Top Page 文書館 No.053 No.051
「彼」の仕事は外回りの営業で、いつも愛用のバンに乗って、色々なお客さんのところを訪問している。 先日、あるお客さんの店を訪問する際、店の前の道路が狭くて、すぐ近くに車を停めらなかったので、ちょっと離れてはいるが、近くの川まで走って行って、そこの土手に車を停めてお客さんの店まで歩いて行った。 一通り仕事の話も終わり、再び彼が土手まで戻って来てみると・・・車がなくなっている・・! 確かにここに停めたはずなのに、我が愛用のバンが忽然と姿を消している。川の土手だから見通しはいい。車があるのかないのか見渡せばすぐに分かる。 「やられたっ! 車、盗られたんやっ! キーもつけっ放しだったし・・。」 最初はそう思った。 「だが待てよ・・ひょっとして・・駐禁切られてレッカー移動されたのか? 」 そういう考えも頭をよぎった、いや、むしろ、そっちの方が可能性が高い。 どっちにしても警察が介入してくる。被害に会ったのは会社の車なんだから、上司に報告せざるを得ない。 しょーがないから会社に電話をかけた。たまたま支店長が電話に出た。 「もしもし、〇〇ですが・・すいません、車をなくしました。」 「はぁ?」 「あ・・ですから、車停めてたらいつの間にかなくなってたんです。」 「あぁ・・? 車がなくなったぁ〜? アホッ!それは、駐禁切られてレッカーで移動されたんだろうが!」 「あ・・はい・・。そうかもしれないんですが・・。」 「周りの道路、よう見てみい! 『どこどこまで出頭せよ』とか何とか、道路に白い字で何か書かれてないか!?」 「それが・・ここは川の土手で、地面は草ですので・・何か書くというようなことは出来そうもないんですが・・」 喋りながら、一応彼は足もとの方を見渡しながらその辺をうろうろしてみた。 そして・・・・「あっ!! あった!! 」 思わず彼は叫んだ。 警察からのメッセージを見つけた!!・・のではなくて「川に落ちている自分の車」を発見した! 彼は「川と平行に」車を停めていたのではない。「川に向かって」車を停めていたのだ。 そしてこの車はオートマではなくミッション車。その上サイドブレーキを引いていなかった。しかもその土手は、川に向かってほんのゆるやかな下り坂になっていた。 おそらく彼が車から降りた時、車はまだゆっくりと動いていたのか、ドアを勢いよく閉めたために車が動き出したのか・・下り坂であったことが車にスピードをつけさせ、彼が離れた時に川底に転落したのだ。土手から川底まで、落差は約10メートル。 「車があったぁ?? どこにあったんや!?」と支店長が電話で聞いてくる。 「あ・・・すいません。なんか川の中で縦に突き刺さってます。」 「はぁ?意味が分からんぞ、お前!」 そういう訳でこの車は廃車になった。 しかし、あの時、もしレッカーされていたら、レッカー代は自分で払わなければならない可能性が高い。 廃車の場合だと、仕事中の事故扱いということで、来月の給料から一万五千円引かれて始末書書いて終わりだ。でもレッカー代は一万五千円じゃ済まない。点数だって切られるし。 つまり彼にとってみれば、「駐禁→レッカー」というパターンの方が被害が大きかったわけで・・彼は廃車くらいで済んでホントに良かったと胸をなで下ろしたのだった。 |