ナナちゃんとあめふり椿団

 春です。
ナナは、2年生になりました。

ナナは1年生のときから、ずっとずっとこの春を待っていました。

ナナは、ひとりっこ。お兄ちゃんもお姉ちゃんも弟も妹もいません。
「早く2年生になって、1年生のお世話をしたいなあ。」
と、いつも思っていたのです。

ちょっとほこらしくって、ちょっとくすぐったくって、ナナは自然とにこにこしてしまいます。

 いつものように、ふねこうえんには、ナナとカミノのなかよしふたり組。

「ナナね、2年3組になったんだよ。」

「そうか、オレは6年2組。ついに最上級生ってやつになってしまった・・・。」

「あれ? カミノ、うれしくないの?」

「いや、6年になったのはうれしいんだけどな、小学校もあと1年って思うと、ちょっとなあ。」

「え? カミノ、あと1年したらいなくなっちゃうの? どこに行くの?」

「おいおい、中学校に行くに決まってるだろ。」

「あ、そうか。そうだよね。」

カミノは、いつものように大きな口をあけてわらいました。それから、少しまじめな顔で言いました。


「・・・でもなあ、ほんとはちょっとさみしいなあ。椿団も、あと1年だしなあ。」

カミノは、自分のシャツについている椿の花のバッジを見ました。

このバッジは、「椿団」のメンバーであるあかしなのです。

 「椿団」は、ずっと昔からこの町にある、ひみつのグループです。
一体どのくらい昔から続いているのか、だれにもわかりません。

メンバーは、この町に住むえらばれた小学生だけ。
今はぜんぶで9人です。

椿団のことは、だれにもいってはいけないきまりになっています。もちろん、パパやママにも。
椿団のことは椿団のメンバーにしか話してはいけないのです。


メンバーはみんな、椿の花のバッジを持っています。
もちろん、ナナも、カミノも持っています。

それが、椿団であるあかしなのです。


椿団のメンバーは、みんなそれぞれ、別々の時期、別々の場所で、ぐうぜんそのバッジを手に入れました。

ある日、バッジが来ます。
でも、それだけじゃ、自分が椿団のメンバーだなんてわからない。
自分が椿団のメンバーだということに、自力で気がついたものだけが、本当の椿団になれるのです。

ナナもカミノも、そうやって椿団のメンバーになりました。。

 椿団は、毎月1回第1土曜日に、城あとで作戦会議をしています。
そこでは、みんながそれぞれ、発見したことや手がかりを報告して、次の活動について話し合います。

そう、椿団には大きな使命があるのです。


・・・地下都市を見つけること。

このために、椿団は、ずっとずっとずうっと昔から活動してきました。
でも、まだ見つからないでいるのです。

ナナもカミノも、去年の秋に、自分が椿団だってことを知ったときから、毎月1回、城あとの作戦会議に加わっています。

「地下都市って、どんなふうになっているんだろうね。大きいのかなあ。」

「うん、都市だもんな。オレ、それさあ、モトちゃんに関係あると思うんだ。」

「そうそう、ナナもそんな気がする。」

モトちゃんというのは、ふたりのたいせつなお友だちです。
ある日、とおくの時代からやってきて、そして帰っていったお友だちです。
でも、そのあとも、なんどかモトちゃんを見かけたことがあります。
そのたびに、モトちゃんは高校生ぐらいに大きくなっていたり、すっかり大人になっていたりしました。

ナナもカミノも、モトちゃんのことは、だれにも言っていません。
椿団のメンバーにもなにも言っていません。
話しても信じてもらえないかもしれないし、ふしぎがられるだけかもしれないし、第一、モトちゃんのことをありのままそのままに伝えられるとは思えなかったからです。

「モトちゃん、元気かなあ。」

「会いたいなあ。いっしょに時計さがしてさあ、アイス食べてさあ、わくわくしたよね。」

「モトちゃんは、地下都市のこと、何か知ってるかなあ。」

「うん、会って聞いてみたいよね。」

ナナとカミノは、顔をあわせると、モトちゃんの話をしていました。

 やがて、梅雨にはいりました。
毎日、雨、雨、雨。ほんとうに雨ばかりです。

こんな雨つづきの季節にも、椿団は活動しています。
雨やどりをしながらも、地下都市についての話し合いです。

今年の団長は、6年生の女の子。あだなは「めぐポン」。
いつもにこにこしてくれるやさしい「めぐポン」を、ナナはすぐに大好きになりました。
めぐポンは、いつもまず、みんなの意見をしずかに聞いてくれます。


