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§ネタバレなしのあらすじ&感想§

・・・//『荒涼館』のあらすじ//・・・

エスタ・サマソンは幼いときから両親の顔も知らず、伯母に育てられた。伯母のバーバリ夫人から「なみなみならぬ罪と天罰とを受けて生まれてきた」と聞かされていた彼女は、より善良であろうと常に努力していた。
伯母も亡くなり、身寄りの無くなった彼女を後見し、学校にやったのちに手元に引き取ったのは、ジャン・ジャーンディス、という人物だった。彼が後見しているエイダ・クレアのお相手役として、そしてのちには彼らが住む『荒涼館』の家政を一手に引き受け、エスタは幸せな生活を送っていた。
ジャーンディスは先祖から引き継いだ訴訟事件『ジャーンディス対ジャーンディス事件』の当事者であったが、この訴訟からはできるだけ遠ざかっていた。(※ジャーンディス対ジャーンディス事件とは?・・・もともとは遺言書とそれにもとづく信託財産に関する訴訟だったらしいが、いまではただ訴訟費用に関する事件になってしまった。昔ジャーンディスという男がたいそうな身代をつくり、遺言書も残したが、遺産は遺言にもとづく信託財産をどう処分するかという問題で使い果たされ、あとは訴訟費用と、弁護料と膨大な関係書類に埋め尽くされているらしい。)

エスタやエイダはこの事件がきっかけで、自分をこの事件の当事者だと思いこみ、毎日法廷に出かけている狂ったおばあさん、ミス・フライトや、彼女が下宿しているくず屋の主人クルックとも近づきになる。またジャーンディスの知り合いの慈善事業家ジェリビー夫人の家に世話になったことから、慈善で頭がいっぱいの母(ジェリビー夫人)の目にもとまらない、彼女の子供たちキャディピーピィとも知りあい、はじめ反発したキャディとはやがて生涯の友となる。

チェスニー・ウォールド荘園に住むレスタ・デッドロック卿ホノーリア夫人は、夫人がジャーンディス訴訟の関係者だったことから、弁護士タルキングホーンから、この訴訟についての報告を聞いていた。そのとき夫人が一枚の書類に興味を示したことから、タルキングホーンはこの書類を書いた代書屋を探し出す。ところがタルキングホーンが代書屋ネーモー(誰でもない、の意)を訪ねたそのとき、彼は不審な死を遂げていた。その場に居合わせた医師のウッドコートは、その後エスタたちとも交流する。クルックの下宿人でもあったネーモーと、生前親しくしていた浮浪少年ジョーが、貴婦人の侍女を名乗る女から、その死の様子、墓の場所などを訪ねられていたことが分かり、ジョーは否応も無くこの事件に巻き込まれてしまう。

人はいいのだが、職業について一人前にやっていくことがなかなかできないという欠点を持った好青年リチャード・カーストン(エイダのいとこ)は自分もジャーンディス訴訟の当事者であることから、いずれこの訴訟で大金が手に入るという考えに取りつかれてしまった。リチャードと愛し合うエイダは、このことが原因でジャーンディスとリチャードの仲がうまくいかなくなっていくことに心を痛めていた。

キャディの結婚など、身辺の出来事を楽しんでいたエスタにも、やがて恐ろしい運命が待っていた。浮浪少年ジョーが図らずももたらしたこの悲劇に耐え、エスタは立派に立ち直り、ジャーンディスの「荒涼館の主婦になって欲しい」という言葉を受け入れるが、さらに彼女に関する秘密が、大きな波となってたくさんの人々を飲み込む結果となる。やがてジャーンディス訴訟も終結を迎え、人々は新たな旅立ちのときを迎える。

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・・・//感想//・・・

善良で控えめながら、鋭く公平な観察眼を持つエスタ・サマソンという女性の目から見た物語と、作者の「全知」の視線(訳者による解説より)からの物語が交互に描かれる、という形式を取った小説です。前者はやや感傷的ながら、ほのぼのとした優しさに包まれており、その形式上どうしてもやや狭苦しいものにもなっているのに比べ、後者は非常に暗く厳しく、その分自由奔放に視線をめぐらせ、世に出ない、取るに足らない人々の真実の姿を描き出し、幅の広いものになっていると思いました。
この二つを組み合わせた構成の妙に加え、主人公エスタそのものに人物としての面白さはあまりないのですが、その周りに配した人々の個性はくっきりとしていて、とくにあまり重要ではない(?)人物にほどこした造形には傑作なものが多いように感じました。それがエスタの物語を彩りゆたかなものにしており、退屈から救ってくれます。

読み終わった今感じているのは、非常に豊かな物語を読ませてもらったな、ということですね。たくさんのディケンズ作品を読んだことがあるわけではないので、他のどの作品と比べる手段ももちませんが、なんだか、「あ〜、やっぱりディケンズなんだなぁ」というのが素直な気持ちです。

エスタは最後に『荒涼館』の主婦となり、愛する人と結ばれます。さて、いったい誰と、どんなところで?謎です・・・(^_^)

ネタバレありのあらすじ&感想も、いつか読んでみてくださいね♪

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