四人の女…Follow,As the Night… | 1949 |
パット・マガーPat McGerr(吉野美恵子訳・創元推理文庫) | |
夜半を過ぎたニューヨークの閑静な地域で、その事件は起こった。女の鋭い悲鳴、それと前後して起こった、身体が舗道に激突する胸の悪くなるような鈍い音…。一体墜ちたのは誰だったのか?物語は人気絶頂のコラムニスト、ラリーのアパートでの一こまに遡る。ぐらつくテラスの手摺…「落ちたら舗道までだいぶかかるな」…まさにこのとき、ラリーは彼女を殺そうと決意したのだ。パーティーを開くのだ、入居祝いの内輪のパーティー。そのパーティーに招かれる光栄に浴するのは、前妻シャノン・現妻クレア・愛人マギー・婚約者ディーの「四人の女」。 ★★★「被害者探し」の傑作! あの手摺はもっとぐらぐらになっても不思議はない。ぐらぐらになったあげく、どんと一突きではずれてしまっても。彼女をテラスに誘い出し、自分は手摺に向かいあい、彼女は手摺に後ろむきによりかかるように、うまく持っていけばいいのだ。…ラリーはそのために、ささやかなパーティーを計画しますが、招待客の顔ぶれは物騒きわまりなし!前の妻に、今の妻、愛人に、妊娠中の婚約者。一体彼は誰を殺そうとしているのでしょうか?ところが、前の妻のシャノンは偶然にも崩れかかったテラスの手摺を見つけてしまいます。聡明な彼女はラリーの企みに気がつきますが、彼の狙いが誰にあるのかまでは分かりません。彼に罪を犯させたくない…シャノンはそっと様子をうかがい、殺人を未然に防ごうとします。 ストーリーは、最初に「誰かが」墜落して死亡する場面から、過去へと遡り、ラリーと最初の妻シャノンとの出会い、結婚、別れと同時のクレアとの結婚、隠された家族との確執、順調な出世と内なる劣等感、自己満悦と自己嫌悪、虚ろな勝利感に彩られた人生・・・陰と陽のドラマチックな展開が、全く飽きさせずに程よい緊張感をもって進んでいきます。 まっとうな(まっとうすぎる)感覚を持ったシャノンは、ラリーの真実の心を映し出す鏡。何かに成功し、勝利に酔いしれるたびにシャノンの目を感じてしまうラリー。そういう存在としてのシャノンの造詣は見事に成功していますね。マギーも非常に個性的で、他の三人にはない「人生の面白さと深み」を感じさせる存在。クレアもディーも、作者の意図した人物として見事に描かれているとおもいます。そしてこの「四人の女」が愛する(あるいは執着する、利用する?)ラリーという人物。成功したはずなのにつねに敗北感に苛まれるラリーの姿は、何か真に迫って心を打ち、卑劣な殺人計画にもつい同情したくなったりします。 最初に墜落のシーンを入れたことで、「誰が?」という謎解きが主題だと思われるかも知れませんが、そんなことは抜きにしても、一つの人間ドラマとして十分読ませる作品になっています。過去と現在(四人の女が顔を合わせたパーティーの様子)とを行ったり来たりする構成も、読みにくさは全くなく非常にスムーズでストレスなく読めるし、登場人物は少ないのに間延びはしていない。とにかく面白かったです〜♪おすすめ!海外ものを読みなれない人にも、読みやすいとおもいますよ(*^^*) | |
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暗い鏡の中にThrough a Glass,darkly | 1949 |
ヘレン・マクロイHelen McCloy(高橋豊訳・HM文庫) | |
「どうぞお掛けになって、クレイルさん。じつはあなたには気の毒な悪い知らせなのですが……」ブレリートン学園の美術教師フォスティナは、学園長から突然の馘首を言い渡された。呆然としてその理由を問いただすフォスティナに対し、園長は「それは説明できません」の一点張り。「あなたがこの学園を破滅に導く可能性があるということになった以上…」とにかく出て行ってくれということなのだ。よろめくようにしてその場を去るフォスティナ。彼女にとってこの経験は初めてのことではなかった。やがて、フォスティナの去った学園で、奇妙な事故死が・・・。 ★★★ずっと探してた絶版本、ようやく見つけました(*^^*) 孤独な女教師フォスティナが職場を追われることになった真の理由とは…?え〜っと、この作品って有名だからみんな知っているのかなあ。けっこうその「理由」でストーリーをひっぱってて、80ページぐらい進んだところでようやくその「理由」が明かされるのですが、ここまで結構ワクワクするのですよ〜♪というのも、私はこの作品に関する予備知識がちっともなく、しかも裏表紙に書いてあるあらすじも読まずに本文にはいったものですから。もし、真にこの作品を楽しみたかったら、裏表紙は先に読まないほうがいいと思いますです、はい(^^ゞ・・・というわけで、その「理由」についてはここでは触れないことにします。 とにかく、私好みの作品で、ゴシックロマンって言うんでしょうかね♪ホラーって言うんでしょうかね♪♪でも、ホラーっていっても今時の気持ちワリイこけおどしの作品じゃなくって(失礼^^;)繊細でエレガントな雰囲気のなか、微妙〜な恐怖感がつのるって感じ。特殊な状況ではなく、普通の生活の中にうっすらと漂う、生活の中に溶け込んだ影の部分にある何か。女流作家らしいきめ細かな描写を淡々と積み重ねているのがとても効果的に雰囲気を盛り上げています。主人公であるフォスティナの影の薄さも、かえって犠牲者としての悲劇性を感じさせるし。好きですねえ、こういうの(*^^*) ところが、終盤にはなかなか引き締まった合理的な推理が披露され、がぜん本格推理ものの様相を呈してきます。もちろん、こういう科学的な見解の提示があるとのは当然ですよね(謎解きそのものは結構面白いし。しかし、こんな成功するかどうかわからない犯罪にしては手がかかりすぎてるけど^^;)。でも、こういった解決がされないと満足いかないとおっしゃる方も多いのかもしれませんが、理論がまっとうすぎて強すぎて、ワタシ的にはちょっとぶち壊しって気分。フォスティナの影の薄さがここでやや逆効果になってしまった感もありでしょうか。最後にこの解決をもってきたとしても、なお不可思議感の残る怪異性の方を強くだしてもらいたかったなあ。この世には、合理性を凌駕する「不思議な何か」があるっていうほうが面白いじゃん! | |
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皇帝のかぎ煙草入れThe Emperor's Snuff-Box | 1942 |
ジョン・ディクスン・カーJohn Dickson Carr(井上一夫訳・創元推理文庫) | |
イヴ・ニールとネッド・アトウッドの離婚が成立した。ネッドはまだまだ、未練たっぷりという様子だったが、イヴはきっぱりと拒絶したのだ。ネッドが出て行ったあとの屋敷で、イヴはひっそりと過ごしていたが、やがて真向かいの家にすむトビイ・ローズと知り合いになり、ローズ家とも親しく付き合うようになる。ところが、トビイとの婚約が発表され、幸せな日々を過ごすイブに悪夢のような出来事が起こる。トビイの父親が殺害された事件で、イヴが容疑者にされてしまったのだ。しかし彼女には、アリバイを主張出来ない理由があった。 ★★★「このトリックには、さすがのわたしも脱帽する」とアガサ・クリスティを驚嘆せしめた不朽の名作、だそうです。 イブの寝室からは、トビイの父親であるモーリス・ローズ卿の部屋がよく見えます。骨董収集家でもあるローズ卿がその夜、手に入れたばかりの宝物「皇帝のかぎ煙草入れ」をためつすがめつ眺めているところに賊が侵入(?)、ローズ卿は頭を強打されて死亡、かぎ煙草入れもこなごなになってしまいました。イブは寝室の窓から、誰か茶色の手袋をした人物が出て行き、そのあとローズ卿が死んでいるのをみたのです。ところが彼女はそれを証言できません。なぜなら、彼女の寝室にはその時、全夫のネッドが押しかけて来ていたから。状況は彼女に不利な方向に進み、とうとう逮捕される羽目になりますが、ネッドには彼女のアリバイを証言することが出来ません。なぜなら、彼はある事故が原因で脳震盪を起こし、昏睡状態に陥っていたのです。 