バルドニアを目指す連邦魔戦士〜フォルガンディにて
洞窟を抜けると、そこは一面白銀の世界だった。
白き息を吐きながら、臨むその道は崖先に開く氷点下の大地。
雪化粧に見舞われたその道に、私の足跡が点々と刻まれていく。
チラチラと舞い落ちる雪の幻想に目を奪われ立ち止まるも、
気まぐれな天候はその一時を許してはくれなかった。
ビリビリと唸る暴風。
凍てつく刃が、チュニックを通して身体の熱を奪う。
空を見上げれば、先ほどより一層鈍色に染まりつつ影っていく。
「急がなければ」
そうつい漏らした言葉も風にかき消されるようだ。
今やその黒き姿も白く変えたバックラーを背に持ち直し、歩みを進める。
悪しきも吹雪は絶頂に至り、荒れ狂うブリザードが我物顔にボスディンを蹂躙する。
===ホワイトアウト===
全ての視界を奪われ一寸先さえ見えぬ状況に翻弄される私。
これでゴブリン共なぞに出くわしたりしたら最悪もいいとこ最凶の極み。
氷河の真ん中で眼前にゴブさんと御対面♪なんて願い下げだ。
このナチュラル・ブラインだ、奴らもコチラの姿など見えようもないハズ。
しかし気配に妙に敏感な所があるから油断は出来ない。
果たして満足に戦えるであろうか?
ふと腰に伸ばした手先の感覚に、ハっとなる。
ぎこちなく動く指先、ミトンが凍りついているのが分かった。
なんとなく「鉄製のガントレットでなくて良かった」と安心する。
そう思いながら腰を探るのを止めた。
確認しなくても、おそらく剣も同じ運命をたどっている事だろう。
そもそも満足に武器を振り回せる状況でも命中させられる現状でも無かった。
おそらく鞘から抜けないなんて事は無いだろうが、抜く事も無駄だと判断したからだ。
(逃げる)
そう、逃げるのが一番命の助かる確率が高いだろう。
一度戦闘に入ってしまえば、それだけ逃げる判断も遅れる。
「出遭ったら逃げる」
万が一のとるべき行動を決定しておくのも、1つの手段だ。と私は思う。
もしその時、武器を落としてしまったら?
この雪原地域で後日見つけ出すのは不可能と言うもの。
もしそれがフェンスデーゲンとかだったら悔やんでも悔やみきれない!
いや、まだ手に入れてはいないのだが(苦笑)
鼻や口も凍てつき、息する事すら困難だ。
つくづく今日はサポート(副業とする能力の恩恵を受けられる力)を詩人にして来なくて良かった。
歌うも何も、震える唇の声にどれほどの力があると言うのか・・・。
例え効果があったとしても歌わない。歌いたくない。自殺行為だ。
そう思いながら気休めに、サポートの黒魔道士能力「精霊の印」を発動させる。
急に可笑しくなった。
ある意味隔絶された空間を進んでいるのだからしょうがないが、
なんともノンキな物思いに耽っている自分が可笑しかったからだ。
だけども、私はそんな自分が大好きだ。
時には思考が暴走して、問題発言と共に爆笑をふりまく「変な人」と呼ばれようとも。
音さえも音としての意味を失う暴雪の中で、周囲への感覚を働かせる。
方角は?進んでるのか?戻ってるのか?そもそも歩いていたか?
果たして自分は今立っているのか?一色の世界では天地の感覚すら危うい。
思考にハマり、目をつむって夢と眠りの国へ旅立ってしまってはいないか?
永遠の眠りの先には死が待っているというのに・・・。
幸いにも眠ってはいなかったらしい。
足先に岩か何かのぶつかる感触が伝わった事から歩き続けていたのは確かのようだ。
(感触?)
驚く事に、指先の感覚はとうの昔に消え去っていると言うのに、足先はまだ生きている。
今気づいたが、両脚とも他の部位と比べて冷えきってはいないようだ。
まるで、仄かに熱を帯びているかのように。
唯一取得しておいた、紅き種族装備・カスタムFブーツの奇跡だろうか。
俄然活力がみなぎってきた。
一歩一歩に力を込め、私は前進した。前進しなくてはならない!
まだ入口にすぎず、目指す場所はもっと先なのだから。
私は力ある言葉を発した!
突き刺さる冷気が喉に激痛をもたらそうとも。
「スニーク!!」
真空の風が取り巻き、コチラ側からムコウ側への音を遮断する壁となった。
心なしか吹雪きも和らげてくれたような気がした。
これでゴブリンに感知される心配は無いだろう。
と、ふいに凪いだ。
回復する視界、射し込む太陽の光。
白き悪魔が去ったのだ。
まるで先ほどの事など無かったかのように、静かな、
とてもとても静かな、それでいて美しい情景。
側に建つ遺跡の塔の向こうには、高くそびえる銀嶺。
そして望むはフェ・イン〜最北の地。
プラチナ・シャインを全身に浴びながら、魅入ってしまっていた。
どれほど魅せられ続けていただろうか、それら神秘に彩られた自然の芸術から視線を離し、
羽音のする方向<魔王の居城ズヴァールの存在するザルカバード>へと振り向く。
闇の眷族〜魔の目玉・アーリマン偵察隊のお出ましだ。
「やれやれ、無粋な連中ですこと」
その口元は微笑んでいた。
先刻の「未知な状況下での不安」は、もう無い。
今は相手を視認出来る。泣き言なんて出ない。
不思議なもので、戦いの高揚感と緊張感というものは、<いつもの自分>を取り戻してくれる。
な〜んてね。
戦いという<身体が覚えた平常心>に安心したのは確かだけれど、
微笑んだのは、半分<錬金術士>の端くれとして。ってのが本音かな(笑)
奴らを痛めつければ、合成材料として「涙」を入手する事も可能。
運が良ければ稀少な「レンズ」も手に入るかも・・・と思ったのが正直な気持ち。
その巨大な瞳に消音魔法など意味は無い。
すでに言葉通り<肉眼で確認>しているのだろう、翼はためかせながら突進してきている。
ケープについた雪を振り落とし、腰に帯びたホーリーソードを抜き放つ!
「女神アルタナの名において、汝ら邪悪を滅す!!」
私はキャパニティ=世界を流浪する赤魔道士。
★手記「ロマンシング・トワイライト」〜より転載