「いったい、どこにあるんだろうなあ。」

「うーん・・・。どこかに入口があるんだよ、きっと。」

「どこかに入口があって、そこから階段かなにかで下におりて行くとかさ。」

「そうそう、で、その先に地下都市がひろがってるんだよ。」

「どうかなあ、でも、入口はないと困るよね。出口もだけど。」

「そうだよな、出口がないと地下都市を作った人たちが出られないもんな。」

みんな、いっしょうけんめい考えます。


 みんなは、「石彫公園」へと急ぎます。
ここは、しばふの広場がきもちいい、ひろいひろい公園です。

「ここにある石って、なんだかあやしいよね。」

「うん、なにかの目印みたいに見えるよね。」

「矢印みたいになのもあるし。」

「あれは、どう?」

丸い石が割れて、入口のようにも見えます。

急いで近寄って、中をのぞきこみました。
でも、中にはなにもありません。

「ああもう、どきどきしたなあ。」

「うん。入口かと思ったよ。」

みんなは、公園のおくへとどんどん進んでいきました。
見えるのは、海。

 ナナは、いろんなことを思い出していました。

前にこの公園に来たとき、ナナは椿の花のバッジを見つけたんだった。

カミノにバッジが来たのは、「おふなぐら」だった。
おふなぐらで、モトちゃんの時計を見つけたとき、モトちゃんがあらわれて・・・。
カミノの手のひらにのせていた時計がモトちゃんのほうへうかんでいって、気がつくとかわりにバッジが手のひらにのってた。

そして、椿団。
バッジを持っている者だけがメンバーになれる・・・。

そういえば、ナナのピアノのはっぴょう会に来てくれたモトちゃんは、バッジをつけていたんだった。
・・・ってことは、モトちゃんも椿団ってこと?そんなことってあるのかなあ。

バッジと、モトちゃんと、椿団。

・・・なにかがつながっている。


 雨つづきの毎日でも、椿団の活動は続きます。

博物館で雨やどりをしながらも、いろんな意見がとびだします。

「ここに、なにか手がかりはないかなあ。」

「昔の地図はあるみたいよ。」

「だいたい、地下都市って、いったいだれが作ったんだろう。」

「自然にできたわけじゃないよね。だれか作った人がいるんだよね。」

「だれかが作って、で、だれかがかくしたのかなあ。」

「どうしてかくしたんだろう。」

「いや、地震とかでさあ、うまっちゃったんじゃないの?」

 みんな、いっしょうけんめい考えます。

 そのとき、カミノがぽつんと言いました。

「よくさあ、『昔の住居のあとが見つかった』とかさ、『昔のまちなみを発掘した』とかいうけどさ、
 あれって、おかしいよな。

みんながカミノのほうを見ました。
カミノが続けます。

 「もともと、その住居ってのは、ずーっとそこにあったんだ、ずーっと。
 その上に、道つくったり建物たてたりして、だれかがうめちゃっただけじゃないか。
 で、みんな、そこをうめちゃったこと、わすれちゃったんだよな。
 そして、ある日、『発見した』なんてことになっちゃうんだよな。」」

「そうだね、今できたわけじゃないよね。みんながわすれてるだけだよね。
 ずーっと、そこにあったんだよね。」

ナナもそう言いました。

 椿団のみんなも、静かにうなづいています。

「われらの地下都市も、きっとどこかにねむっている。
 ただ、ちょっとの間わすれられてるだけだ。」

ひどくまじめな声で、団長のめぐポンが言いました。


 外は雨。
まだまだ、やみそうにもありません。

「ああ、これじゃあ、われらの地下都市も今ごろ水びたしだあ。」

あめふりの椿団の活動は、まだまだ続きます。

 もちろん、ナナとカミノもがんばります。
さがしつづけていれば、きっとまたモトちゃんにあえる、そう思っているからです。
地下都市が見つかるとき、それは、モトちゃんにまたあえるときだと感じるからです。

「こんどモトちゃんにあったら、いっしょにアイス食べるんだ。」

「うん、そうしような。あと、いっしょにサッカーもしたいな。」

「ナナは、ピアノきいてもらうんだ。」

ふたりは、またきょうも、モトちゃんの話ばかりです。

梅雨があけるのも、もうすぐ。
夏休みも、もうすぐです。

雨があがりました。
椿団は、さっそく調査開始です。

まず、「郡司鋳造所あと」に行ってみました。

「ここで、大砲とか作ってたらしいよ、むかしは。」

「じゃあ、なにか見つかるかも。」

みんな、足早に近づきます。

「この奥のほうは、どうなってるんだろう。」

「どこかに続いてるんじゃないか。」

「うーん、なにもないよ。」

「うん、入口みたいなものはないな。」

「ざんねんだなあ。よし、つぎ、行こうか。」

「うん、ここじゃないみたいだしね。」

「さて、次は石彫公園だ。」

「ああ、ここは、あやしいと思ったのになあ。」


©とびや

( 2.『ナナちゃんのメヌエット』につづく)