木と語り合う、素材を生かす。

 いい音をつくるためにいい素材を選ぶことは欠かせない条件。2階の工房に上がってみた。階段の途中からは心地好い木の香り。工房内はさながら木の癒しをうけたヒーリングルーム。窓から見渡す自然の眺めも最高だ。棚には形や種類もいろいろなパーツが作品になるまで長きの休息をしている。ストックされている数は300本分。阿部さんが夢を託すちょうど20年分だ。切る・削る・磨くための道具も驚くほどの数と種類。一本のギターが完成するまでの道程の長さを知るには十分だ。
 まず木をそれぞれのパーツ型に切リ自然乾燥させる。自然乾燥は大体10〜20年。どんなに小さなパーツでも、木の個性を生かすためにはこの長い年月が必要なのだ。次に乾燥した木を重さ・厚さ・弾力を細かく分析して再び切つたり削ったりする。単純な行程だからこそ、精神的なものが影響する。無意識にイメージしながら手は潜在的に動いていく…まさに職人仕事の極み。カンナの刃は硬すぎると欠けやすくヒビ割れしやすいが良く切れる。そういう刃金の欠けたり割れたりしたところを旨く研いでいくと、20〜30年は使える。道具もいい職人にかかれば長い命を与えられ生かされていく。
 加工後はパーツの接着・組立て作業だが、「今日のような雨の日は接着しにくい」。湿度によっては冷房も暖房もかけてやる。なんとギターづくりには肉体的我慢強さも必要なのだ。
 木の種類はもちろん、その木がどういうところで育ちどういう状態で伐採・製材されたかで木の性格が変わってくるという。たとえば表面版につかう松や杉、これは標高1600メートルで育ったドイツ産の松が一番いい。
「木は伐採された後もずっと生き続けている。僕の仕事は、木の性格を読んでそれを生かしてあげることだけ。ストラディバリウス(バイオリン)が200年経った今でも使われ続けている原因はそこにあるんです」。

 
「塗装」にかける情熱が音づくりに影響する

 


TOP PAGE
木と語り合う、素材を生かす。