Top Page 心霊現象の小部屋 No.56 No.54
今から30年以上も前。川上さん(仮名)は、当時東京で大学に通っており、ある下町で一人暮らしをしていた。学生のころといえば貧乏が当然である。住んでいる部屋といえば四畳半一間で風呂もない。風呂はいつも近くの銭湯に行くのが普通であった。 ある晩、川上さんがいつものように銭湯に行こうと道路を歩いていると、向こうの方で何か二人が争っているような声が聞こえる。雰囲気からして二人ともヤクザ者のようだ。もめごとに巻きこまれてはまずいと思い、川上さんはとっさに物陰に隠れて様子を見ることにした。 しばらく怒鳴りあいが続いた後、片方が刃物を抜いた。刃渡り数十センチの刃物が月の明かりに照らされてギラッと光る。そしてその一瞬後、揉み合いとなり、片方が腹を抑えてうずくまった。もう片方はハアハアと肩で息をしながら辺りを見まわし、誰もいないことを確かめると走って逃げていった。 「刺された!」川上さんは人が刺される現場をもろに目撃してしまったのだ。だが刺された方もまだ死んではいない。いくら関わりたくないといっても目の前で人が死のうとしているのを見過ごすわけにはいかない。 すぐに駆けよって声をかけた。「今、救急車を呼びます!そのまま動かないで!」 腹からは激しく出血している。だが、川上さんが驚いたのは血よりも、刺されたヤクザの顔である。それはまぎれもなく川上さんの高校時代の同級生の山形だったのだ。 「お、お前、山形じゃないか!」 山形は高校の時からワルで通しており、高校を出てからヤクザの構成員になっていたのだ。それが川上さんと同様、上京し、川上さんのアパートのすぐ近くに住んでいたのだ。ものすごい偶然の再会であった。 「か・・川上か・・。こんな所でお前に会うとはの・・。お前もこの辺住んどったんか・・。ワイはもうだめじゃ。意識が遠くなってきたわ。最後にお前に頼みがあるんじゃが、聞いてくれるか・・?」 「しゃべるな!すぐに救急車がくるから!」 「ワイが刺されたのは組織の金を着服したからじゃ。もう死んでいくワイにはその金は必要なくなったが、せめて田舎のお母ん(おかん)に、その金を届けてくれんか・・?お母んは病気なんじゃ。その金があれば病院にも行けるけぇ・・。」 金の隠し場所を教えると山形は意識を失った。まもなく救急車は到着したが、結局山形は助かることなくこの世を去ってしまった。 数日後、川上さんは山形に教えられた場所を訪れた。あいつは花壇のブロックの下に金を埋めたと言った。掘りだしてみると、確かに袋に入った札束が出てきた。金額は100万円。30年前の100万円といえば大金である。 川上さんはその金をとりあえず自宅に持ちかえったが、ここでいろんな考えが頭をよぎり始めた。川上さんも金に困っている。授業料も家賃も滞納し、生活も苦しい。この金が自分のものだったらどんなに助かることか。 考え抜いたあげく、この金を着服することにした。川上さんは滞納していたものを全て払い、何年か経って大学も無事卒業した。 卒業してから何十年か経ち、会社勤めを経験した後、自分で会社を興(おこ)した。事業は毎年順調であった。そしてある晩、川上さんは仕事関係の友人たちと一緒に飲みに出た。 その飲みに出た先で、酔った勢いもあって、あの時のことを喋ってしまったのだ。もう、30年くらい前のことだ。今まで人に言ったことはなかったが、もうそろそろいいだろう。川上さんの話を聞いた友人たちは盛り上がり、「じゃ、今からその現場に行ってみよう」ということになった。 ここから歩いて15分くらいの場所だ。川上さんは気がすすまなかったが、みんながはやしたてるのでしぶしぶと案内することにした。歩きながら当時の町の様子などを話し、次の角を曲がったら現場につく、という所まで来た時、突然その角から男が飛び出してきた。 男はそのまま川上さんに体当たりするようにドシンとぶつかった。 「ぐああああああっ!」 突然川上さんが悲鳴をあげてその場にうずくまった。男の手にはナイフが光っている。刺した男は一見してヤクザと分かるような男であり、そのまますぐに走って逃げて行った。 友人たちが駆けよると道路にはおびただしい出血が血溜まりを作っていた。 「か、川上さん!大丈夫か!」みんながびっくりして声をかける。すぐに救急車が呼ばれて病院に運ばれたが、川上さんは助かることなく、この世を去ってしまった。 取り調べの警察官によると、川上さんは商売上、かなり強引なことをやっており、その線で恨みを買って刺されたのではないかということだった。 みんな、いきなり刺されたことにもびっくりしたが、その時いた友人の一人は、犯人が逃げる間際につぶやいた言葉をはっきりと聞いていた。 「お母んはな、あれから病気と貧乏がもとで死んでしもうたわ。お前のせいじゃ、ドロボー野郎。ざまあみぃ。」 |