Top Page 心霊現象の小部屋 No.65 No.63
ある中学校に赴任してきた花岡さんは、大学を出たばかりの新人の国語教師である。この日は、学校で初めて「宿直」というものを経験するということで、いささか緊張していた。一緒に宿直してくれるのは、山本先生というベテランの先生である。 夜の学校が薄気味悪いことは覚悟の上だったが、この学校には一つ怖い噂があって、「シトシトと雨の降る夜は幽霊が出る」と言われているのだ。花岡さんは、こういう話には滅法弱く、宿直の前から完全に腰が引けていた。折りしも外は夕方からシトシト雨である。 「山本先生、今日の宿直なんですが、雨、降ってますよね。なんかこういう夜には『出る』って聞いたんですが・・。」 「ははは。幽霊の話ですか? そんなのをまともに信じてたら、生徒たちにナメられますよ。私は何年もこの学校にいますが、そんなものは一回も見たことがありませんよ。」 「そうですか?私はそういう話は極めて苦手で・・。」 「じゃ、もうすぐ見まわりの時間ですから、見まわりは二人でしましょう。だったら安心でしょう。」 「すいません、じゃよろしくお願いします。」 一回目の見まわりは夜の9時から10時の間である。まだ真夜中という時間でもなく、それほど怖さは感じられずに終わった。 「どうです?どうってことなかったでしょう。」 「そうですね、ちょっと考えすぎだったのかも知れません。」 そしてそれからしばらく経ち、二回目の見まわりの時間がやってきた。時間は午前2時。ところが頼みの山本先生はぐっすり眠っている。起こすのも悪いかなと思いながら、花岡さんは一人で見まわりに出かけることにした。 だが校舎を一通り歩いていると、急にお腹が痛くなってきてしまった。トイレに猛烈に行きたくなってきたのだ。すぐに近くのトイレに駆け込んだ。そのトイレは「大」をする個室は全部で八個ある。適当なところに入り、すぐにしゃがんだ。 出し終わった後「はああ。苦しかった。」などと思いながら、尻を拭いていると、外の方からぺたぺたと足音が聞こえてきた。 足音はどんどん近づいてきて、そのままトイレの中へ入ってきた。そして個室の一つの戸を、きぃぃ・・と開けて、バタンと閉めた。少し足音が聞こえて、次の戸も、きぃぃ・・と開けて、バタンと閉める。 花岡さんも怖くなって「山本先生ですか!?」 と、問いかけてみた。 「せんせえ・・どこ・・?」 返ってきたのは女の子の声だった。 「こっ、これは、噂の幽霊だ!」花岡さんは恐怖で引きつった。中でおののいている間にも、きぃぃ、バタン、と、戸を開ける音はどんどん近づいてくる。そしてついに足音は花岡さんの入っている個室の前まできた。 「せんせぇ・・いるんでしょ・・?」 気が狂いそうになりながらも花岡さんは沈黙を通した。「返事をしたらダメだ。このままやり過ごすんだ・・!」 どれくらい時間が経ったことだろう。多分、10分以上は経ったと思う。 「も、もう、そろそろいいだろう。」そう思って花岡さんは個室から出ることにした。思い切って、きぃぃっと戸を開けてみた。だが戸を開けた瞬間、戦慄が走った。戸の前には・・花岡さんの目の前にはセーラー服の女の子が立っていたのだ。 「せんせえ・・。」 女の子がじっと花岡さんの顔を見る。目と目が合った。 「うわあああっ!」花岡さんは悲鳴をあげて女の子の横をすり抜け、全力で走った。すぐに宿直室に駆け込み、 「山本先生!山本先生!起きて下さい!」と、必死で山本先生を起こした。 「でっ、出たんですよ!トイレに女の子が!」 「あぁ・・、そうですか・・やっぱり出ましたか。」 「や、やっぱりって・・。」 「いや、その女の子の幽霊は不思議なことに、国語の先生の前にばかり現れるんですよ。花岡先生も国語の先生だから、ひょっとしたら、とは思ってたんですが・・。 これまで歴代の国語の先生はみんな見たそうです。私が見たことがないのは科目が違うからかも知れませんが・・。 なんでもずいぶん昔に、入学して間もないのに交通事故で亡くなった女子生徒がいて、その子じゃないかって言われてます。作文を書くのが大好きな子だったらしいですよ。先生を選んで出るのは、もしかしたらもっと自分の好きな勉強を教えてもらいたいからかも知れませんね。」 「なるほど・・。昔、そんなことが・・。」 もし今度出会ったら、やみくもに逃げずに何とか話をしてみよう・・花岡さんはそう決心した。 |