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死んだ海底

==有機物溶け、酸欠状態==
 「そりゃ、ひどかった。日を追うごとに魚が近づいてくるんやから。海の底が酸欠になって逃げてきたんじゃ。」
 三豊漁連の小浜福重会長は、海底の汚染が最もひどかった頃の燧灘を思い起こして顔をしかめた。
 川之江、伊予三島両市のパルプ工場の廃水で海底にヘドロがたまった昭和40年代。底引き網に付いた泥に触った漁業者の手は赤くただれたという。

 ==へド口の層==
 「播磨灘の漁業者も同じですわ。みんなに被害が出た。今でも手袋は欠かせません。」播磨灘を守る会世話人の青木敬介さん(66)は憤りを隠さない。「原因は不明だが、強い酸が泥の中にあるんじゃないか。」
 「肝心なのは海底の泥。赤潮の原因も底にあると思う。底質が悪いから水質もよくならない。」と青木さん。同会では、研究者らで作る瀬戸内海汚染総合調査団とともに、播磨灘の水質や底質を20年余りにわたって調査してきた。
 北岸の臨界工業地帯から出る廃水、富栄養化で増殖したプランクトンの死がい。海底にはヘドロがたまり、底生生物の種類や数も少ない。青木さんは「工場排水などで汚染が広がり、底質はどんどん悪くなっていった。」と振り返る。
 海底の汚染度を示す化学的酸素要求量(COD)は大阪湾などとともに播磨灘や燧灘で高い。
 ヘドロはバクテリアによって分解され、栄養塩が溶出して富栄養化の原因ともなる。「特に貧酸素状態ではリンが水に溶けやすくなる。」と越智正香川大農学部教授(浅海環境化学)は指摘する。

 ==汚れの水塊==
 「魚が大移動して急に獲れ出したり、獲れなくなったりする。それで貧酸素水塊が現れたことが分かるんです。」県水産試験場の阿部亨利主任研究員は、そのメカニズムを説明する。
 底層の有機物をバクテリアが分解する際、酸素を消費するが、夏場には水の上下混合がなくなるため、酸素が供給されにくくなる。そして底層に酸欠の層ができる。これが貧酸素水塊。
 富栄養化が進み、大量のプランクトンが発生すると、底層に有機物がたまり貧酸素に拍車をかける。夏場には燧灘東部でこれがしばしば出現するようになる。 溶存酸素量が3ppm以下になると底生生物が死に始め、養殖魚にも危険。2ppm以下では天然魚も危ないとされる。
 県水試の調査によると、燧灘の底層(底上1m)では、ほぼ毎年のように3ppm以下の貧酸素水塊が発生。特に9月に多く、96、97年には2ppmを切る状態だった。最もひどかった96年は、燧灘のシャコ漁も前年の三分の一にまで水揚げが激減した。
 「灘部は水の動きが少ないため、貧酸素水塊になりやすいが、底質が汚れていると酸素が消費される割合が高くなる。」と阿部研究員。貧酸素の極限が、東京湾などで見る「青潮」だ。
 越智教授は、「燧灘でも昭和40年代半ばまでには青潮が出ていた可能性がある。」と指摘。小浜会長の「黒や青い潮を見たことがある。」との証言もそれを裏付ける。

(四国新聞)

==編集者追記==
「研究者らで作る瀬戸内海汚染総合調査団」に私も岡山に学生としていました25年前に関わっています。
田中角栄の「日本列島改造論」が破綻し日本全国「公害」にあえいでいたころです。私は、倉敷の水島工業地帯をうろうろしていましたが、工場から出る廃液・排ガスの被害はその周辺の漁民・農民の生活に深刻な被害をもたらしていました。そのころに「大量生産・大量消費」が確立され現在に至っていますが、9月27日のJCO「ウラン臨界事故」と企業の生産思想は今も変わっていません。

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