Top Page 文書館 No.051 No.049
管理人吉田が、以前いた会社でのこと。 ▼接客用語を叫ぶ ある会社で、年に一度の全体研修会が、店休日を利用して行われた。この全体研修会では、全支店の社員が本社に集められる。研修会と言っても管理職の方々のお話がその内容のほとんどなのだが、毎年、その研修会では「接客用語の唱和(しょうわ)」というものをやっている。 接客用語とは 「よろしくお願いします」 「いらっしゃいませ」 「おはようございます」 「ありがとうございます」 「失礼いたします」 「すいません」 の五つで、頭文字を取って別名「よいおあしす」とも呼ばれる。 この研修会でも、社長がじきじきに指揮を取って接客用語の唱和が始まった。全員がありったけの大声で、一つ終わるごとに90度に礼をして、全員の声が揃うまで、また、全員の礼が揃うまで何回も行われる。 全員が接客用語を絶叫している間、社長みずから場内を歩き回り、一人一人がきちんと大声が出ているかチェックする。とにかく絶叫しなくてはならないのだ。 しかし社員の中で、一人、えらく声の小さい人がいた。たちまち社長に目をつけられてしまった。 「おい!お前や、お前!さっきから一人だけ声が小さいんじゃ!!お前のせいで全員の統制が乱れとるんじゃ!もっと大声出せんのか!!」 「は、はい!すいません!」 「お前、今から会社の外に出て、一人で接客用語やってこい!!ワシがええと言うまで、駐車場でありったけ叫んでこい!」 こう言われて彼は会社の外で一人で接客用語をやるハメになった。会社の駐車場は道路に面している。彼はそこに立って、ありったけの大声で何度も叫んだ。 「ありがとうございまーっす!! 失礼いたしまーっすっ!」と。道行く全ての通行人が彼を見て行く。相当恥ずかしいものがある。 一方、会場内では彼が出ていった後、やっと接客用語の絶叫時間も終わり、次の内容に入った。それから20分ぐらいが経った。駐車場の彼は相変わらず大声で叫んでいる。研修会場は二階だったが、窓際に座っている者には、窓越しに彼の声がかすかに聞こえてくる。 40分くらい経った。その間、課長や部長が入れ替わり立ち替わり話をしているが、彼はまだ外でやっている。そして一時間くらいが経った時、社長が突然叫び声をあげた。 「あっ・・!!! あいつは・・?! まだ外でやっとんか?!」 「は、はい、まだ外で接客用語やってます!」 「も、もうええ、もうええ!誰か連れて来たれ!もう上がって来るように言え!! 」 どうやら完全に忘れていたらしい。そして他の社員に連れられて、彼が上がってきた。汗だくのドロドロになって死にそうな顔をして、もうほとんど声が出ない状態になっていた。 「お、おう・・・ご苦労じゃったの・・。ま、まあ座れ・・・。」 なんか気まずそうにこう言われて、やっと勘弁してもらえたということである。 ▼課長の怒る理由 同じくこの会社での研修会のことであるが、これは、上の「全体研修会」の時のことではなく、春に新入社員が入った時に、各営業所で個別に行われる「新入社員研修会」でのことである。研修は新人だけではなく、既存の社員も一緒に参加させられる。 この研修では、主にここの営業所の所長が指導役を務めるのだが、この日は立ち合い人として、本社から課長が視察に来ていた。 課長とは「課」の長であるから、本社に何人もいるのだが、この日に来たのは、よりよって、一番タチの悪い課長だった。 営業所の所長よりも、この本社の課長の方が身分は上である。最初に、会社の大好きな接客用語の絶叫をやらせて、その後、礼の仕方などの礼儀を徹底的に叩き込む。 そして研修の最後には、この、本社の方から来た課長が一言挨拶をすることになっていた。 一通り全ての研修が終わると、後ろの方に座っていた課長がおもむろに立ち上がった。新人たちに向かって近づいていく。 この課長がまた、顔が怖いのはもちろんだが、それに加えて肩をゆすってチンピラみたいな歩き方をして、ポケットに手を突っ込んだまま、新人一人一人を舐(な)めまわすように見る。 課長がぴたっと、一人の新人の前で足を止めた。 「なんやぁ〜、お前、その目は・・。なんかワシに文句でもあるんか!?」 といきなり新人にからみ始めた。びっくりしたのは新人である。 「あぁ!? なんか文句があったら言うてみぃや!」 (新人)「い・・いえ! ないです! ないです!」 「ワシに言いたいことがあるからそんな目つきしとんだろーが! 言うてみぃーや!」 (新人)「いえ! ないです! 本当に文句なんてないです!」 「お前の目つきが気にいらんのじゃっ!文句あるんか!コラ!」 (新人)「い・・いえ! すいません、すいません!」 とりあえずこの新人はこれで勘弁してもらえた。 なぜ謝らなければならなかったのかが、よく分からなかった。 課長はしばらく歩いて、また別の新人の前で足を止めた。 「なんや、お前、その顔は!」 (新人)「は・・!?」 「お前の顔が気に食わんのじゃ!ワシに言いたいことがあるんなら言うてみーや!」 (新人)「い・・いえ!ないです!ないです!」 「見ただけでムカつくんじゃ、お前の顔は!文句があるんなら、かかってこぃーや!」 (新人)「い・・いえ! すいません、すいません!」 「誰がそんな顔してええと言うたんじゃ!お前、ワシをなめとんか!」 (新人)「いえ! なめてません!すいません、すいません!」 ・・・・・・・・・新人たちが怒られている。 仕事上のミスで怒られるのなら分かるが、目つきが悪いとか顔が気に入らないという理由で怒られている。 怒られているというより、インネンをつけられている。まるで高校時代のようだ。 このような課長の下で、この先やっていけるのだろうかと全員が不安な気持ちでいっぱいとなった一日であった。なんでこんな人が課長になっているのかが分からなかったが。 ちなみに当時の自分もこの場にいた。あの時はもう、新人ではなかったが。 新人たちを見ていてかわいそうという気持ちはなかった。とにかく自分のところへ来るなと願っていただけ。 |