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No.37 うるう年のパーティ

ドイツのハノーバーの郊外に「シュタイン館」という、築200年の大きな建物がある。ある時、ミューラーという男がこの屋敷を買った。4階建ての大きな建物であるにも関わらず破格の値段だったので、すぐに決定して、ミューラーはここに引っ越してきた。ミューラーに家族はいない。ここに一人で住む気だった。

だが、引越して一ヶ月も経ったころ、元の持ち主から手紙が届いた。封を開けてみると、たあいもない挨拶文だったが、手紙の最後には「うるう年の2月29日にはこの屋敷を離れていた方がいいだろう。その方があなたも平和に暮らせる。」と書いてあった。


なにぶん、古い館である。何か秘密があってもおかしくはない。だが、付近の住人に聞いても、それらしいことは何も知らない。ミューラー自身もあの手紙の意味が気になって館の中を色々と調べてみたが、特に不審な点は見当たらなかった。

しいて言えば、4階の部屋で一つだけ開かない部屋があるくらいだ。どうもカギが壊れているらしく、ドアが開かないのだ。だが、ミューラーは一人でここに住んでいるので部屋数は十分ある。別に部屋が一つくらい使えなくたって、どうということはない。

しばらく調べてみたが何も異常は発見されないし、自分も別に奇妙な体験をしたわけでもない。そのうちミューラーも、この手紙のことは忘れてしまった。


そしてある日の夜。時間は夜の11時。ミューラーが部屋にいると、どこからともなく音楽が聞こえてきた。外から聞こえているのではない。ごく近くからだ。ミューラーは念のために庭に出て、自分の屋敷を見上げてみてぎょっとした。

なんと、あの、開かないはずの部屋に明かりが灯っており、人影が映っているのだ。しかもその人影は何か踊っているように見える。背筋が凍るような気がしたが、何せ自分の家である。このままにしておくわけにはいかない。

勇気をふり絞って、フェンシング用のマスクをつけ、手には剣を持って4階のあの部屋へ行ってみた。すると今まで開かなかったドアがすんなりと開いた。
「やはり誰かが忍びこんでいたのか・・?」


ミューラーはその部屋に入ってみて、再び驚いた。中には20人くらいの男女が顔に仮面をつけてパーティをやっているのだ。

美しく着飾った女たちが華やかに踊っている。男たちは立食しながら楽しそうに会話をしている。ミューラーがあっけにとられていると、そのうちの何人かが寄ってきて酒を勧める。

最初はとまどったものの、場の雰囲気があまりにもいいので、いつのまにかミューラーもパーティに加わっていた。そのうち呑みすぎて意識が遠くなり、そのままその部屋で眠ってしまった。


翌朝、まぶしい日差しで目が覚めた。はっと我に返って昨日のことを思い出してみる。そうだ・・ここで得体の知れない連中が仮面をかぶってパーティをしてて・・と、思い出したのだが、改めて部屋を見て、ぞくっとした。

部屋の中はもう、何十年も使っていないかのようにホコリだらけで、壁も朽ちていた。天井にはクモの巣まで張っている。そして見渡すと、あちこちに仮装の衣装がころがっている。いや、よく見ると衣装ではなかった。仮装の衣装を身につけた白骨死体が何体もころがっているのだ。

その死体たちはどれも、いかにも苦しんでノドをかきむしったような状態で横たわっていた。昨日の状況と今日のこの光景・・。もう霊的現象としか考えられなかった。そういえば、昨日はうるう年の2月29日だった。あの手紙はこういうことだったのか・・。


その後ミューラーが、村の老人から聞いた話によると、2月29日は、かつてこの屋敷の持ち主であったシュタイン伯爵の誕生日で、この日にはいつも一族が集まってパーティを開いていたという。だが、ある日のパーティの日を境に、一族が忽然と姿を消してしまった事件があった。当時は真相は分からなかったが、一説によるとシュタイン伯爵が一族を皆殺しにしたのではないかという噂もあったようだ。

噂は本当だった。一族は誰にも知られずに、今まで4階の開かずの間で眠っていたのだ。ミューラーはすぐにこのことを知らせ、大急ぎで引っ越していった。


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