまだだ、キクヤヨコチョン。
わたしの『ギョロッケしゅりけん』をうけてみよ。」
こんどは、シーマートンの手からとびだしたギョロッケが、くるくるとまわりながら、キクヤヨコチョンにおそいかかります。
「うわあ、いたいいたい、おいしいけどいたいっ。」
「ふっふっふっ、わたしのこうげきはかぎりないぞ。つぎは、なんにしようかな。よおしっ、
『きんたろうショット!!』
『よめのさらしゅりけん!!』
「うわああああ、やめてくれえええ。」
キクヤヨコチョンが泣きだしました。
そのときです。
「あーもう、うっとおしい!!!。」
どこか遠く遠く、はるかかなたのほうで、ものすごく大きな声がしました。
キクヤヨコチョンもシーマートンも、おどろいてあたりをみまわしました。
「あっ、あなたは、カサヤマン!」
「でんせつのかみさま、カサヤマンのオジジさまだっ!!」
ひときわ大きな山が、はるかかなたの方にういてみえました。
カサヤマンは低い声で、しずかに言いました。
「うるさいやつらじゃのう、ちっとはしずかにせんか。
うるさくてねむれんじゃないか。
これ以上わしのねむりをじゃますると、わしはばくはつするぞ。
ばくはつして、このあたりの地形ぜんぶかえてしまうぞ。」
キクヤヨコチョンもシーマートンも、ものすごくあわてました。
「ごめんなさい、オジジさま。もうしません。
だから、地形をかえるのだけはごかんべんを。」
「オジジさま、ゆるしてください。もう、ひどいことはしません。
だから、地形はかえないでください。」
ふたりは、手をついていっしょうけんめいあやまりました。
それから、あたりいちめんにちらかっている、せつきあじと、ギョロッケと、きんたろうと、よめのさらを、そそくさとかたづけはじめました。
「わっはっはっ、そうかそうか。
じゃあ、ゆるしてやるとするかな。」
カサヤマンは、低い声でごうかいにわらいました。それから、
・・・ポンッ!
と、ちょっとばくはつしました。
「わ、わ、ばくはつした。」
「どうしよ、どうしよ。」
おろおろするキクヤヨコチョンとシーマートンの目に、つぎのしゅんかん、空から大量の『しそわかめ』がふってくるのが見えました。
『しそわかめ』は、いつまでもふりそそぎ、あたりいちめんをおおいつくしました。
「・・・すごい・・・。」
「・・・さすがは、カサヤマンのオジジさまだ。」
あっけにとられているふたりのまわりに、かいじんたちがあつまってきました。
・・・シズキヤマン、カイマガリン、ハンシャロン、アイバガワン、アブガワンとマツモトガワンとハシモトガワン、シンボリガワンとウバクラウンガン、ショーインジンジャー・・・
みんな、手に手にごはんをもっています。
「うれしいなあ、だいこうぶつなんだ。」
「うんうん、おむすびにまぶすのもいいね。」
「わたしは、お茶づけにしようかな。」
「あ、おいらもお茶づけにする。」
「つうは、うどんにも入れるんじゃ。」
「えっ、それは知らなかった。じゃ、うどんも持ってこよう。ほかにいるものないかな。」
「おお、すまんが、お茶もたのむ。」
「ごはん、もっとあったほうがいいかもしれない。」
「食後に、まんじゅうもあったらうれしいなあ。」
「いいよ、ぜんぶまとめて持ってこよう。」
「ありがとう、たのむよ。」
「こっちは、おむすび作っとくから。」
あたりはすっかり、わきあいあいムードです。
「そうだ、ぼくの、夏みかんの丸づけ食べる?」
「こんどは、うす切りにしてくれよな。」
「ギョロッケとせつきあじもあるぞ。」
「ちょっとまって、鉄をとかしてフライパンを作ろう。」
「せつきあじは、半分はおさしみにして、残りはムニエルにすれば?。」
「うん、それはいいね。」
みんな、さっきまでたたかっていたことをすっかり忘れていました。
みんなでなかよくしそわかめを食べて、それから楽しくかたりあいました。
しそわかめを食べつくすころには、きくがはまには平和がもどっていました。
「さあ、そろそろうちに帰ろう。」
「うん、帰ろう。」
みんなは、にこにこしながら、うちに帰っていきました。
きくがはまに、青い空がもどってきました。
おだやかな波もちいさな貝たちもしおかぜももどってきました。
きくがはなは、きょうも平和です。
もしも、あなたが、きくがはまをさんぽすることがあるなら、砂浜をよおく見てごらんなさい。
しそわかめがまじっているかもしれません。
それは、このきくがはまでおこったはげしいけっとうの、かすかななごりなのです。
©とびや
おしまい