1987年、フィリピンのカヴィテ市で公務員をしているオリビア(女性)は、誕生日のお祝いに上司からイエス・キリストの像をもらった。この像は高さ43cmで、「サントニーニョ(聖なる子供)」と呼ばれるもので、幼いころのイエス・キリストを形どった像である。
フィリピンの家庭で、この幼いころのイエス・キリストの像を祀っている家庭はきわめて多く、像自体はごく一般的なものだった。
年末の押しせまった12月26日、オリビアはいつものように仕事から帰ると、一日の無事を感謝して聖像に祈りを捧げていた。だがその日に限って、突然聖像が光輝いたのである。まばゆいばかりの光と共に、脳裏にいきなり声が聞こえてきた。
「・・・私はあなたにこれから使命を与える・・・私はここにいる・・。」
オリビアはびっくりして辺りを見回したが誰もいない。再び声が聞こえてきた。
「立派なものでなくても構わないから、私を祀る祭壇を作りなさい。」
まだ心の中は混乱していたが、信心深いオリビアは、その声が目の前のキリスト像から聞こえてくるものと信じ、すぐに像を納屋に運んで、そこを聖堂とし、祭壇を作って像を祀った。
キリスト像は次に、自分が今、身ににつけている服を絹のローブに替えるように要求した。その要求に従い、オリビアが服を付け替えていると、像の靴が破れて足がはみ出していることを発見した。
足が大きくなっている・・つまり像が成長しているのか・・?「そんなばかな・・」と思いながらもオリビアは、一応、像の身長を測ってみた。するとやはり・・・、像は成長していた。なんと身長が15cmも伸びて、58cmになっていたのである。
オリビアは突然目の前で起こった出来事をなんとか冷静に受け止めるようにし、これをキリストのお告げとして信じて祭壇を完成させた。
そしてそれから一週間が過ぎた。突然ある女性が、ぐったりした子供を抱いてオリビアの家を訪ねてきた。
「通りすがりの老人から、ここに来ればこの子供を救っていただけると聞いてあなたを訪ねてきたのです。お願いします、どうかこの子を助けて下さい!」
聞けばその子供はアレルギー症状か何かで、医者も見放したような状態だったという。すでに息も絶えだえのように見えた。
助けて下さいと言われても、オリビアにはどうしていいか分からない。すがる思いでキリストの像に祈りに行った。しばらく祈っていると、またもや声が聞こえてきた。
「オイルをつけて子供をマッサージしなさい。」
この言葉しか頼るもののないオリビアは、言われた通り手にオイルをつけて、丁寧に子供をマッサージした。すると除々にではあるが、子供の身体にぬくもりが戻ってきて、顔色も心なしか良くなったように見える。
マッサージを続けていると子供が目を開き「おなかがすいた・・。」と、喋ったのである。何よりも驚いたのはオリビア自身である。すぐに像の所に戻り、祈りながら再び像の声を待った。
「子供を救ったのは私だ。あなたには私の代わりを務めてもらったのだ。」
その後もオリビアは像の指示に従い、手をかざしたりマッサージを続けたりして一生懸命、子供を治療してみた。そしてその甲斐あってか、半年後には子供は完全に元気になり、母親は何度も何度もお礼を言いながらオリビアの元を去っていった。
この一件は瞬く間に周囲に伝わり、オリビアの家には奇跡を求めて大勢の人が行列を作るようになった。マスコミも取材に来るようになった。
あまりにも多くの人がオリビアを頼ってくるので、時には朝まで祈ることもあり、だんだんと本来の仕事の方にも影響が出始めた。
「祈るだけで、決して報酬を求めていけない。」という像の指示に従って、彼女は決して報酬を受け取らない。だが彼女が像の祈りによって救った患者の数は、すでに数千人に達しているという。