モトちゃんのものがたり その2
モトノリと、ナナと、カミノ。
3人は、ふねこうえんでであいました。
モトノリが、ナナとカミノに、おとうさんの時計のことを話しています。
「さあて・・・。
カミノが口をひらきました。
「で、その時計、どこにかくしたんだ?」
「えーっと・・・。」
モトノリは目をつぶって、注意ぶかく思い出しながら話しました。
「屋根がついた石のたてものが4つあって、その中に船がうかんでるんだ。その中でもいちばん大きな船の中で遊んでた。で、見つかりそうになってにげるとちゅうに、たてもののかべの穴にかくした。で、そとにでた。」
「かべの穴?」
「どんなかべ? どんな穴?」
カミノとナナが聞きます。
「大きな石をつみあげて作ったかべだよ。その石のひとつに、小さな穴が3つあいてたんだ。よこにきちんとならんでね。」
それを聞いて、カミノが言いました。
「めずらしいたてものだなあ。このへんにそんなのあったっけ?」
ナナが言いました。
「だいじょうぶだよ。みんなでさがせば、きっと見つかるよ。」
カミノも明るく言いました。
「そうだな。まかせとけよ、モトちゃん。」
それから毎日、モトノリとナナとカミノは、ふねこうえんに集合しました。
モトノリにとっては、毎日お城をぬけだして、毎日まわりのけしきが変わり、毎日いつのまにか、ふねこうえんに立っているのでした。
それから3人で、時計をさがしにいくのです。
3人は、町じゅうの海や川に行って、近くのたてものをしらべてまわりました。
さがしつかれたら、ひとつのアイスを3人で分け合います。
------ アイスって、なんておいしいんだろう。
モトノリは思いました。
------つめたくって、あまくって、なんておいしい食べ物なんだろう。
モトノリは、アイスがだいすきになりました。
そして、3人でアイスを食べるこの時間も、モトノリにとってはたいせつな時間になりました。
「見つからないなあ。次は、どこをしらべようか。」
カミノが言います。
「ぼく、地図もってるんだけど・・・。」
ふと思い出して、、モトノリは地図をとりだしました。
「それを早く言えよなあ。」
カミノとナナは、いそいでその地図を広げました。
「この地図、ちょっとちがうみたい。」
ナナが言いました。
「この町の形、にてるんだけどなあ。モトちゃん、この地図、ちょっと古いんじゃないの?」
カミノも言います。
「そんなはずはないんだけど。新しい地図なんだけど・・・。」
モトノリは、だんだん不安になってきました。
------ この地図が古い? いや、そんなはずはない。
これは、できたばかりの新しい地図なんだ。
これが古いって、どういうことだろう。
もしかして・・・。
モトノリの顔がどんどんくらくなっていくのに気づいたカミノは
「まっ、いいか。とにかく、暗くなる前にもう1ヵ所さがそうぜ。」
そう言うと、てきぱきと地図をおりたたんでポケットに入れました。
そして、モトノリにアイスをさしだすと、
「きちょうな、さいごのひとくちは、モトちゃんにやろう。元気出せよ、ほい。」
元気よくそう言って、モトノリにアイスをさしだしました。
「ありがとう、カミノ。」
モトノリは、本当にうれしかったのです。
------ ぼくのためにいっしょうけんめい時計をさがしてくれているカミノとナナ。
ぼくを元気くれるづけてふたり。
ふたりにあえて、よかった。
モトノリはそう思いながら、のこりのアイスを食べました。
そしてまた3人は、時計をさがしはじめました。
3人は、毎日毎日ふねこうえんで待ち合わせては、時計をさがして町じゅうを走り続けました。
------ ああ、きょうも見つからなかった。
がっかりしながら、モトノリは、きょうもお城にもどります。
時計がなくなっていることを、おとうさんはまだ気づいていないようです。
------ もし、ずうっと見つからなかったら・・・。
いや、見つからなくってしかられても、それはしかたのないことだ。
だって、ぼくがかってに持ち出して、なくしてしまったんだから。
でも、あんなに大切にしていた時計をなくしてしまったなんて、どうやっておわびしたらいいのだろう。
・・・とりかえしのつかないことをしてしまった・・・。
いつものように海ぞいの道を走りながら、モトノリの頭の中はいろんな思いがぐるぐるとまわっていました。
------ それにしても、どうして見つからないんだろう。
どうして、あの、時計をかくしたたてものは見つからないんだろう。
こんなにさがしても見つからないなんて、もしかしたら、もう、なくなってしまったんじゃないだろうか。
そのとき、モトノリはふと、カミノのことばを思い出しました。
・・・・・・・『モトちゃん、この地図、ちょっと古いんじゃないの。』
------ カミノの言ったことは、本当かもしれない。
・・・ということは・・・。
帰り道をいっしょうけんめい走りながら、きょうもまわりのけしきがふしぎに変わっていきます。
そうして、お城が見えてきたとき、モトノリは、はっきりと思いました。
----- ・・・・・・ぼくの地図は、・・・ぼくは・・・。
ナナやカミノにとっては、むかしのものなんだ。
ぼくは毎日、未来に行って、ナナやカミノと時計をさがしていたんだ。
その日の夜、モトノリは、いろんなことを考えすぎて、とうとう少しもねむれませんでした。
朝になっても、ぼんやりした頭で、また考えつづけました。
----- どうしてぼくは、未来に行ってしまったんだろうか。
毎日未来に行って、そしてまたもどってくることができたんだろうか。
----- ・・・あの時計だ。