とまあ、ロマンチック・サスペンス・ミステリーっていう感じ、しかも本格的なしっかりとしたトリックが根底にあるあたり、クリスティの作品みたいです。カーの作品にしては、登場人物もわりと薄めで、探偵役のキンロス博士も地味な印象。しかし、イヴとの会話の中から、彼女が見たと言っているもの、見たと思っているもの、実際に見たもの、をあぶり出し犯罪を再現していく過程とその手腕はなかなかのもの。トリックそのものに関しては、「なるほど、この描写と、なによりこの題名…!」とだけ申し上げておきましょう。聡明な読者の方なら、これでもバレバレかもしれませんね(^_^;)不可思議、としかいいようのない事実に対しても、合理的な説明をしているし、非常に完成度は高いと思います。イブという主人公の女性も魅力的でよいです。 クリスティっぽい、ということもあって、わたし的には好みの作品ではありました。がっ、私はカーにクリスティなものを望んでいるわけではないので、そういう点ではもう一押し、して欲しかったなあ〜。もっとこう、「そんなんあり〜?おいおい^_^;」と突っ込めるような余地を残してくれてないと、なんだか消化不良なのっ!と手前勝手な不満を残しつつ…でもまあ、面白かったっす♪ | |
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曲がった蝶番The Crooked Hinge | 1938 |
ジョン・ディクスン・カーJohn Dickson Carr(中村能三訳・創元推理文庫) | |
ケント州の古い家柄であるファーンリ准男爵家を受け継いだジョンは、実はにせものの詐欺師だったのか?ほんの15歳のころ、問題を起こし、父によってアメリカに追いやられたジョンはその旅の途中、かのタイタニック号事件に遭遇していた。そのとき。、サーカス芸人の子パトリック・ゴアとの間で身分の取り替えが行われたという。その後二人はそれぞれの生活を送ってきたが、准男爵家の「家督相続」が行われたとなると・・・、というわけで我こそは本物のジョンだと言う人物が名乗りを上げて来たのだ。はてさて真相はどちらに?さっそく指紋の照合が行われている最中に「現在の」ジョンが死亡するという事件が起こる。 ★★★「さしもの名探偵フェル博士も悲鳴をあげるほどの絶対不可能犯罪の秘密?」!! 25年ものあいだ外国で暮らしていたジョン・ファーンリ卿(ということになっている男)が家督相続のために戻ってきました。そしてこの地で、幼馴染みのモーリと結婚、領地も無事に治めてきました。ところがそこにおもわぬ訪問者が!自分こそが本物のジョン・ファーンリであるとして、相続権を請求してきたのです。この人物はタイタニック号沈没の時、身分を入れ替えただけでなく、危うく殺されるところだったと、現在のジョン卿の不法行為を主張します。指紋によって決定的な結果が出ようとするその矢先、ジョン卿は死亡(自殺?それとも他殺?)。事件は一年まえのある殺人事件とも絡み合って、異様な様相を呈してきます。 ストーリーは最初、大変論理的な展開を見せる(っていうかすごくおとなしい感じなのね)ので、いまいちカーらしくないような気がしていたのですが、こういうのも面白いかも〜と期待しておりました。がっ!中盤からがぜんカー節爆発(^_^;)自動人形は動き出すし、魔法の儀式だの悪魔の礼拝だのと怪奇趣味が目白押し。やっぱりカーはこうでなくっちゃ(笑)とはいっても、幾つか不満点もありますね。フェル博士の人間離れした全知全能ぶりもちょっと行き過ぎのような気がするし、せっかくの要素が生かしきれてないような消化不良な感じも受けました。全体としてはやや広がりすぎの雑然とした印象が強いかも?しかし、最終的には何とか収束させているのはさすがと言うべきかしら(笑) 最後のどんでん返しに次ぐどんでん返しは、真犯人の意外性という点では評価できませんが、面白かったです〜♪フェル博士の種明かしだけでも十分堪能できたのに、まだその先があったなんて〜!ほとんど呆れ笑い状態ですが、カーなので許してしまいます(^_^;)(多分、他の作家のだと怒髪天)でも、どっちかと言うとフェル博士の出した真相のほうが面白いのよね。実はこっちが真相なんじゃないの〜?などとひそかに思ってるのですがどうでしょうか(笑) | |
