Top Page  心霊現象の小部屋  No.101  No.99


No.100 親から子へ移動する殺人の夢

現在38歳で、ある会社で営業をしている高森さんは、昔から同じ夢をよく見る。決して気持ちがいいとは言えないその夢は、一ヶ月か二ヶ月に一度くらいの割合で高森さんの頭の中に現れる。

毎回、場所も人物も全く展開だ。


そこは、ある寒い地方の山の中のようだ。雪がちらちらと降っている。夢の中の「自分」は、作業着を着て、大勢の男たちと一緒に働いている。

周りでは穴を掘ったり、重いものを何人かで運んだり、木の杭(くい)を打ち込んだりしており、どこかの土木作業現場のようだ。

男たちはほとんど何もしゃべらず、黙々と作業を続けている。

だが、その中に一人、自分に対してやけに反抗的な男がいる。その男が自分を見る目つきは憎悪に満ちている。そして自分も、その男が非常に憎い。

突然、自分とその男は口論になった。しかし相手のしゃべっている言葉は、どうも日本語ではないようだ。

そのすぐ後、2人とも感情が爆発して、殴り合いのケンカとなった。自分は相手を数発殴ったが、同じ数だけ殴り返された。頬(ほお)の辺りに激しい痛みを感じ、口の中に血の味と臭いを感じた。

「殺してやる。」本気でそう思った。

周りにいた男たちがケンカの仲裁に入り、自分とその男は引き離された。

しかし、どうにも怒りがおさまらない。その日の夜、自分はスコップを手に持ち、あの男の寝ている部屋へと忍び込んだ。

男が寝ているのを確認した瞬間、思いっきりスコップを脳天めがけて降り降ろした。

ゴキッというような、何とも言えない音が響き、スコップは男の頭にめり込んだ。同時に血しぶきが飛び散る。多分、この一撃で即死だったろう。

だが自分はそれでもまだ気が済まない。スコップで顔面や頭、身体をメッタ刺しにした。自分の服も返り血でみるみる赤く染まっていった。手も血でヌルヌルしている。

ズブッ、ズブッとスコップが身体に突き刺さる音が何度も響く。何度か突き刺した時、スコップを突き刺した衝撃で、すでに死体となった男の顔がごろんとこっちを向いた。

頭が割れ、血まみれになった顔だった。


いつもこの瞬間に目が覚める。

悲鳴を上げて飛び起き、横で寝ている妻を起こしてしまうこともしばしばあった。

夢の話は妻にも何度もしてある。あまりにも自分が同じ夢を見てはうなされるので、妻も、「何か隠している恐ろしい過去があるんじゃないかしら。」と疑ったこともあるという。

しかし大の大人が夢のことで精神科に行くというのもみっともない。怖い思いはするが、特に日常生活に支障をきたすというわけではないので、高森さんもそのまま生活を続けていた。

高森さんが初めてこの夢を見たのは高校生の時だった。それ以来、もう何十回も同じ夢を見ており、夢に出てくる風景も完全に覚えてしまった。


ある夏の日、この夢のことで意外な展開があった。

この時、高森さんはお盆休みで、北海道の実家へと帰省していた。実家には倉があり、高森さんは、母親に頼まれて倉の掃除をすることになった。

1年中、フタが閉めっぱなしとなっている箱などは、一つ一つ開けて、中にカビが生えていないかチェックし、風を通したり、ホコリが溜まっていれば、掃除をする。

高森さんが、ある小さな箱を開けた時、そこに一枚の写真があるのを発見した。何気なく手に取って写真を見てみた時、高森さんは心臓が止まりそうになるほどびっくりした。

それはまぎれもなく、あの夢の中にいつも現れる風景だったのだ。

山があり、掘られた穴があり、作業している男たちがいる、もう完全に覚えている、あの建設現場の風景。


すぐに高森さんは写真を持って母親のところへ行った。

「今、倉で見つけたんだけど、これは何の写真?場所はどこ?」

と尋ねると、母親は

「それは、おじいちゃんの写真じゃないかしら。でも、どこの写真なのか分からないわ。お父さんに聞いてみたら?」

と言う。

間もなく出かけていた父親が戻って来たので、高森さんは写真を差し出し、

「父さん、倉で見つけたんだけど、この写真、何の写真か分かる?」と尋ねた瞬間、父親の表情が変わった。

「お前、どうしたんだ?この写真・・。」

「だから、倉の中にあったんだって!この写真の風景って、俺の夢の中に出てくる風景にそっくりだから、気になって・・。」

「夢!? この風景の夢を見るのか!?」

と聞いた父は、明らかに驚き、うろたえているようだった。

父の話によれば、これはやはり父の父親、つまり高森さんの祖父の持ち物であるという。

祖父は、高森さんの父親が高校3年の時に死んでいる。父の話によれば、死ぬ直前には、頭がおかしくなっていたのだという。


高森さんの祖父が生きたのは、主に戦前だった。祖父は、建設関係の仕事をしており、あちこちの現場で監督も務めていたらしい。

この写真は、その中の一つで、ダムを作っている現場の写真なのではないかと父は言う。

ここでは大勢の中国人が日本人に混じって働いていたらしい。だが当時の労働条件はものすごく悪く、怪我をしても病気になっても、ろくに治療を受けられずに死んでいく人が大勢いたということだった。

「これはワシの推測だが、あのダムの現場をやっている最中、おやじは中国人とケンカになり、スコップでその中国人を殺したんじゃないかと思う。

だがその後、そのことは強烈に頭の中に残り、自分を責め過ぎて、最後は頭がおかしくなって死んでしまった。

おやじは46歳で死んだが、おやじが死んで間もなくして、ワシはあの写真の風景の夢を見るようになった。

建設現場、ケンカ、スコップで中国人の頭を叩き割る瞬間・・。何度も何度も同じ夢を見た。
そのたびに悲鳴を上げて飛び起きたもんだ。」


「何だって! 父さんも同じ夢を!?」

詳しく聞いてみると、それは高森さんが見ている夢と全く同じだった。

「ワシはおやじが亡くなってしばらくしてから、母さんに・・だからお前のおばあちゃんだな・・、に、この夢の話をしたことがある。その時母さんは

『お前、お父さんからその話を聞いたことがあるのかい!?』

と言ってびっくりしたような顔をしてたよ。

『父さんは死んでしまったというのに、まだ忘れられないでいるんだねぇ。』

とも言ってた。


その時に確信したな。あの夢はおやじの記憶だったんだと。

理由は分からんが、親父の記憶がワシの夢となって現れ、そして今度はお前の頭へと入り込んだようだ。」

高森さんの父親は、46歳くらいから、パタッとこの夢を見なくなったという。祖父は46歳で死んでいる。そのこととやはり関係があるのだろうか。

そしてそれに入れ替わるかのように、今度は高森さんがその夢を見るようになった。では高森さんも、46歳までこの夢に悩まされ続けた後、次は自分の息子がこの夢を引き継ぐのだろうか。