Top Page 文書館 No.020 No.018
自分が昔いた会社で同僚だった人に、ある日ばったりと出会った。この人もその会社はもう辞めており、今では別の会社に就職している。この数ヶ月前に再就職したらしい。 就職先は営業会社で、各家庭を訪問して、注文というか、契約を取ってくるのが仕事。お互い仕事中だったので、あまり長話は出来なかった。 見るとなんか昔よりもかなり痩せていた。「久しぶりですねー、お元気ですか?」とか挨拶して、 「仕事どうですか?なんかだいぶ痩せたみたいですけど。」と聞くと、 「痩せたよ・・、10s痩せた。」 「キツそうですね。」 「身体はそうでもないけど、精神的にね・・契約取ってこないと、営業所に帰って所長に物、投げられるんよ。」 「物を投げられる・・?」 「そうそう、『何やっとんや、このバカタレがー!お前、三日も四日もゼロ(契約ゼロ)だろーが!! やる気がないんならさっさと辞めいやー!!』って感じで物が飛んでくるわけよ。」 やっぱりあったのか、そういう会社。 もうちょっと詳しく聞いてみると・・、別に物が飛んで来るといっても、机やイスが飛んでくるわけではない。シャチハタの印鑑とか、ライターとかボールペンとか、そういう小物。 その人も入社当時は何か投げられても、よけてはいけないものだと思って、黙って当てられていたらしい。 しかしある日、他の社員が、飛んできたシャチハタの印鑑を反射的によけてしまったことがあって、営業所に一瞬緊張が走ったが・・・、しかし第二投目がこなかったので、この時に「ああ・・よけてもいいのか。」という意識が社員の中に芽生え、それからはみんな、よけるようになったという。 まあ普通に考えれば、仮にも一つの営業所の所長たる人間が、自分の投げたシャチハタを部下がよけたからといって、当たるまで何回もシャチハタを投げ直すとは思えないので、この考えは当たっているのかも知れない。 しかしよけられるのは中間距離以上から放たれた場合であって、さすがに至近距離からクイックモーションで投げられると、よけるのは不可能に近い。 しかし、怒られている者のささやかな抵抗として、これさえもはずしてやろうと思うのであれば、サッカーのPK戦の時のゴールキーパーのように、所長がシャチハタの投球モーションに入った瞬間、カンで右か左に飛ぶしかない。 もっともホントにそんなことをすれば、所長の怒りを増幅させて説教が長引くのは間違いないから、常識のある人だったらそんなことはしないだろう。 この人は、ここ4〜5日、契約ゼロらしい。今日あたりボールペンでも飛んでくるんだろうか。よく見ると頭には膨大に白髪が増え・・「苦労すると白髪が増える」ということを見事に証明していた。 「じゃ、それだけ厳しいんだったら、完全週休二日制で、給料もボーナスもいいんでしょう。」と聞くと、「休みは一ヶ月に一回で、ボーナスは4万円だったよ。」と言われた。 |