モトノリはそう思いました。
----- あの時計をさわったときときから・・・。
あの時計のまぶしい光をあびたときから・・・。
あの時計のねじを押したときから・・・。
ふしぎなことがおこりはじめたんだ。
モトノリは、注意ぶかく思い出そうとしました。
----- ぼくは時計のねじを押した。
そしたら青白い光がでて、そのまま時計を外に持ち出したんだ。
----- それから・・・船にかくれて・・・。
えーっと、それから・・・。
モトノリは思い出しました。
----- ぼくはねじをつぎつぎと押したんだ。時計のはりはぐるぐるまわって・・・。
・・・そして、ぼくは、それをそのままにした・・・。
あのとき外で声がして、ぼくはあわてて時計をかくしたんだ。
モトノリはその日、ふねこうえんにも行かず、ずっとへやで考え続けました。
----- 時計はきっと、今もうごいている。
なぜだかわからないけれど、そのせいでぼくは、いつもふねこうえんに行っていたんだ。
----- ぜったいさがしださなくては。
時計のはりをとめなくては。
そうしないと、大変なことがおこるかもしれない。
----- ぼくはあした、お城をぬけだしたら、ふねこうえんではなく、ぼくの時代のあのたてものにいかなくては。
次の日。
でも、お城をぬけだしたモトノリは、気がつくとまた、ふねこうえんに立っていました。
ナナとカミノはまだ来ていません。
モトノリ考えました。
----- もうすぐ、ふたりが来る。
ぼくは、きっと、ふたりにぜんぶ話してしまったほうがいい。
ぼくが時計をかくしたのは、ぼくの時代のたてものの中だってこと。
----- ふたりとも、あんなにいっしょうけんめい、ぼくのために時計をさがしてくれている。
でも、おとうさんの時計は、たぶんここにはない。
この時代にはないんだ。
----- ぼくは、ナナやカミノにとって、むかしの人間なんだ。
そんなふしぎなこと、信じないかもしれない。
もし、信じたとしても、ぼくと今までみたいになかよくしてくれるだろうか。
モトノリがあれこれ考えている間に、ナナとカミノがやってきました。
ふたりとも、ひどくしんけんな顔をしています。
カミノが言いました。
「わかったよ、モトちゃん。キミが時計をかくした場所。
浜崎って言う町のね、『おふなぐら』っていうところさ。
屋根のある石のたてもの、たぶん、まちがいないと思う。
・・・でもね、もうそこには船はないんだ。ずいぶんむかしにうめたてられててね。」
----- おふなぐら?
モトノリは思いました。
----- そうか・・・。時計をかくしたのは、おふなぐらっていうたてものの中だったんだ。
カミノが静かに言いました。
「モトちゃん、キミはどっから来たんだ。」
----- ふたりとも、ぼくがどこから来たか、きっと気づいてる。
でも、こうやって、ここに来てくれたんだ。
ナナともカミノとも、きっとまた会える。
まず、ぼくは、早く時計を見つけて、もとどおりにしなくては。
モトノリは言いました。
「浜崎の『おふなぐら』だね。ありがとう、キミたちに会えて本当によかった。とってもたのしかったよ。ナナ、カミノ、ありがとう。」
モトノリは、ゆっくりとおじぎをしました。
モトノリのせいいっぱいのありがとうのきもちだったのです。
そして、くるりと背を向けると走り出しました。
モトノリは、カミノから聞いた浜崎という町に行きました。
おふなぐらはすぐにわかりました。
川からずいぶんはなれたところです。
「こんなにうめたてられていたんだ。
海や川ぞいばかりさがしていたんだもの。
みつからないはずだなあ。」
おふなぐらのまわりは、モトノリの時代のときとちがって、家やお店がたくさん並んでいます。
でも、おふなぐらの入口はぴたりととざされ、中へは入れそうにもありません。
----- でも、きっと、この中には時計はない。
そのとき、うしろから声がしました。
「そこのボク、きょうは中には入れないよ。
入りたかったら、こんどの日曜日においで。
おまつりがあるから、とびらがひらくよ。」
ふりむくと知らないおばちゃんがにこにこしながら立っています。
きっと、モトノリが、中に入りたがっていると思って、声をかけてくれたのでしょう。
「ありがとう。」
モトノリはそう言っていそいでかけだしました。
そのまま走り続けているうちに、海が見えてきました。
そのうち、まわりのけしきがふしぎに変わりはじめ、モトノリはいつものようにお城にもどりました。
その次の日の朝。
モトノリは思いました。
------ きょう、ぼくは、ふねこうえんには行かない。
ぼくの時代のおふなぐらに行くんだ。
ぼくが時計をかくした、あのおふなぐらに行くんだ。
・・・ぜったいに。
そう心に強く思いながらお城をぬけだし、注意ぶかく歩き続けました。
------ あれ? きょうはけしきが変わらない・・・。
やがて、とうとうモトノリは、あの時計をかくしたおふなぐらにたどりつきました。
------ ・・・ここだ。
あたりを見まわし、だれもいないことをたしかめてから、こっそりと中に入ります。
------ ・・・あのあたり・・・。あのかべのあたりにかくしたはず・・・。
モトノリはすばやく近づき、石でできたそのかべをさがしました。
「ないっ。・・・どこにもない。」
時計はどこにもありません。
------ ここにないなんて。
・・・おとうさんの時計は、いったいどこにいったんだろう。
お城にもどってから、モトノリは考えました。
------ かくしたところにないなんて。
・・・もしかして。
だれかが時計を動かした?
