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イワシ哀歌

えさ不足で漁獲低迷

 観音寺市沖の伊吹島。近代化されたイリコの加工場が港の周囲にずらりと並ぶ。船から直接ホースで原料のカ夕クチイワシを吸い上げ、乾燥させるまでの工程は、ほとんど機械化されている。
 その自慢の設備が、ここ数年フル稼働していない。島内に18軒ある網元の一人、三好文治さん(51)はこぼす。「イワシ漁が振るわんでなあ。乾燥機回しても採算が取れん時もある。」

 ==イリコの島==
 「伊吹島のイリコ」といえば全国ブランド。周囲5.5km、人口1100人足らずの小さな島だが、かつては全国一のイリコ生産を誇った。昭和六十三年には四十四億円近い売り上げを記録、島中が豊漁に沸いた。
 そのイリコの島が、長い不漁にあえいでいる。
 燧灘のイワシ漁は、二隻の船で袋状の網を引く「パッチ網漁」。昨年の県内のカタクチイワシの漁獲量は、3156tで前年より約1200tも減少。昭和四十年代から毎年1万〜3万tの水揚げがあったが、平成五年以降は5000tを超えられない低迷が続く。
 原因の分析はさまざま。県水産課は「もともと年変動の大きい魚。長い間には、山もあれば谷もある」とした上で、やはり漁獲圧を一番手に挙げる。
 「中でも、大きいのは稚魚のシラスの乱獲。」県水産試験場の阿部亨利主任研究員は、漁獲高のグラフを示しながら説明した。「シラスの漁獲が上がるにつれ、イワシの水揚げが落ち込んでいる。明らかにシラスの獲り過ぎが、資源量に影響を与えています。」

 ==ミク口の消長==
 だが、それだけではないと、三好さんら漁業者は訴える。「海にイワシのえさになるプランクトンがおらん。川にダムができて栄養分が流れて来んようになったからや。昔は、雨の後は川の水の流入で漁もよかつたのに・・・。」
 かつて製紙工場の排水で海が濁つていた時もィワシの漁獲量は落ちなかった。「今は海がきれいになり過ぎて、魚がおらんようになった」と三好さん。
 ブランクトン不足については阿部研究員も「海のえさ環境がよくない」と認めている。稚魚のころにケイソウ類やカイアシ類などのえさが少なく、魚が食べないプランクトンの夜光虫が大きな割合を占めている。
 その一方で、本来は少ないはずの八月にえさの動物性プランクトンが増える。その結果、飽食したイワシに過度の脂肪が付き、イリコに適さない「脂イワシ」となってしまうという。
 「プランクトン増減の原因は不明(阿部研究員)」というが、ミクロの世界の消長は、それを直接食べるイワシ、さらに食物連鎖の上位のサワラなどへも大きな影響を与えている。

 ==魚種交代?==
 魅灘では、16年前から香川、愛媛両県の漁業者が協議会をつくり、漁の時期などを決めている。今年は6月1日の試験操業で産卵状況を見た上で、六月中旬から親を、下旬からシラスを獲り始める。
 「本当はもっとシラス漁を遅らせた方が漁獲量は上がるのだが・・・。」資源管理については阿部研究員も歯切れが悪い。 シラスが大きくなるのを待っても「脂イワシ」になれば、売り物にならない。それなら親より値段が安定しているシラスを獲りたい。これが漁業者の本音だが、伊吹漁協の小野衛参事は「資源管理は長い目で見ないと。漁師がどれだけ我慢できるか」と指摘する。
 海の異変は、他にも現れている。「これまでおらんかったマイワシが四、五年前から獲れ出してな。カ夕クチが終わった後にマイワシを獲っている。」と三好さん。マイワシはイリコに適さないため、鮮魚として東京などへ送るという。
 外洋性のマイワシは瀬戸内海でほとんど見られなかったが、昭和50年ごろから香川県の水産統計に姿を見せ始める。外海から瀬戸内海に入り、定着したらしい。
 昨年のマイワシ漁も好調だった。県水試は「カ夕クチイワシの減少との因果関係はよく分かっていない」とするが、主となる魚種が交代する前触れなのかもしれない。
          (四国新聞)

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