1900年、イタリア。この年の7月28日、当時のイタリアの国王であったウンベルト一世は、部下のバグリア将軍と一緒にモンツァ市の、あるレストランにいた。国王は明日この街で開催される競技会に来客として招かれ、今日はこの街に宿泊することになっていたのだ。

国王が食事をしていると、どうもさっきから向こうに立っているレストランの主人とやたらと目が合う。しきりとこっちを見ている様子だった。何か顔にも見覚えがあるような気がする。

気になった国王は部下に、「あのレストランの主人と話をしてみたいんだが、ちょっと彼をこっちへ呼んできてくれないか。」と命じた。すぐさま部下が主人のところへ行き、話をして国王の元まで連れてきた。


国王は、自分の前で敬礼をしているレストランの主人に向かって尋ねた。

「どうも君とは初めて会った気がしないんだが、以前私とどこかで会ったことはないかね?」
「はい。恐れながら、それは陛下が鏡で自分の姿を見たことを若干勘違いされているのではないかと思います。私はこれまで、国王様にうり二つだと色んな人から言われてまいりました。」

「そう言えば・・ヒゲも顔も体格も、君と私はそっくりだ。ところで君の名前は何という?」
「ウンベルトと申します。」

「私の名前と同じではないか! それでは生年月日は?」
「1844年3月14日でございます。トリノで生まれました。」

「これも私と同じだ!誕生日も出生地も! それでは別のことを聞くが、この店はいつから始めたのだね?」
「はい。この店は1878年1月9日にオープンさせました。」

「それは私が王位に着いた日だ! まさか・・しかしこんな偶然があるんだろうか・・。それで立ち入ったことを聞くようだが、君は結婚はしているのかね? しているのなら妻の名前は何というのだ?」

「はい。結婚はしております。1866年の4月2日に結婚し、妻の名前はマルガリータといいます。子供もおりますが、子供の名前はビットリオといいます。」

「それは私の妻・・つまり皇后と同じ名前ではないか。しかも子供の名前がビットリオとは・・それも皇太子と同じ名前だ! しかも結婚した日まで同じとは!」

国王はすっかり興奮した様子だった。ここまで自分の人生と同じ言葉が次々と出てくるとは・・。


「今日、ここで君と会ったのは何かの縁かも知れない。私もこの地へ来るたびにこの店に寄らせてもらうよ。今後ともよろしく頼む。」
「いえいえ、私の方こそ、陛下とお話が出来てこんな光栄なことはございません。明日、陛下が来客として出席される競技会には私もぜひ見に行こうかと思っております。」

「では明日また会えるね。その時はまた、ゆっくりと話でも聞かせてくれ。」
そう言って国王はその店を後にし、宿泊先へと向かった。

そして次の日。国王は競技会には出席したものの、昨日のあの男の姿がいっこうに見あたらない。気になっていたところへ部下のバグリア将軍が走って国王の元へとやって来た。


「陛下!実は急な話なのですが、昨日会ったあの男は亡くなったということです!何でも銃の手入れをしていた時に銃が暴発して・・自殺も疑いもあるということです!」

「何だって?! あの男が死んだって? 昨日会ったばかりだというのに・・!」
突然のことに国王はがっかりした様子だった。

「彼の葬儀には私も出席する。それと、私の名前で花輪も送っておいてくれ。」バグリア将軍に、そう言い終わるか言い終わらないかのうちに、突然場内に銃声が響いた。暗殺者が国王を狙って放った銃声の音である。

弾丸は国王の心臓を直撃し・・ほとんど即死状態だった。何から何までそっくりだったレストランの主人と国王は死に方も死んだ日まで同じになってしまったのだ。


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