いや、時計がかってに動いてる?
時計があのおふなぐらの中で、かってに時代を動いてる?
------ いや、時計だけが勝手に動くなんて。
・・・もしかして。
時計がこわれてる?
時計がぼくをさがしてる?
モトノリの頭の中に、いろんな考えがうかびました。
------ もし、そうなら。
かってに時代を動いている時計を、どうやってつかまえたらいいんだろう。
------ そうだ。
ナナとカミノのところへ行こう。
こんどの日曜日、おふなぐらに入って、時計がそっちに行ってないかたしかめよう。
とうとう、その日がやってきました。
モトノリは、いつものようにお城をぬけだして走ると、いつものようにふねこうえんに着きました。
それから、おふなぐらがある浜崎にむかいました。
おふなぐらに着くと、とびらはもう開いていました。
そうっと中をのぞくと、そこにはナナとカミノのすがた。
ふたりは、時計をさがしていました。
「・・・これかもしれない、モトちゃんが言ってたのは。」
「時計、ある?」
「ううん、ないな。あ、ちょっと待って。今、なにか見えたような。」
「うん。なにか光ったよね。」
ふたりのしんけんな声が聞こえてきます。
カミノがそろりと時計をとりだし、手のひらにのせるのが見えました。
「あっ。おとうさんの時計っ。」
カミノの手のひらで、時計はきらきらとかがやき、細いくさりがゆらゆらとゆれています。
「これだ。」
「モトちゃんの時計だ。」
ナナとカミノは、顔を見合わせました。
そのときです。
モトノリが立っている入口から、おふなぐらの中のほうへ、いきおいよく風がふきこみました。
その風をうけ、時計はするりとカミノの手からすべり、ふわりとうかびました。
そしてそのまま、ゆらゆらと波のようにゆれながら、モトノリのほうへ近づいてきます。
「あっ、まってー。」
ナナがさけびました。
ナナもカミノも、入口にいるモトノリに気がつきました。
うかんでいた時計は、モトノリの手のひらに、ぴたりと着地しました。
モトノリは、それをぐっとにぎりしめました。
おとうさんの時計は、モトノリの手にもどりました。
------ うちに帰ろう。
そして、いつかまた、ナナやカミノに会いにこよう。
「ありがとう、ナナ、カミノ。 ぼくは、ぼくの時代に帰るよ。
でもまた、ぜったいに会いに来るから。」
モトノリは、やっとそれだけ言いました。
「また、あそぼうな。」
「またいっしょに、アイス食べようね。」
ふたりがモトちゃんにさけびます。
「うん、ぜったいに会いに来る。ぼくたちはずっとともだちだからね。」
モトノリは、ふたりにむかって言いました。
そのとき、モトノリの目の前のけしきが、くるくると変わりはじめました。
明るくなったりくらくなったり、気づくとモトノリは、自分の時代のおふなぐらの入口に立っていました。
・・・もどってきたのです。
時計も手の中にあります。
時計のはりは、まだぐるぐるとまわっていました。
モトノリは心を決め、そのねじをつぎつぎと押しました。最初に押したときと同じように。
はりは止まりました。
それから、海ぞいの道を、むちゅうで走りました。
もう、けしきは変わりません。
お城にもどると、モトノリはこっそりと、おとうさんのへやに入りました。
そして、時計をそっと、もとのはこにもどしました。
------ ふしぎなことばかりだったなあ。
ナナとカミノとあえてよかった。
ぼくたちは、おなじ時代にはいないけど、ともだちなんだ。
モトノリは、ふたりのことを考えると、たまらなくうれしい気分になりました。
そして、どうやってふたりにあいにいこうか、と考えはじめるのでした。
( 6. 『モトちゃんのものがたり その2』 おしまい)
©とびや
「これで、『ナナものがたり 1年生編』 は、おしまいです。
2年生編であいましょう。」 ・・・・1年1組 ナナ
「このお話は史実にはもとづいていませんが、登場人物には
すべてモデルがいます。
実在するみなさまのご協力に感謝します。」 ・・・・・・・・・ とびや