イギリスのウエスト・ヨークシャー、ブラッドフォード市の郊外に、ある渓谷(けいこく)がある。今から300年ほど昔、この渓谷の近辺に一人の老婆が住んでいた。老婆は山で薬草を取り、それを売って生活していた。
ところがある日、誰かの密告によって、この老婆が魔女であるとの告発を受けたのだ。誰が何のためにそのような密告をしたのかはよく分からないが、時の支配者は、その老婆を魔女裁判にかけることにした。
だが、魔女裁判を待つまでもなく、魔女の疑いをかけられた老婆は村人にひどいリンチを受け、そして最後は巨大な草刈り鎌で首を切断されて殺されてしまった。そして魔力を封じるため老婆の頭は川岸に埋められ、身体は川に流された。
そしてそれから一週間後。今度はある40代の女性の死体がその川岸で発見された。言い伝えによるとその女性の首には、一週間前、首を切断されて殺された老婆の生首が食いついていたという。実はこの女性こそ、老婆を魔女として告発した人物だったのだ。
驚き、そして恐怖した村人たちは祟りを恐れてこの女性の死体を川岸に埋め、上に大きな石を置いて魔力封じとした。
そして時は流れて現代。1997年8月、ある女性カメラマンがこの渓谷の風景を撮影した。撮影した時には何もなかったが、後で現像してみると、空中に二つの生首が写っていた!
この写真をきっかけとしてか、300年の時を超えてこの渓谷で二つの生首が宙を飛んでいるところがたびたび目撃されるようになった。二つの生首とはもちろん前述の二人のことであるが・・目撃した人の話によると、まず、すすり泣くような声が聞こえ、その方向を見てみると二つの生首が飛びながらこちらに近づいてくるという。
そして二つの生首は飛びながら何か言い争いをしている。「私よ!」「いいえ、私よ!」「どうして?」「どうしても!」といった感じの口論をしながら近づいてきて、二つの生首は宙で止まり「どちらが正しいの?」と通行人に答えを迫ってくるというのだ。
恐怖した通行人が何も答えられないでいると、再び言い争いをしながら去っていくという。
なぜ300年も経ってこのような現象が起こるようになったのか・・? 一説によると先の40代の女性を埋めた時に魔力封じとして置いていた大きな石が道路工事によって取り除かれてしまったためだという。はるか昔に魔女の疑いをかけられ、殺された老婆と、魔女だと告発した女性の、二人の争いは今でも続いているというのだろうか。