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細工は流々Remove the Bodies | 1940 |
エリザベス・フェラーズElizabeth Ferrars(中村有希訳・創元推理文庫) | |
ある夜、突然トビーのもとを訪ねてきて、十五ポンドの借金を頼んできたルー。「でも、理由は言えないの、誰にも」。翌朝、トビーの振り出した小切手を握り締めて姿を消したルーが殺された?!何者からかの電話でその事実を知らされたトビーとジョージは、彼女が殺された現場であるウィルマーズ・エンド邸へと乗り込む。ルーは鼻詰まりの薬とすりかえられた毒物を吸引して亡くなり、トビーの振り出した小切手は盗まれていたという。現場を捜索するうち、トビーとジョージは屋敷のあちこちに奇妙な仕掛けが施されていることを発見する。推理小説のトリックを実践しているかのようなこの仕掛けを作ったのは一体誰なのか? ★★★トビー・ダイク&ジョージシリーズの第三弾。 ある日の夜中、トビーに突然の来客。「信じられないくらいのお人よし」で「本当にいい娘」のルーがトビーに借金を申し込んだのです。一体どうしたのか、といくら訪ねても、ルーはその理由を明かしませんでした。ただ、ルームメイトのドルーナに対してすこし神経質になっている様子。トビーの小切手をもって姿を消したルーが殺された屋敷では、女主人イブのほかに、一癖ありそうな人々が目白押し。イブはルーが「いま、ここで」殺されたことに、カンカンに腹を立てています。やがて屋敷内に奇妙な仕掛けが発見され、人間関係のねじれも見え隠れ、新たな殺人事件勃発・・・と事態は混沌とした状況を呈してきます。 と、あらすじを書くとけっこう面白かったのかなあ〜?とも思えますが、あんまり面白くなかったです(^_^;)屋敷に何故かたくさんの人が滞在しているのですが、いまいちキャラが浅いというのかなんというのか、印象が弱いので頭が混乱してくるのです(私の頭が弱いんだよね、多分ね)。ストーリー展開も、ど〜もまとまりが感じられないし…ジョージが「耳が聞こえない」真相なんて、何なのそれっ?!(~_~;)って感じだったし…ジョージが何か言いかけるたびに邪魔が入るのっていう手を使いすぎなんじゃないかな(笑)真犯人も、まあこの人ってことになるんだろうなあ、とは思いましたが、説得力には乏しい気がしますね。探偵役に関しては、トビーが深みがなくってイマイチ好きになれないのはともかく、ジョージの方もあまりにも正体不明すぎて、今回は魅力があったとはいえないです。ただ、細かい伏線をたくさんはってあるので、注意深く読むタイプの人には面白いんではないでしょうか。 | |
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ムーチョ・モージョMucho Mojo | 1994 |
ジョー・R・ランズデールJoe R.Lansdale(鎌田三平訳・角川文庫) | |
それは七月の暑い日のことだった。バラ園でとんでもない仕事に従事していたハップのもとへ、親友で黒人でゲイのレナードから電話が入ったのは。「叔父貴が死んだんだ」−叔父の遺産である家と十万ドルと封筒一杯の期限切クーポン券を相続したレナードは、ハップとともに家の修理をはじめた。腐った床をはがしたところ、出てきたのは金属製の黒いトランク、そして中に入っていたのは・・・子供の骨と児童ポルノの雑誌の束だった!叔父貴はそんな変態だったのか?俺がゲイだってことに仕返しをしたのか?悩むレナードだったが、やがて誰かが叔父を殺人犯に仕立て上げようとしていたのではないかと気付く。 ★★★ハップ&レナードシリーズの第二作目。『ムーチョ・モージョ』とは、スペイン語で「ずいぶん悪い魔法」っていう意味だそう。 