Top Page 心霊現象の小部屋 No.76 No.74
秋山・田中・近藤の三人は、同じ大学のサークルに所属している仲の良い男子学生である。ある年の花見のシーズン、秋山が「夜桜を見ながら花見をしようぜ。」と言い出した。 こういうことはすぐに意見がまとまり、さっそく近くのA公園でやろうということになった。この辺りはわりと田舎なので都会のように大規模な公園はなく、花見といっても川のほとりや小さな公園でやるのがこの地域では普通だった。 「しかし普通に公園でやっても当たり前過ぎるな。あの近くに墓地があったろう。話のネタに墓地の中で飲んでみないか?」 と秋山が言う。 「でも墓地の中には桜なんてないぜ。」と田中が言うが、 「いや、いいのいいの、飲めれば。」と秋山も切り返し、結局趣味悪く墓地の中で飲み会を行うことになった。 飲むのが目的なので、桜はあってもなくても別にいいのである。 当日、分担通り酒や食い物を準備した三人は、夜の9時にA公園の近くに集合し、公園の花見客を見ながら墓地へと向かった。公園から墓地までは100メートル程度である。入り口を入ると一本道となっており、両側には墓が立ち並んでいる。街頭は立っているので、別に真っ暗というわけではない。 三人が墓地の中を歩いていると、先の方からガヤガヤと話し声や笑い声が聞こえてきた。一瞬ビクッとしたが、よく見るとすでに別の集団が、わりと広いスペースにビニールシートを敷いて、そこで飲み会をしていた。集団は12〜13人ほどで、若い人から年とった人まで年齢は様々いた。会社の飲み会であろうか。 「何だよ、俺たちと同じこと考えてた人たちもいるじゃん。」 と秋山は言いながら、その集団の方へと近寄っていった。別にその人たちに用事があるわけではなかったが、その隣も結構スペースが空いていたので、隣でやらせてもらおうと思っただけである。 「こんばんは。あなた達も花見ですか?俺らもそうなんすよ。隣でさせてもらってもいいですか?」 と話しかけると、その集団の中の40代くらいの男が 「おぉ〜、ええよ、ええよ。隣でやりんしゃい。何なら一緒に飲むかね。」 と言うので 「いや、そうですか〜。ありがとうございます。しかし、あなた方も変わった所で飲み会しますね、俺らも同じだけど。まさか同じことやる人たちがいるなんて思いませんでしたよ。」 と、最初に話しかけたのがきっかけですっかり隣の集団と仲良くなってしまった。 そこは墓地といってもそれほど大きな墓地でもなく、見える範囲に家が何軒か建っている。 「こんな感じなら別に怖くないな。」と、すっかり気が落ち着いて宴会も盛り上がった。 田中がデジカメを持ってきていたので、写真を撮ろうということになり、変わるがわる何枚も撮影した。更に隣の集団の人も巻きこんで、大騒ぎしながら一緒に写ってもらった。 何時間か過ぎ、依然騒いでいたところ、向こうに見える家の、二階の窓が突然ガラッと開いた。部屋の明かりは消えている。気づいた何人かがその窓に注目する。その窓には男か女か分からないが、人が一人立っていて、じっとこっちを見つめているようだ。 「あれはまさか、幽霊じゃないよな。」と、田中が言ったが、 「そーんな訳ないでしょう!あれは普通の人間ですよ!」と、隣の集団の誰かが笑い飛ばした。 その「窓の人」はしばらくこっちを見ているようだったが、そのうちピシャッと窓を閉めてしまった。 そしてその数分後、まだ大騒ぎしているところへ突然警官が二人やってきた。こんな夜中に、しかも墓地の一番奥の方へ警官が見まわりになどくるはずがないのだが。 警官が歩いてきた方向からは、秋山たち三人組の方が近い場所に座っていたので、警官たちはやはり秋山たちに近寄ってきた。 「これは怒られる」と直感した三人はすぐに警官の方を向いて一応頭を下げた。 「こらこら、君たち、ここで何やってるんだ。花見だったらよそへ行ってやりなさい。近所迷惑だろうが。」 やはりこう言われた。 しかし近所迷惑という言葉でピンときた。さっき家の窓から覗いていた人が、警察に苦情の電話をかけたのだ。 「全くこんなにちらかして。まさか小便なんてしてないだろうな。だいたいこんな場所で酒を飲むこと自体、不謹慎だろう。早急に立ち去るように。それからゴミは全部持ちかえるようにな。」 「いやいや、俺らばっかり言わないで下さいよ。隣の集団だって同罪なんですから。人数だってあっちの方が多いし。ちょっとあっちの人たちにもビシッと言っちゃって下さいよ!もう、10人以上で大騒ぎでしたよ!」 秋山たち三人も、それほど罪の意識はなかったし、さっきからの宴会ですっかりうちとけていたので、笑いながら話を隣の集団に振った。 「隣の集団とは何かね。」 「いや、そこの隣に10人以上座ってるでしょう。」 そう言いながら三人はその集団の方を振り向いたが・・そこには誰もいなかった。 ちょっと背中を向けている間に何もなくなっていた。 人がいなくなっただけではない。敷いてあったビニールシートもビールも散らかっていたスルメやピーナッツも何もない。ただ地面が広がっているだけだった。 「あーっ逃げやがった。何てすばやい!」 秋山たちは叫んだ。 「さっきから何を言ってるんだ。私らがここに来た時から君たちしかいなかったぞ。」と警官が言う。 「いや、いたんですよ、もう一つの集団が。そうだ、写真を見せましょう。」 そう言ってデジカメを再生モードにして、さっき撮った写真を一枚一枚再生してみた。 しかし、そこに写っているのは、どの写真も秋山たち三人だけだった。 「そんな馬鹿な!撮った時、再生確認したら、どれもあいつらがいっぱい写っていたのに!」 呆然(ぼうぜん)としている三人に対して 「大分酔ってるみたいだから、さっさと片付けて立ち去るように。」 とだけ言って警官たちは帰って行った。 「俺たち最初っから三人だけだったんだな・・。」 この秋山の一言で全てが理解出来た三人はすぐに片付け、来た時以上に辺りを綺麗にした後、走って逃げた。 |