松もローズウッドもヤニがでる。長い時間かけてヤニが酸化し、木は変化を遂げる。ヤニが多ければ多いほど酸化・乾燥に時間がかかり、その状態が仕上げの塗装に関わっていく。
本来、美観・保護の役目を果たす塗装は、ギターにおいては音づくりの要。塗り具合で音の輝きが変わってくるからだ。
塗装方法とそのプロセスはとても複雑で全作業時間の半分を費やすという。
貝を粉にした「胡粉(こふん)」を板の導管に擦り付け目止めをする。
アルコールで溶かした「キトサン(カニなどの甲らのエキス)」「セラック(昆虫の分泌液から出る掛脂)」を脱脂縮につけ、直接手で塗り込む。
この「タンポ塗り」という昔からの手法をほとんどの職人はスプレー式に代えている。こだわれば技術的にも時間的にも重労働になるからだ。
長い模索の道のりを経て、「自分なりのプロセスを編み出した」阿部さんは、やはり音の探求者なのだ。
ギターは語りつくせない自然と時間と技術の営みから生まれた自然の造形。
「ギター作りはスパンの良い仕事、百年後、自分の楽器がどう評価されているか見てみたい!」
と少年のように瞳を輝かせていた。