ストレートの白人であるハップと、ゲイの黒人であるレナードという異色コンビが、テキサスの肌をじりじりと焼く太陽のもとに繰り広げる痛快・ハードバイオレンス・悪漢小説・・・読み出す前のイメージとしてはどっちかというとドタバタユーモアものって言う感じだった。 叔父の家の床から出てきた子供の骨。地域ではここ数年にわたって黒人の子供の失踪事件が毎年起こっていた。叔父は警官に憧れて、自分で事件を解決するつもりになっていたのだろうか?被害者が黒人であるということから、地元の警察は捜査に力が入っていなかったのだ。このままでは黒人である叔父に全ての罪を着せて、事件は解決ということになってしまうだろう・・・レナードの思いは、そのまま、いまだに残る人種差別への憎しみ、白人との確執とつながっている。白人であるハップと、黒人弁護士フロリダの関係も微妙だった。ファックする仲にはなれても、「愛し合う」可能性はあるのかどうか・・・? テンポのいい台詞回し、スピーディーな展開は、期待通り(以上?)の面白さだった。こういう形の小説は、リズミカルな場面転換が一番魅力的だったりするが、セリフなどが上滑りなものになりがちな嫌いもあるようにも思う。ところがこの作品は、表面の軽さ、下品さとは裏腹に、とても重いもの、シリアスなテーマを感じさせる。この作品のパワーは、ハップとレナードの魅力がその全てではないかと思ったのだが(なぜかというと、いわゆるミステリの部分は組み立ても意外性も全て平凡だから)、これがまた、とんでもなく魅力的なのだ。タフなだけでなく、クールなだけでなく、妙に「あたりまえ」で、人間的で、ナイスガイだが、いい加減で、ちょっと(かなり?)ダメなやつで・・・、いいよ〜この二人(^^ゞ解説では「史上最低、品性のかけらもない毒舌コンビ…」という紹介がされているが(無論これはホメ言葉なんだろうけど)私はちょっと違う印象をもった。こう見えて繊細なんだよね、この二人(笑) ただ、全体的には単調な感じがした。リズムの刻み方にもう少し工夫があったら、中だるみせずもっと楽しく読めたような気がする。 | |
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七人のおばThe seven deadly sisters | 1947 |
パット・マガーPat McGerr(大村美根子訳・創元推理文庫) | |
幸せな結婚をして英国に渡ったサリーは、アメリカに住むおばに子供が生まれることを知らせていた。やがてアメリカから一通の手紙が。きっとおばさまからだわ!喜ぶサリーだったが、その手紙(実は学校時代の女友達からのもの)は思いもよらぬことを知らせてきたのだった。「…お家を遠く離れたところで、おばさまがご主人を毒殺したと告白されたのを耳にするなんて、さぞ恐ろしいことでしょう…」混乱したサリーは考えた。一体誰が誰を殺したというのだろう?だってサリーには七人のおばがいるのだから。詳しい事情がわからないまま、サリーは夫ピーターに、七人のおばについて語り始める。 ★★★戦後『恐るべき娘たち』のタイトルで紹介された作品で、安楽椅子ものの傑作。 友人ヘレンから奇妙な手紙を受け取ったサリー。「一言お悔やみを申し上げたくて」で始まるその手紙によると、おばが夫を毒殺したとのこと。だがいかにもヘレンからの手紙らしく、どのおばがどんな理由で殺したのかといった、詳しい事情は何も書いていません。当然ヘレンはサリーたちもこの事件のことは知っていると思っているんですね。しかし突然こんなことを知らされてサリーは大混乱。すっかり興奮したサリーは夜も眠れません。そこでピーター相手に七人のおばたちの物語を話して聞かせることにしました。自分が人殺しの家系に属しているなんて、と嘆くサリーですが、彼女の口を通して語られる七人のおばの物語は確かにかなりイカレてて、サリーが不安になるのも尤もかもって感じです(^_^;) とにかく、女が七人(クララ・テッシー・アグネス・イーディス・モリー・ドリス・ジュディ)にそれぞれ夫が出てくるわけですから、最初は頭の中は大混乱です。しかしやがて、何の苦もなくこの七人のおばさんたちの区別がつくようになるから不思議。キャラ一人一人の色づけがすっごく巧い!