病的なやせ方
就職を間近に控えたSさん(女性)は体重が80㎏ありました。何がなんでもやせなくては、との衝動にかられたSさんは、とにかく短期間でやせるために徹底的にカロリーをカットすることにしました。
朝はブラックコーヒーだけ、昼は野菜サラダだけ、そして夜も野菜サラダだけ。途中でお腹が減ればとにかくコーヒーを飲む。このような生活を続けていれば当然体重はどんどん減っていきます。
減ってはいったのですが、ある程度のところまでくると、それ以上は体重が落ちなくなってしまいました。それどころか友達と少し外食しただけでたちまち2~3㎏は増えてしまいます。あわててコーヒーとサラダだけの生活に戻すとまた体重が落ち始めます。
すでに病気になってでもやせたい、とまで思い始めていたSさんは、更にこの生活を続け、結局27㎏落としたものの、身体はフラフラで肌もカサカサになり、枝毛や抜け毛も増え始め、ツメには縦にすじが入って割れてきました。そしてたびたび目の前が真っ暗になり、そのまま倒れてしまうことが頻繁に起こるようになったのです。
しかしこのような状態がいつまでも続くと本当に死んでしまいます。身体の本能が命じたのか、これまで抑えていた食欲が一気に爆発しました。自分の意志とは無関係に信じられないスピードで食べ始めたのです。拒食の反動からくる突然の過食です。
しかし猛烈な食欲の一方で、太りたくないと思う自分がまだそこにいる。彼女は食べては大量の下剤を使用するようになってしまいました。
過激な減量努力
モデルやタレントなどを職業としている女性に多いそうですが、イベントやオーディションなどのために、3日あるいは一週間ほどで、何㎏ものダイエットを行うことはよくあるということです。
しかしそんな時期でもやはり彼氏と一緒に食事をしたり、ケーキを食べたりする機会は訪れます。
そんな時、彼女たちは少しでも食べ過ぎたと思えばすぐにレストランのトイレに駆け込み、ノドの奥に指を突っ込んで食べたものを吐き出します。
しかしそれでもまだ不安で、万全を期すために家に帰った後、強力な下剤を飲みます。また、家で食べる時も食べ物を噛むだけで飲み込まないようにする、といいます。
しかしこのようなことを何度も繰り返しているうちに彼女たちは少し食べただけでも太ってしまう体質になり、ますますやせることが困難になってしまいます。
拒食と過食
モデルであるB子さんは、あるオーディション用に撮影した自分の写真を見て愕然としました。自分が思っていた以上に太って見えたからです。いい仕事をもらうためには相当にやせなくてはならない、そう思ったB子さんは極端なダイエットに走りました。
食べる量を相当に落とし、確かに体重は減ったものの、無茶な減食によって身体を完全に壊してしまいました。肌はカサカサになり、生理は止まり、仕事場に着いただけでヘトヘトの状態。ついには仕事中に倒れて入院するハメになってしまいました。
完全な栄養欠乏に加えて自律神経失調症、拒食症の状態でした。医師たちの説得もあって、身長170㎝で、体重40㎏近くまで落ちていた彼女も、やっと少しずつ食事に手をつけ始めました。栄養障害も改善され、体重が50㎏を超えると退院の許可も降りました。
しかしこの後、心の糸が切れたのか、猛烈な勢いで食べ始めました。自分で自分をコントロールすることが出来ず極端な過食になり、その結果彼女の体重は75㎏にまで増えてしまいました。
液体プロティン事件
昔、アメリカで「液体プロティン事件」と呼ばれる事件が発生しました。これはダイエットの方法として、ある一つの商品だけを摂取して体重を落とすというものでした。
その商品というのが、あるメーカーの、液体状になったプロティン(タンパク質)だったのです。確かにタンパク質は身体を作る材料となるものですが、それしか摂らないとなると完全に栄養不足になります。
この極端なダイエット方法を試みた人の中から、心臓発作などで60人以上の人が亡くなりました。
死亡した人の大半は女性で、平均年齢が35才、平均体重は105㎏でした。2ヶ月以上、問題のプロティンしか摂らず、平均39㎏減量したものの、結果的に命を落とすことになってしまいました。
これは、問題の商品の原材料が屠殺場の残骸など、極めて栄養価の低いタンパク質から作られていたことや、身体にカリウムが不足したために不整脈などの心臓発作を招いたことなどが原因とされています。
現在市販されているプロティンは牛乳や大豆、卵など、良質のタンパク質を原材料としているものばかりですが、特定の栄養素のみに頼ったダイエットはやはり危険であることに変わりありません。
夢遊病
ボクサーの場合ダイエットとは言わず、普通は減量と言いますが、その減量の苦しみが頂点に達すると、夢遊病になってしまう選手が時々いると言います。
夢遊病は夢中遊行症(むちゅうゆうこうしょう)とも言い、眠っているうちに起き出して何らかの行為をした後、再び眠ってしまい、後でその行為について全く記憶していない、という症状を示します。
世界のフライ級とバンタム級の2階級を制覇したファイティング原田選手も、減量苦の中で夢遊病者のようになったことがありました。
脂肪を限界まで落とし、さらに身体の水分を絞り出して自分の階級まで体重を落とすボクサーにとって、耐え難いのは飢えよりも渇き、食べ物よりも水を我慢することです。
原田選手も昼間はきちんと決められた減量の方法を守り、ほとんど食べず飲まずの生活をし、練習をしているのに、翌朝、目が覚めてみると不思議と体重が200gから500g、時には1㎏近くも増えていました。
周囲の人間もクビをかしげましたが、その理由は、原田選手が夢遊病者となり、夜中に起き出しては水を飲み、また部屋に帰ってくるという行動にありました。もちろん水を飲んでいる間、意識はなく、次の日の朝になっても本人はそのことを全く覚えていませんでした。