Top Page 心霊現象の小部屋 No.49 No.47
明治30年ごろ、北アルプスの白馬岳中腹に「れんげ温泉」という、温泉宿があった。ここの主人は奥さんをすでに亡くし、5歳と8歳の子供と3人で暮らしながら旅館を経営していた。 9月のある日。その日は泊まり客もなく、宿の主人は、晩ご飯するためにイロリで鳥を焼いていた。すると、「コンコン」と、旅館の戸を叩く音がする。戸を開けてみると、一人の男がゼイゼイと息を切らしながら立っていた。 「すいません、私はこの辺で猟をしていた者ですが、鉄砲を谷底へ落としてしまいました。おまけに道にも迷ってしまいまして、あれこれ歩いて、やっとここへたどり着いたのです。申し訳ないのですが、ここに一晩泊めてもらえませんでしょうか?」 と、男は頼んできた。 そういうことなら、と、宿の主人も快く了解した。焼いていた鳥を男に食わせてやると、男も喜んでうまそうに食べる。しばらく談笑していたのだが、隣で寝ていた8歳の子供が起きあがってきて、 「お父ちゃん、あの人怖いよう!」と、いきなり男を指差して泣き出した。 「何が怖いんだ? 怖い人じゃないだろう?」と、主人も一生懸命子供をなだめるのだが、泣き方は激しくなるばかりだ。その上、旅館で飼っている犬までもが激しく吠えだした。 このままではどうにもならないと思った主人は、 「申し訳ありませんが、子供がお客さんを怖がってしょうがないのです。何か犬まで怯えているようでして・・。まことにすいませんが、今日はどこか別の宿に泊まっていただけませんか?」 と、話を切りだした。すると男は急に青ざめたような顔になり、「わ、分かりました!」と言って逃げるように旅館を出ていった。 男の行動もちょっと不審に思ったが、後で子供に何が怖かったのかを聞いてみると、 「あのおじちゃんの後ろに血だらけの女の人がずっと立っていたんだ。その女の人は、僕を見てはゲラゲラ笑うんだよ。」 と、まだ怯えたように言うのだ。 子供の真剣な訴えは、まんざら見間違いとも言いきれない。主人は何かいいようのない恐怖を感じて、子供たちと一緒に眠れぬ一夜を過ごした。 そして次の日。この旅館に警察がやって来た。聞けば、富山の方で、女性を殺して逃亡している犯人が、この山に逃げ込んだという情報があるのだが、それらしい人物を見かけなかったか、というのだ。 昨日の男は、あまりにも「それらしい人物」だった。主人は、すぐに警察に昨日の出来事と、その男の特徴などを伝えた。そしてまもなくして、犯人はこの近辺で捕らえられた。 捕らえられた犯人が言うには、 「殺した女がずっと私につきまとっていたんです。恨みのこもった顔が頻繁に目の前にちらついて・・。私についてきては、恨みの言葉をずっと投げかけていたのです。怖くて怖くてたまりませんでした。」 と、供述したという。 |