その中には夫毒殺事件にいたる一組の夫婦ももちろんいるのですが、エピソードとキャラと物語の展開が妙につぼにはまってて、わたしなんてそのことの裏にどんな意味が隠されていたのかも気がつかず「けけけっ、やっぱりそんなことになると思ったよ」などとほざいていたのでした(爆)わかる人にはわかるんでしょうけど、私は全然気がつかなかったですね〜(^^ゞ謎解きの部分は確かにやや薄味ではありますが、この作品には大仰な謎解きは必要ないでしょう。 基本的にはサリーの語りなので、サリーの視点からのみで描かないといけないわけで、ちょっと難しいんじゃない?と思ってたんですが、不自然さは感じさせなかったですね。どっちかというとユーモアミステリかな、と思いながら読み始めたのですが、内容はかなり辛辣で読み応えもあったし、軽くウンウンと頷きながら読んだり(ちょっとした人物描写が秀逸なんです)、重く考えさせられたり、苦く笑ってしまったり・・・七人分の悲喜劇がこのページ数でたっぷり楽しめるんだから、これはお買い得ですよ♪おすすめ! | |
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三つの棺The Three Coffins | |
ジョン・ディクスン・カーJohn Dickson Carr(三田村裕訳・HM文庫) | |
馴染みのクラブで友人たちと吸血鬼談義を楽しんでいたグリモー教授に、見ず知らずの男が話し掛けてきた。危険な弟、三つの棺などといった奇妙な言葉を残して去ったその男の正体は、場末のミュージック・ホールに出演している奇術師のフレイだった。友人ランポールから、グリモー教授がフレイから土曜日の訪問を予告する手紙を受け取ったと聞いたハドレイ警視とフェル博士が教授宅に駆けつけた時、すでに惨劇は行われていた。完全な密室の中で、教授は胸を撃たれて瀕死の状態だったのだが、不思議なことにその直後、フレイも道路の真ん中で射殺されてしまう。二つの不可能犯罪と、三人兄弟の謎とは? ★★★フェル博士の口を通して語られるカーの密室談義が大変有名な作品です。 なんといってもこの作品の面白さは、中部ヨーロッパに伝わる吸血鬼伝説や、それから連想される三人兄弟の墓場からの脱出劇の怪奇な雰囲気が、非常にうまく取り込まれているところでしょう。グリモー教授はかつて、ある政治的な犯罪人として(実はただの強盗)捕えられ、やがて感染病に罹り二人の兄弟とともにトランシルヴァニアの山中に埋葬されたのですが、ある手段で復活し、その後イギリスで成功をおさめた人間だったのです。ドレイマンによって語られるこの話は、語り手の個性もよく描かれているし、墓場の盛り土からもがきでる黒い手・・・なんていう描写にはぞくぞくしますね。私の読んだ本の表紙は三つの棺が描かれたものなんですが、以前のバージョンではこの場面がそのまま絵になっているとか。なかなかシュールですねえ。 グリモー事件の後、フレイがまた不可能状況で殺されるという事件も起きるし、コートの謎などもあって盛りだくさんなんですが、途中のロゼットとバーナビーの話あたりではやや中だるみ。どおでもええわ(ーー;)と思っていたらフェル博士の密室談義が始まってちょっと目が覚めました(笑)ここまでくると後は一気に。謎ときそのものは、非常にたくさんの伏線があったみたいなんですが、全然気がつかなかった〜。ま、まさか、そんな解決あり?!という感じですので、未読のかたは是非一度読んでみてくだされ(^^)でも時計の件はね〜、いくらなんでも誰かが気がつきそうなもんじゃん、と思うんですが(笑)その点だけは?だけど、それ以外は面白いっ!登場人物も個性的でうまく使われていると思います。こういうのって、味気なくなったり、馬鹿っぽくなったりしがちなんだけど、怪奇ものの雰囲気を絡ませて味わい深い作品に仕上げているのはさすがさすが。カーにはやっぱりこういうのを期待してしまうんだけど、裏切られませんでした♪ | |
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