Top Page 文書館 No.034 No.032
Aさんは、ある訪問販売の会社に勤めていた。一軒一軒、家庭を訪問し、商品の説明をして買ってもらう仕事だ。 ノルマもあり、普段の月ならそれが達成出来なくてもメチャクチャ言われるというほどでもないが、年度末(1年の締めの月)になると、今月だけは絶対これだけの数字をやり切れ!と、ノルマの厳しさがハネ上がる。 その厳しい月、Aさんは月末の最後の日になっても、あと4万円売り上げが足らなかった。売っている商品は色々あるが、Aさんにとって、一日で4万円の売り上げなど、途方もない数字である。 知らない人に頼んだってまず無理だろう。誰か知り合いに頼んで買ってもらうしかないのだか、家族や友人には普段苦しい時に買ってもらっており、これ以上無理は頼めない。 考えたあげく、何年も会っていないような親戚を訪ねてみることにした。しかしどこもダメ。 そして、もう20年くらい会ってないような叔父(おじ)さんを訪ねて行った時のこと。何とかこれを買ってもらおうと、商品は19800円のDVDプレーヤーを2台持っていった。 叔父さんも、最初だけは好意的に迎えてくれたものの、DVDプレーヤーの話を始めたとたん、急にイヤな顔をし始めた。 それでもしつこく頼んでいると、ついに怒り出し、 「20年ぶりに訪ねて来たと思ったら、そんな話か! ワシを何だと思っとるんじゃ! 」 と言い出したので、 「あぁ・・すいません・・。失礼なのは十分分かってはいるのですが・・ 、何とか今日中にこれだけ売って帰らなければならないものですから・・。」 と言って食い下がっていると「今まで全く顔も出さなかったくせに、こういう時だけ頼りにする気か!」 と言うので、 「そこのところを何とか・・こんなことを頼める筋合いではないのは、分かっているのですが、助けると思って、なにとぞ・・。」とか言って更に粘っていると、ついに叔父さんもキレてしまった。 「そんなに言うんだったら、二台買ってやるから、ここへ持って来い! 二つで四万円か! 四万払えばええんだろ! 」 と言って奥の方からお金を持って来て、「これ持ってさっさと帰れえっ!! そしてもう、二度とウチには来るなーっ!! 」 と言って、その社員めがけて思いっきり四万円を投げつけた。万札は見事にAさんの顔に命中し、床に落ちた。散らばった万札を拾い集めながら、何度も謝り、お礼を言った。 交渉成立した勝利の瞬間だ。見方を変えれば屈辱の瞬間とも言えるが、その辺は本人の気持ちの持ち方次第だろう。 しかし正確に言えば19800円が二台で消費税の5%がつくから41580円なのだが、「消費税がつきますから、あと1580円もらってもいいですか。」なんて、とても言える雰囲気ではなかった。 仮に言ったとしても、向こうだって「お釣りありますか。」とは絶対聞いてこないだろうし、やはりちょうどの金額を投げられる可能性が高い。 ちょうどの金額と言うと、今度は硬貨が混じってる。500円玉が顔に当たると痛いし。 そういうわけでAさんは、目標を見事に達成できた。でもその引き替えに親戚を一人失った。 |